3話 ウンコするだけで褒められる人生。
3話 ウンコするだけで褒められる人生。
「美しき光……あなた様こそが全て……リラ・リラ・ゼノリカ……」
この『リラ・リラ』ってのは、喝采や称賛など、俺を讃える全てが含まれた言葉。
翻訳すると『美しき神の光。御側に近づきたく存じます。ああ、神よ――』と、この先もまだまだ続く、クソ長い聖歌。
正気じゃねぇ。
これに関しては完全にモラハラだ。
「……その讃美歌、マジでやめようぜ。俺に嫌がらせをしたい気持ちは分かるんだが、流石に、このイジメは看過できねぇ。お前ら、人の心とかないんか?」
「ふふ……『あなた様』の唯一の欠点は、その『過剰に低すぎる自己評価』でございます」
「……ウンコするだけでも褒められる人生を想像してみろ。それが俺の率直な気持ちだ。ほら、耳をすませば聞こえてくるだろう? 俺の自尊心が崩れ落ちる音が」
……ここで、誰にも言ったことがない俺の本音を、一つだけ述べておく。
俺は、『目の前の敵を殺し続けただけ』で、『世界を完璧に救済した』ってわけじゃない。
俺は本当に尊くない。
救えた命も多いが……こぼれ落ちた命だって数えきれないほどある。
長い旅路の果て、宇宙全てを演算している汎用量子コンピュータ『コスモゾーン』と融合したから、『生命の生死』に対して多少は融通が利くようになった。
けれど、全ての命を自由自在好き放題ってわけじゃねぇ。
普通に『限界』はある。
弱すぎる命とか、何千年も前に死んだ命とか……そういうのは蘇生できねぇ。
パソコンのサルベージ作業なんかを想像してくれたら分かりやすいかもしれない。
遥か昔に俺の手から零れ落ちた命は、今もそのまま。
――今でも夢に見る。
『ユズ』の顔。
昔、まだ俺が『神』ではなかったとき、
『1万匹の蟲魔』と戦った際、
俺に救いを求めた、小さな女の子。
『せんおにいちゃん……たすけて……』
崩れたガレキの下。
血だらけで俺を呼んでいた。
あの子の声を今でも思い出す。
俺に力が足りなかったから救えなかった。
バグを殺すのに手いっぱいで、弱い命を救う余裕は皆無だった。
まだ『人』だった当時の俺にできることは限られていた。
『せんおにいちゃん……どうして……』
――この手からこぼれた命は、他にもたくさんあるのに、
あの子の顔と声だけが、なぜか、強く心に刻まれている。
コスモゾーンと融合した今でも、彼女を救うことはできない。
救えなかった命ばかりを数えても意味ねぇ。
わかっている。
だから、普段は心にフタをして、ピエロの仮面をかぶって、前だけ向いてきた。
けど、ふとした瞬間に思い出す。
特に、こうして、『バカみたいに褒められている時』なんかはな。




