30話 ハグとキスはダメだぜ。
30話 ハグとキスはダメだぜ。
空気が、再び重く沈む。
そこに、レンが口を挟む。
「……あの妙な子供は『存在値がない』って可能性もあるっすね。単なる概念の具現化みたいな感じで、生命体ではない……みたいな」
先ほどまで激情に任せていた人物とは思えないほど、論理的な切り口だった。
感情を一度吐き出したことで、思考の余白が生まれたのかもしれない。
その発言に対し、ペンが、わずかに口元を歪める。
「いい考察だぜ。賢いじゃないか。ご褒美に頭ナデナデしてやろうか? それとも、たかいたかいがいいか? ハグとキスはダメだぜ。そこまでを望んでいいほどの功績じゃない」
場の緊張を意図的に踏み潰すような声音。
軽薄の道化。
「一ミリでも触ったら殺す。二度と、ボクにしゃべりかけんな、カス。ロリコン、性犯罪者」
間髪入れず、感情を一切隠さない拒絶。
先ほどまでの理性的な分析とは打って変わって、純度の高い敵意が、その言葉には込められていた。
レンは、基本、誰に対しても飄々と、飾り気のない『飾り気だけの態度』で接するのだが、ペンに対してだけは、常に感情が乱高下している模様。
★
短い議論の末、彼らは『合理的に行動すること』を選んだ。
立ち止まって考え続けるには、情報が足りない。
かといって、無策で深部へ踏み込むほど愚かでもない。
まずは、森を抜けること。
それが最善と決断。
誰が言い出したわけでもなく、全員の意見は自然と一致した。
木々が密集する森の内部は、昼間であるはずなのに薄暗い。
枝葉が空を覆い、光を細切れにして地面へ落としている。
湿った土の匂いと、どこか生臭い気配が、じっとりと肌にまとわりついてくる。
進むたびに、足元で枯れ葉がかすかに鳴る。
その音は、やけに遠くまで響いているような錯覚を伴っていた。
★
……記念すべきアサルトアルファ最初のエンカウントは『悟鬼』だった。
鬼種の下級モンスター。
低位の魔物特有の濁った気配を纏い、牙を剥きながら飛び出してくる。
腐臭にも似た息を吐きながら、一直線に距離を詰めてくるその動きには、知性らしい知性は感じられない。
単なるシステム線上の本能。
餌を見つけた獣……それ以下の機械的突進。
ペンは、わずかに首を傾け、迫りくる悟鬼を一瞥する。
「勇んで登場してもらった手前悪いが、しかし、流石に、下級モンスターにはビビれねぇよ。こっちにもメンツってもんがあるんでね」
次の瞬間、踏み込みも、溜めもない。
ただ、かるく腕が横に振られた。
それだけで、悟鬼の動きが止まる。
直後、内部から破裂したかのように、その身体が崩れ落ちた。
あまりにも呆気ない決着。
戦闘と呼ぶには短すぎる時間。
反応する余地すら与えない、圧倒的な処理。
だが、その『結果』は、確実に蓄積されていく。
悟鬼を討伐した直後、ペンの装備がわずかに軋むような音を立てた。
『アザトライザー』が、反応している。




