第9話 殿下からの逃亡
「それでこそ僕の婚約者にふさわしい。そろそろ僕のプロポーズを受けてくれないか?」
「でたわね……」
「クソ王子!」
うわでたこいつ!
二度と会いたくないと思っていたのに!
いやまあ同じ学園だからいずれまた会うことにはなるんだろうけど!
しかしなんでこんなところにいるんだ。
「殿下、なぜこのような場所におられるのですか?」
「なぜって、それは僕が君と同じ土属性だからに決まっているじゃないか。まったく。同じ属性とは、これも運命だな」
カノンと似たようなことを……
俺は全属性なんだけどな……
しかし本当なのだろうか?俺が土魔法使ってるの見て適当なこと言ったんじゃないだろうな?
「あの人、ほんとに土属性なんですの?」
俺はカノンに尋ねる。
「ええ、残念ながら本当です。こいつはこう見えて土魔法の扱いが人より長けています。こんなやつですけど王家の血が流れてるだけあって才能はあるんですよ。厄介なことに。」
マジかよ!こいつ結構強いのか!?
面倒くさいのに目をつけられたな。
せっかく魔法を楽しんでいたというのに……
「相変わらず君の番犬は騒がしいね。君が僕に浴びせるのは罵声でなく祝福だ。
さあ、祝福したまえ」
「誰が番犬ですか!勝手にお姉様につきまとうストーカー野郎が!」
カノンと殿下が言い合いをしているぞ。
これはチャンスだ。今のうちにこっそり……
「セレスティア、どこに行くんだい?」
「うっ」
バレてる。
「まったく。抜け目ない子だな。こっそり逃げるつもりだったのか?君はこれから僕のプロポーズを受けなければいけないのだから」
「丁重にお断りさせていただきますわ」
「……断るのが早いな」
俺が即答で拒否すると、殿下はなぜかフッと口角を上げる。
なんで嬉しそうなんだ……気持ち悪いぞ……
「素直じゃないなまったく。だが、そこもいい。公衆の面前で愛を誓うのは恥ずかしいということだろう?」
「いいえ、単純に嫌なだけですわ」
「そんな照れなくてもいい。顔を見ればわかるよ」
なにもわかってないだろ。
ダメだ、こいつ。クールな顔して会話が全く通じない。
「お姉様、こいつやっぱだめです!
私がぶっ飛ばします!」
カノンがそう言って攻撃の構えをする。
そうだ!いいことを思いついた!
ちょうどさっき土魔法が上手く使えたんだ。
こいつを的代わりにして試し撃ちしよう。
ストレスも溜まってるしな。
こいつ強いらしいしまあ大丈夫だろ。
「カノン、お待ちなさい。学園内で人に魔法を放つなんて、はしたないですわよ。殿下に攻撃なんてしたらカノンの立場が危うくなりますわ。」
「しかしお姉様……」
「ですから、わたくしがぶっ飛ばします!」
「お姉様!?」
「ほう……君自ら僕に愛のメッセージを届けたいということか……」
また訳のわからないことを……
だがこれでいい。カノンにはこの世界での立場がある。殿下に攻撃したとなればなにか問題になるかもしれない。
しかし、俺は転生してきた身。
本来この世界にいないはずの人間。
失うものは何もない!好きにさせてもらう!
「殿下、わたくしの愛のメッセージですわ!受け取りなさい!」
「僕が全て受け止めてあげよう!」
「大地の礫!」
俺は容赦なく魔法を放った。
先ほど的を破壊した無数のつぶてが、殿下の端正な顔面へと殺到する。
普通なら悲鳴を上げて逃げ惑うところだ。
しかし――。
「――大地の障壁」
殿下が短く呟くと、足元の地面が瞬時に隆起し、分厚い土の壁となった。
速い。放ったつぶてが壁に打ち込まれ防がれる。
だが、それでいい。
殿下は強力な土魔法使い。きっと瞬時に防御のための壁を作ると思っていた。
「なんだ、君の愛のメッセージとはこの程度のものなのかい?もっと撃ち込んでくれていいんだぞ」
「あの……お姉様はもういませんよ?」
「えっ」
そう、顔に石が飛んできたら誰だって防御する。そして顔を守るために壁を作ったのなら視界が封じられる。
そこに隙がある!逃げるための隙が!
「カノン!あとは頼みましたわよ!」
「私がこいつの相手をするんですか!?」
「どうやら殿下は『全て受け止める』と言っておきながら防御するような御方のようなので説教しといてくださいまし!」
「えっ、いやでも」
「あなたにしか頼めないことですわ!」
「!!はい!わかりましたお姉様!!」
「それでは、ごきげんよう!」
俺は全力で逃げながらカノンと会話する。
リリィが言っていた風魔法で音を運ぶというのをやってみたがうまく会話できた。おそらく俺たちの会話は殿下には聞こえていないだろう。
カノンが味方でよかった、あの殿下を相手にするのは大変だろうが頑張ってくれ。
「してやられたな……」
「あなたではお姉様には相応しくないということです。諦めなさい」
「セレスティア……やはりいい!僕から全力で逃げるその姿勢!なんて美しいんだろう……」
「クソ王子!私の話聞きなさいよ!」
「キミはどう思う?セレスティアのそばにずっといるんだろう?僕の知らないセレスティアの一面を教えてくれないか?」
「やはり私ではこいつの相手は無理ですよお姉様……」
とカノンは遠い目で呟いた。




