第86話 幽霊部員
さて、午後は自由時間とのことだが何をしようか。
リリィは図書館で読書をするらしい。
図書館でじっとするのは性にあわないし、邪魔をしては悪いので見送った。
カノンは生徒会の仕事で忙しいようだ。
こちらも仕事の邪魔をしては悪いので、見送る。
クレアはクエストに出かけるようだ。
クエストについていこうか悩んだが、せっかく自然の中で癒されたんだし、そういう気分ではないのでやめた。
そうだ、魔法研究会に行こう。
せっかくの自由時間だし、このまま帰るのはもったいない。
たまには一人で部活に行ってみるのもいいだろう。
部長はいないかもしれないが、それならそれで静かな部室でゆっくりできる。
こうして魔法研究会の部室に向かうことにした。
――バタン
「失礼しますわ。部長、遊びに来ましたわよ!」
――シーン
特に反応はない。
あのうるさい部長が反応しないわけないから、誰もいないのかな。
そう思っていたが――
「すぅ……すぅ……」
よく見ると、机に突っ伏して寝ている女性がいた。
長い紫髪の、とても美しい女性だった。
とてつもない美人だ。
こんな人いたか?
制服を着ているということは、この学園の生徒なのかな。
しかしなんで部室で寝てるんだろう。
もしかして入る部屋間違えたかな。
「ん、んんぅ……?」
俺があたふたしていると、眠っていた謎の女性が目を覚ました。
大きなあくびをしながらこちらに気づく。
「ふわぁ〜……ん?誰だお前は」
「あっ、えっと、魔法研究会の部員のセレスティアですわ」
「ああ、お前がセレスティアか。このクソみたいな部活に入ったという物好きの新入部員」
「クソみたいなって……」
「あってるだろ」
「ええ……まあ……」
事実とはいえひどい言い草だな……
しかし否定もできん……
「だがお前が入部してくれたおかげで、廃部は免れたそうじゃないか。そこは感謝している」
「ど、どういたしまして?ていうか、そもそもあなたは誰ですの?」
「私のことを知らないのか?」
「し、知らないですわ」
「愚かな」
「えぇ……?」
そんな知ってて当然みたいな顔されても、初めて見る顔だし……
魔法研究会にはベアトリス部長とリリィと俺以外に部員なんていないはずじゃ……?
「仕方ない、自己紹介してやるか。私はこの魔法研究会の部員、メラルだ。ま、ほとんどここには来ていないがな」
「あっ、思い出しましたわ!ここに入るとき部長が、もう一人幽霊部員がいるとかなんとか言っていましたわね!」
この人が幽霊部員か!
道理で見たことないわけだ。
しかしなにをしていたんだろう?
どう見ても昼寝していたが。
「しかし普段は来ていないのに、ここで一体なにをしていたんですの?」
「昼寝だが」
やっぱり昼寝だった。
部活に来ないくせに部室を昼寝スポットに使っているのか!?
するとメラルが俺に問いかけてくる。
「お前こそ、なぜここにいる。今は授業中のはずだが」
「いえ、今日の授業は午前中で終わりましたわ。ですので、部室に顔を出してみたんですけど」
「なんだと?」
メラルが驚いている。
この人さっきまで昼寝してたし、もしかして授業サボってるのか?
「あの、あなた授業は?」
「出るわけないだろ。私には必要ない」
授業が必要ないって……
制服着てるし、この学園の生徒なんだよな?
「えぇ……?なんで学園通っていますの……?」
「学生の身分だと楽だからな。卒業まで最低限の出席で済ませ、あとはサボればいい」
堂々とした顔で言うメラル。
どうやら学生という身分ではありたいが、授業はサボりたいらしい。
「そんなことが許されますの?普通に退学になるんじゃ……」
「そんなことはできん。私ほどの逸材をみすみす退学にしてしまえば、学園の評判は地に落ちるだろう」
「とんでもない自信ですわね……」
「当然だ。この学園で私に敵うものなどいない」
……よくわからんが、相当自分に自信があるらしい。
ここまで堂々としているということは、本当にすごいのか?
ただのサボり魔に見えるが、ここまで言われると実力が気になるところだな……
するとメラルは急かすように言う。
「おいお前。こんなどうでもいい話をしている場合ではない。授業がないということはあのバカが来る。早く逃げるぞ」
「えっ、ちょっと!?」
俺はメラルに手を掴まれ、部室の外へと引っ張り出された。
あのバカって部長のことか?
この人はなんでこの部活に所属しているんだろう……
「あの、メラルはなぜこの部活に?」
俺は引っ張られながら、思い浮かんだ疑問を口にしてみた。
メラルは俺の手を引っ張り、歩きながらも答えてくれた。
「『魔法研究会所属』という肩書きが欲しかったからだ」
「肩書き?」
「よく考えてみろセレスティア。悪名高い『魔法研究会』に所属している人間に近づきたいと思うか?」
「近づきたく……ありませんわね……」
「そういうことだ。私はその肩書きを利用して、平穏な学園生活を送っているということだ」
「だから幽霊部員になっているんですのね……でも、そんなこと許されますの?」
「あそこは誰も入りたがらない。数合わせだろうがなんだろうが、喉から手が出るほど部員を欲しがっているだろう?」
「なるほど……部の弱みにつけ込んで、私利私欲のために利用していると……」
「端的に言うとそうだ」
なんてやつだ。
しかもまったく悪びれもせず、こんなにも堂々と。
ここまで堂々としていると、なんか正しいと思えてしまうくらいに胸を張っているぞ。
引っ張られながらそんな話をしていると、目的地に着いたようで足を止める。
そういえばいきなり部室から引っ張り出されてここまで来たが、一体どこに向かってたんだ?
「ついたぞ」
「ここは、演習場ですの?」
連れてこられた場所は、実技魔法の授業で使う広い演習場だった。




