第85話 焚き火
「ところでクレア。わたくしたちが釣ってきたこれはなんて魚なんですの?」
「あんたさぁ……知らない魚をバカみたいにずっと釣ってたわけ?」
「うるさいですわね!仕方ないでしょう!楽しかったんですから」
「はいはい」
クレアが呆れたようにため息をつく。
ぐぐ……釣りに夢中でなに釣ってるかなんて全然考えてなかった。
これちゃんと食べれるんだよな?
するとリリィが説明してくれた。
「セレスティア様、それはおそらくリバーフィッシュですよ。川で釣れる魚で、焼いて食べると美味しいらしいです」
「だってさ。よかったね、セレスティア」
「さすがリリィですわ!なんでも知っていますのね!」
「いえそんな……」
慣れていないのか、褒められたリリィは顔を赤くしてもじもじしている。
するとカノンが口を開く。
「これだけたくさんの魚を釣るなんて、さすがお姉様!これで食糧には困りませんね!」
「あたしも釣ってきたんだけど……」
クレアは不貞腐れるが、カノンは完全にスルーして俺を褒め称えていた。
「それにしても、立派なテントですわね〜」
目の前には、四人が入るには十分の広さのマジックテントが立派に張られていた。
「言ったじゃないですか!私たちにお任せくださいと!リリィの知識が豊富だったおかげで、すんなりと組み立てることができました!」
「さすがリリィですわ!」
「いえ……カノン様の指示が的確だっただけで……」
リリィは恐縮しきりで、またしても顔を真っ赤にしていた。
「それじゃ魚を釣ってきたし、夕飯にしよっか。日も暮れてきたしね」
クレアがそう言って何か準備を始める。
「なにするんですの?」
「焚き火だよ焚き火。火はあたしの得意分野だし、魚焼きながら落ち着きたいでしょ」
「おっ、いいですわね〜」
焚き火かぁ。
まさか異世界に来て、釣った魚を焚き火で焼く日が来るなんて。
ロマンがあって楽しいな!
火魔法は俺も使えるし、手伝ってあげよう。
「わたくしも手伝いますわ」
「大丈夫?森ごと燃やさない?」
「いつまで言ってるんですの……もうコントロールできますわよ」
クレアは心配そうに見つめてきたが、流石にもう暴走はしない。
二人で木材を集め、焚き火の準備をしていると、カノンがじっとその姿を見つめていた。
「ぐぐぐ……私もお姉様のお手伝いがしたいのですが、あいにく火魔法は使えません……どうしましょう……」
「あの……カノン様。私たちはお魚の下処理をして、すぐ焼けるように準備しませんか?きっとお二人もお喜びになるかと……」
「いい提案です。私たちはそうしましょうかリリィ。魚についての知識もあるみたいですし」
どうやら俺達が焚き火の準備をしている間、リリィたちは魚を焼く準備をしてくれるようだった。
たすかる。
そして――
「よし、これだけ木材があれば燃えるでしょ。じゃ魔法で火をつけるわよ。ハッ!」
――ボォォォ……
クレアの手から炎が放たれる。
しかし、なかなか火がつかないので俺も手伝うことにした。
焚き火に向かって手のひらを構える。
「わたくしもやりますわ。ハッ!」
――ボォォォ……
俺の手からも炎が出て、焚き火が見事に燃え上がる。
――パチパチッ!
火がついて、心地よい音が響いた。
「つきましたわ!」
「よかったわね。無事に火がついて」
俺とクレアは一安心といった感じだった。
それと同時に、カノンとリリィが魚を串に刺して持ってきてくれた。
「さすがお姉様!もう火がついていますね!丁度こちらも準備ができました!」
「あたしも火、つけたんだけどなー」
もはや当たり前のようにスルーされるので、半ば諦めているクレアだった。
カノンたちが用意してくれた魚の串を焚き火のそばに突き刺して、火が通るのを待つ。
俺たちはそれまで焚き火を囲んで座り、火を眺めてリラックスしていた。
しばらくみんなでボーッとしていたら、魚にいい感じの焼き目がついていた。
めっちゃ美味そうだ!
「そろそろ食べてもいいんじゃありません?」
「そうね。いい感じに焼き色もついてるし」
「それでは、私もいただきます」
「私も……いただきます……」
こうしてみんなで焼き魚を食べる。
身がふっくらとしていて、なおかつジューシーで美味しかった。
「うっまいですわねこれ!何匹でも食べられますわ!」
「そんな大はしゃぎしなくても」
「素敵ですお姉様!ぜひ、私の分も全部お召し上がりください!」
こうしてカノンは、自分の分の焼き魚を俺に差し出そうとしてくるがリリィに止められる。
「ダメですよカノン様……セレスティア様のお腹がパンパンになってしまいます」
「大丈夫ですわリリィ!わたくし、いくらでも食べられますので!」
「ほどほどにしときなさいよ〜。動けなくなっても知らないから」
クレアは俺に対し呆れていたが、カノンはというと。
「もしそうなったら私がお姉様を運ぶので大丈夫です!」
「大丈夫……なんですかね?」
「あんた荷物も持ててなかったじゃない。やめときなさいよ」
クレアはカノンにも呆れていた。
リリィも相変わらず心配そうな眼差しで見ている。
こうして夜は過ぎていった。
そして翌朝――
俺は珍しく朝早くに目が覚め、気持ちのいい朝を迎えていた。
チュンチュン、と小鳥の鳴き声が森の中に響いている。
他のみんなはまだ寝ているようだった。
起こさないように静かにテントから出る。
朝の日差しを浴びながら「うぅ〜」っと伸びをした。
「散歩でもしようかな」
特にやることもなかったので、昨日釣りに行った川まで散歩することにした。
小鳥の鳴き声、風に揺れる木々の音を聴きながら、朝の木漏れ日を浴びる。
そして川に辿り着き、川のせせらぎを聴きながら、何も考えずにただ散歩する。
なんという解放感だろう。
そんな心地よさを感じながら、テントの場所へと戻るとリリィとクレアが起きていた。
「あっ、おはようございます。セレスティア様」
「どこ行ってたの? 勝手にいなくなるとカノンが騒ぎ出すわよ?」
「ただの散歩ですわ。昨日釣りした川まで歩いてきましたの。あれ? カノンは?」
「まだ寝てるわよ。リーダーとして張り切ってたし、疲れてるんでしょう」
クレアは苦笑しながらテントを見る。
中を覗くと、カノンはまだスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
昨日はいろいろと気張ってくれていたし、無理もない。
「なんだか、ただの楽しいキャンプになってしまいましたわね」
「そうね。魔物に襲われることもなかったし。野外演習ってこんなもんなの?」
クレアの言葉に、俺とリリィも苦笑いする。
過酷なサバイバルになるかと思いきや、ただ美味しい魚を食べて自然を満喫しただけだった。
やがて太陽が高く昇り始めた頃、ようやく目を覚ましたカノンが「お、お姉様!申し訳ありません、私としたことが寝坊してしまうなんて!」と慌ててテントから飛び出してきた。
四人で協力してマジックテントを片付け、俺たちは森を後にした。
学園の集合場所に戻ると、すでに他のグループも集まっていた。
皆、それなりに疲れた顔をしている。
中には服が泥だらけの生徒もいた。
「皆さんお疲れ様です。全員無事に戻ってきたようですね」
先生が全員の顔を見渡しながら、労いの言葉をかける。
「今回の演習は、大自然の中で魔法を使い、どう生き抜くかを学ぶものでした。この経験をこれからの学園生活に活かしてください。では、今日の午後は自由とします。ゆっくり休んでくださいね」
先生の言葉に、生徒たちから歓声が上がる。
「終わりましたわね」
「ええ。なんかあっけなかったわね」
「でも、楽しかったです……!」
「はい! お姉様とのキャンプ、最高でした!」
それぞれの感想を口にしながら、俺たちは笑い合った。
本当にただの楽しいキャンプだったが……まあ、たまにはこんな日があってもいいだろう。




