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第80話 ダンジョンからの帰還

部屋の入り口から大きな声が聞こえ、振り返るとミーナとエリスが立っていた。


「あっ、エリスとミーナですわ。すっかり忘れてました」

「いつの間にか追い抜いてたのかしら?」


ミーナたちがタッタッ、と俺たちのもとへ駆け寄ってくる。


「これボスの魔石?ここ最奥部だよね?じゃあもう魔物と戦えないじゃん!」

「な、なにをそんなに騒いでるですの?無事に奥までたどり着けたのなら良いではないですか」

「だめなんだよー。私、まだエリスちゃんの魔法が見れてないんだから!」

「はい?」


エリスのやつ、ここまで全部ミーナに敵を倒させてきたってことか?

まあここはヘカーティ曰く大したダンジョンじゃないらしいから、魔物はそれほど強くないと思うが……


「ミーナ、大変でしたわね。エリス、あなた全部ミーナに魔物を押し付けたんですの?」


俺が呆れながらエリスに問いかけると、彼女はニヤニヤしながら答えた。


「えー?私がそんなひどいことするわけないじゃないですか♪勝手に魔物が消えていっただけですよ♪ほら、これが戦利品です♪」


エリスが見せてきたバッグの中はジャラジャラと魔石で一杯になっていた。


「消えたぁ?そんな大量の魔物がぁ?そんなわけないでしょう。わたくしたちのほうはそんなこと起こりませんでしたわよ?ねぇ、オフィーリア?」

「そうね。あんたがインチキ魔法使ったり、魔物の大群ぶん殴ったりして倒してくれたおかげで楽できたわ。結局フェンリルもあんたが倒しちゃったし」

「えー!?フェンリルってここのボスのこと?凄いねセレスティアちゃん!」

「ま、わたくしならこれくらい当然ですわ」


俺が胸を張っていると、肩に乗ったヘカーティが割り込んできた。


「お主ら、いつまで喋っているつもりじゃ?結局このフェンリルの魔石はどうするんじゃ」

「えっ、なにこのお人形!オフィーリアちゃんそっくりでかわいいー!でもこの感じ……もしかしてヘカーティちゃん!?」

「ふふっ♪ついにこんな小さいお人形さんに閉じ込められてしまったんですね♪かわいそうに……」

「閉じ込められとらんわ!妾が自分から入ったんじゃ!セレスティアが妾のために作ってくれたんじゃぞ!?そんなことよりお主ら、この魔石どうにかならんか?妾たちでは持ち帰れそうにないのじゃ」

「わたくしたち、色んな魔物やミノタウロスの魔石を持っていて、もうバッグがパンパンなんですわ」


俺がパンパンになったバッグを見せると、ミーナとエリスが困ったような顔をする。


「さっきも見せましたが、私たちもバッグがパンパンなんですよぉ〜」

「私たちもいっぱい魔石を拾い集めたからねー」


みんなで「うーん……」と、フェンリルの魔石をどうしようか悩んでいるとエリスが何かを思いついたようで声をあげる。


「そうだ。セレスティアさん、この魔石を砕いて小さくすればいいんじゃないですか?全部は持ち帰れませんけど、何も持ち帰れないよりはマシでしょう?」

「なるほど。確かにそうですわね。では早速やってみますわ」


俺は補助魔法で肉体を強化し、魔石に向かって拳を放った。


「ふんっ!」


――バリィィィン!


そしてフェンリルの魔石は跡形もなく砕け散った。


「あんたなにやってんのよ!?せっかくの魔石が消えちゃったじゃないの!」

「見事にバラバラになっちゃったね……」


オフィーリアが怒声をあげ、ミーナはシュン……としてしまった。


「そんなぁ……わたくしはちょっと強めに殴っただけですわ!」

「だめですよセレスティアさん。強く殴りすぎです♪もっと丁寧に扱わないと粉々になっちゃうに決まってるじゃないですか♪」

「それを!殴る前に言ってくださる!?」


エリスのやつ、わざと黙って俺にやらせたな?

せっかく頑張ってフェンリルを倒したのに、討伐の証が消えてしまった……


「まあいいじゃないですか。今回のダンジョンの目的は魔法の練習なんですから。大事なのは魔法が上達したかどうかですよ♪」

「まあ確かに……おかげで闇魔法の扱い方がわかってきましたわ」

「妾の大魔法もパクったしのぉ」

「そういえば私の魔法もパクってたわね」

「まだ言ってるんですの!?魔法にパクるとかないでしょう!?」


相変わらずからかってくるヘカーティとオフィーリア。

なんてしつこいやつらなんだ。


「ふふっ♪オフィーリアさんたちと仲良しになれたみたいでよかったです♪どうなってるか心配だったんですよー」

「あなたはわたくしの保護者かなにかですの?」


エリスもからかってくる。

一人じゃ処理できない!


「セレスティアちゃん大丈夫?なんかすごく疲れてるけど……」


ミーナだけは俺のことを慰めてくれる。

心のオアシスだ。


「ありがとうミーナ。大丈夫ですわ。ていうかもう帰りません?魔石もなくなってしまいましたし、ここが最奥部なのでしょう?」

「そうね、さすがに疲れたしさっさと帰りましょうか」

「だったらあの奥の魔法陣に行くといいですよ?」

「魔法陣?」


エリスが指差した方向をよく見ると、確かに魔法陣があった。


「なんですの、あれ」

「あの魔法陣はダンジョンの入口まで転移させてくれる魔法陣なんですよ♪あれなら一瞬で帰れますよ♪」

「本当ですの?また適当なこと言ってるんじゃないでしょうね?」

「セレスティアちゃん!エリスちゃんはダンジョンにすっごい詳しいんだよ!私も色々教えてもらったんだー」


ミーナが純粋な笑顔でそう語る。

なんか変なことを吹き込まれてないといいんだが……


「セレスティアよ、安心せい。エリスの言っていることは本当じゃ。まったく、普段から適当なことばっかり言ってるから疑われるんじゃぞ?」

「えー、ひどーい♪ミーナさんは信じてくれたのにー」


わざとらしく、しくしくと泣き声をあげるエリス。

こういうところが信用できないと言っているんだ。

しかし、ヘカーティが言うならまあ本当なんだろう。

俺も疲れたし、さっさと帰ろう。


「では、帰りましょうか」


俺たちはダンジョン奥にある魔法陣の上に立つ。

すると――


――ビュオンッ!


目の前の景色が、薄暗い石壁から、木々が生い茂る森へといきなり変わった。


「おぉ〜、本当に戻ってこれましたわね!」

「だから言ったじゃないですか〜」


ぷくーっと頬を膨らませるエリス。


「うわぁ!?びっくりした〜。いきなり転移してきたってことはお嬢ちゃんたち。無事に奥までたどり着いたんだ」


ドロシー先生が驚いて飛び跳ねていた。

この人のこと、完全に忘れていた。

ていうか、後ろについてくとか言ってなかったか?

なんで入口にいるんだ?


「ドロシー、お主またサボっておったな?今寝てたじゃろ」

「げっ、その声は。い、いやぁ〜、サボってないですよ。ほら、私は生徒がノビノビとダンジョン探索できるように配慮したんですって」


汗をかいて目を逸らしながら言い訳をするドロシー先生。

この人サボってたな……

この場にいる全員がそう確信していた。


「し、師匠!おかげで私たちの魔法は上達しましたから!」


オフィーリアが頑張って擁護しようとしている。

ドロシー先生に対しては健気なもんだ。


「おお、さすがオフィーリアちゃん!わかってるねぇ〜……ってあれ?さっきのヘカーティさんの声はどこから?」


ドロシー先生がオフィーリアを見て困惑している。


「こっちじゃこっち」

「人形が喋った!?ヘカーティさん、ついに人形になってしまったんですね……」


こちらに振り向き、人形になったヘカーティに憐れみの目を向けるドロシー先生。

すると――


――ヒュンッ!


その瞬間、オフィーリアの瞳の色が変わり、ドロシー先生の頭をポコッ!と勢いよく叩いた。


「いたっ!オフィーリアちゃん、いきなりなにすんの!?」

「なんじゃその目は。お仕置きじゃ」

「えっ!?その喋り方……」

「妾じゃ。こうしてオフィーリアの身体と行き来できるんじゃ。またサボったり、調子に乗ってたらこうじゃからな」


――ヒュンッ!


再び魂が移動し、オフィーリアがハッと我に返る。


「はっ!私いま一瞬気を失っていたような……」


ヘカーティは一瞬だけオフィーリアに魂を移してドロシー先生を叩き、すぐに人形に戻っていた。


「いたた……と、とにかく!無事にダンジョンも踏破できたみたいだし、課外授業はおわり!帰ろう!解散!」


こうして俺の初めてのダンジョン探索は終了し、各自帰ることになった。

あたりはもう日が沈みかけている。

いつの間にか、かなりの時間が過ぎていたようだ。


「オフィーリア、はいこれ」

「あっ、ご先祖様」


俺はゴーレムくんをオフィーリアに預ける。


「あなたが持っていたほうがいいでしょう?」

「むぅ、お主の肩もなかなか居心地がよかったんじゃがのぉ」

「ありがたく受け取るわ。ご先祖様!せっかくこうして話せるようになったんですし、私を鍛えてください!」

「おっ、いいのぉ。ビシバシ鍛えてやるぞ!」

「じゃあ、私はもういらないかなぁ〜。頑張ってねぇ〜」


そう言ってちゃっかり去ろうとするドロシー先生。


「お主、またサボろうとしておるな?わざわざオフィーリアに転移しなくても、簡単な攻撃魔法なら撃てるんじゃぞ?」

「げっ、マジか……わかりましたよ〜。ちゃんと私も付き合いますから勘弁してください」


どうやらオフィーリアたちは強くなるために特訓をするみたいだ。

そして俺はというと……


――ぐぅ〜……


「お腹……すきましたわ……」


魔力をたくさん使ったし、お昼も食べていない……

お腹の音が静かな森に鳴り響く。


「そっか、ほとんど何もしてない私たちと違って、セレスティアちゃんはボスを倒したんだもんね」

「お腹が鳴るのも仕方ないですね♪私たちは帰りましょうか♪」


こうして俺はエリス、ミーナと一緒に帰ることになった。

オフィーリアたちとは今日はこれでお別れだ。


「じゃあの」

「絶対あんたより強くなってやるんだから!次にボスを倒すのは私だからね!」

「みんなおつかれさま〜」

「ええ、みなさんごきげんよう」


オフィーリアたちに別れの挨拶をし、帰路につく。

帰り道、ミーナは嘆いていた。


「結局エリスちゃんの魔法見れなかったなー。魔物が全部トラップに引っかかっちゃうんだもん」

「トラップ?何の話ですの?」

「超高難易度ダンジョンだと、トラップがたくさんあって魔物も引っかかっちゃうんだって。そうだよね、エリスちゃん?」

「はい、魔法がお見せできなくて残念です……」

「結局、魔物全部消えちゃったもんね……」

「私たち、運が良いのか悪いのかわかりませんね♪」

「???」


ミーナとエリスはずっとよくわからない会話をしていた。

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