第77話 フェンリルと大魔法
――ギィィィィィィ……
俺はゆっくりと扉を開く。
ミノタウロスの時と同じように中はところどころ炎が灯っており、少し明るい。
俺は不要になった光の球を消滅させ、中にいる魔物を確認する。
すると中には巨大な狼がいた。
あれはもしかして!
「フェンリルですの!?」
「わぁっ!?びっくりした!いきなり叫ばないでよ。なんでそんなテンション上がってるのよ」
「だってフェンリルですのよ!?めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。これから戦う相手なんだから」
「あっ、確かにそうですわね」
「グルルルル……」
するとフェンリルがこちらを睨みつけてくる。
「おい、お主たちがギャーギャー騒ぐからあやつがこちらを睨んでおるぞ?」
「げっ、作戦とかなんも考えてないじゃない!あんたのせいよ!」
「作戦なんて簡単ですわ。わたくしがあいつをぶっ飛ばしますのであなたがサポートしなさい」
「なんで私がサポートなのよ!?あんたが私をサポートしなさい!私が倒してやるわ!」
「さっきミノタウロスにも苦戦してたでしょう!?あなたよりわたくしのほうが強いですわ!だからわたくしがやります!」
「あれはちょっと油断しただけよ!今度こそ――」
「ほれ、お主ら喧嘩するでない。攻撃が来るぞ?」
「ガウッ!!」
俺たちが喧嘩をしていたらフェンリルが襲いかかってきた。
鋭い爪で切り裂こうと攻撃してくる。
あんなん喰らったらただじゃ済まない!
俺とオフィーリアはそれぞれ左右に飛び跳ね、なんとか攻撃をかわす。
「うおおおおあ!」
ヘカーティは飛び跳ねた俺の左肩に必死につかまっている。
フェンリルの爪はブゥン、と空を切るが威力は凄まじく、暴風が吹く。
それぞれ左右に離れて着地した俺とオフィーリアの髪が、その突風で大きく揺れた。
「うおっ、あっぶねぇですわ!」
「とんでもない攻撃ね……」
「妾は危うく吹っ飛ばされるところじゃったぞ」
攻撃を避けられたフェンリルは再び攻撃を仕掛けようとしてくる。
俺とオフィーリアは真逆の位置にいる。
どっちに攻撃を仕掛けてくるんだ?
すると、俺のほうを向いた。
「わたくしですの!?」
「ほう、お主は人気者じゃなぁ。くはは!」
「ふん!きっとわたくしのほうが強いからですわね!」
肩に乗ったヘカーティは呑気に笑っている。
こうなったら仕方がない。
俺は遠くにいるオフィーリアに呼びかける。
「オフィーリアー!わたくしが囮になって差し上げますからなんとかしてくださいましー!」
「なんとかってなによ!」
「それくらい自分で考えなさい!さっきの自信はどこにいきましたの?」
「ちっ、わかったわよ!」
そしてフェンリルが襲いかかってきた。
さっきと同じ攻撃だ!
「ガウッ!!」
「『高速移動』!」
――シュンッ!ブゥンッ!
俺は一瞬だけ高速で移動し、攻撃をかわす。
さっきミノタウロス相手にオフィーリアがやっていたことをマネしてみた。
攻撃をかわすための魔法の練習にちょうどいい。
ヘカーティも吹っ飛ばされないようになんとか俺の左肩につかまり続けている。
「おいお主、妾がいることを忘れておらんか!?」
「仕方ないでしょう。なんとかつかまっといてくださいな」
俺がフェンリルの攻撃をかわしながら、ヘカーティと言い合いをしているとフェンリルに向かって魔法が放たれる。
オフィーリアの攻撃魔法だ。
「『影砲撃』!」
――ブォォォォォォン!!!
オフィーリアが放った闇のエネルギー砲がフェンリルに命中するが……
「ガウ?」
「ちっ、全然効いてない……もう一発!『影砲撃』!」
――ブォォォォォォン!
再び攻撃魔法を放つオフィーリア。
しかし、フェンリルはヒョイッ、と飛び跳ね攻撃をかわす。
「今度はかわされた!?どうすれば……」
着地したフェンリルは一瞬だけオフィーリアのほうを向いたが、すぐにまた俺のほうを睨む。
やはり狙いは俺らしい。
「どうするのじゃセレスティア。オフィーリアの攻撃魔法は頼りにならないみたいじゃぞ?妾の子孫としては情けない話じゃがの」
「そうですわねぇ。おっと危ない」
――ブゥンッ!
フェンリルの攻撃をかわしつつ、作戦を考える。
「オフィーリアに分身させて、妾がまた暴れてやろうか?いつでも準備できておるぞ?くはは!」
「えー、嫌ですわー。それだとわたくしたちの魔法の練習にならないではないですか。ですから、わたくしが暴れてやりますわ!」
俺はピョンッ、と部屋の上空まで飛び跳ねる。
そして、右手を天に掲げた。
「ガウ!?」
「あいつ、なにするつもり!?」
フェンリルとオフィーリアは突然飛び跳ねた俺を見上げて驚いている。
「お主、まさか!?」
「ええ、あなたの大魔法、試してみますわ!」
俺は掲げた右手に莫大な闇のエネルギーを集めるイメージをする。
――ズゥン……
すると小さな黒い球が浮かびあがり、闇のエネルギーが集まってどんどんと巨大化していく。
――ズゥン……ズゥン……!
「グルルルル……」
フェンリルも危険を察知したのか、上空の俺に向かって攻撃を仕掛けようと飛び跳ねる構えをする。
ヘカーティとは違って慣れてないから、エネルギーを集めるのに時間がかかってしまい隙が生まれてしまった。
「仕方ないわね。『影鎖縛』!」
――スルルルルルルッ!!
「ガウッ!?」
オフィーリアの足元から無数の影の鎖が放たれ、跳躍しようとしたフェンリルの巨体を床に縛りつける!
「ほら、今回はあなたに譲ってあげるわ!さっさとやりなさいよ!」
「オフィーリア、助かりましたわ!では、いきますわよ!」
「ガウッ!ガウッ!」
フェンリルはなんとか影の鎖から脱出しようとしているが逃れられない。
床に固定されているフェンリルに魔法を当てるなんて簡単だろう。
「『深淵天墜』!」
――ドドドド……
俺が右手を振り下ろすと、巨大な闇のエネルギー球がフェンリルに向かって一直線に落ちていった。
――ズドォォォォォン!!!!
そしてフェンリルはあっという間に闇に飲み込まれていった。
球はとてつもない爆発を起こし、床はクレーターのように窪んでいた。
フェンリルは跡形もなく消滅し、窪みの中心にはごろん、と巨大な魔石だけが転がっていた。
「本当にやりおった……まさか妾の大魔法をパクるとは……」
「パクるって……人聞きが悪いですわね!素直に褒めなさいよ!」
「だって妾のアイデンティティがー!」
ギャーギャー騒ぐヘカーティを肩に乗せながらスッ、と着地するとオフィーリアが駆け寄ってきた。
「ちょっとあんた!ご先祖様の魔法パクるんじゃないわよ!」
「あなたもそれ言いますの!?倒せたんだからいいでしょう!」
「まあ……凄かったけど……」
「ふんっ!」とそっぽを向くオフィーリア。
素直じゃないなぁ……
「それにしてもあの魔石どうしますの?大きすぎてバッグに入りそうにないですわよ?」
「そうね、ダンジョン探索するとは思ってなかったから、マジックバッグも持ってきてないし……」
ゴーレムくんを作るときに少し使ったとはいえ、採取用のバッグはミノタウロスの魔石などでパンパンだった。
「どうしましょう……諦めます?」
「うーん、なんかもったいない気がするわね」
俺達が魔石の扱いに悩んでいると、突然部屋内に大きな声が響き渡る。
「ああー!もうボス倒されちゃってるじゃん!」
「ふふっ♪ちょっとゆっくりしすぎましたかね、私たち♪」
「そんなぁー」
声の主はミーナとエリスのコンビだった。




