第75話 ゴーレムくん
「そういえばヘカーティってオフィーリア以外には取り憑けませんの?」
俺は光の球であたりを照らし、ダンジョン内を進みながら、横を歩くオフィーリアに疑問を投げかける。
「なによいきなり。ていうか『様』をつけなさいよ『様』を」
「先ほどの戦闘でヘカーティがオフィーリアの肉体に憑依していたではありませんか。ならほかの人にも憑依できるのかと思いまして」
「だから『様』をつけなさいって!スルーすんな!……まああんたに言っても無駄か」
オフィーリアが呆れながら説明してくれる。
「いい?ご先祖様の大魔法『霊魂憑依』は、自分と似たような魂を持った肉体にしか憑依できないのよ」
「つまり子孫しか無理ってことですの?」
「そういうこと。さっきの戦闘でも『私の分身』だったから憑依できたのよ」
「なるほどー」
はぇ〜、さっきのはそういうことだったのかぁ〜。
一つ謎が解けてすっきりだ。
ただ、一つ思いついたことがある。
「オフィーリアの分身に憑依できるってことは、オフィーリアとそっくりな生命を持つ器を作れば、それにも憑依できるってことですの?」
「いや、そんなんわかんないわよ。あんた今度は何しようっての?」
「ちょっと作ってみますわ。失礼しますわね」
「いたっ!なにすんのよ!」
俺はオフィーリアの頭から黒い髪の毛を1本ブチッと引き抜く。
そして、さっきスケルトンやストーンウルフを倒して手に入れた魔石を何個か取り出した。
うーん、何かを作るというと土魔法か?
光の球だってイメージすれば出せたし、これもイメージすればできる気がするぞ。
「『錬成』!」
ズズズズッ、と手に持った魔石が一点に集まり、泥のように変形していく。
そしてあっという間に人型の石人形ができあがった。
「おお!できましたわ!『ゴーレムくん』の完成ですわ!」
「なによゴーレムくんって……ただ石を人型にしただけじゃない。そんなの作ってどうするのよ」
「このゴーレムくんに『生命』を与えるんですの。さっきあなたから頂いた髪の毛を使って」
生命を与える魔法。
ちょっと前にミーナに教わったことがある。
あの時はつぼみから花を咲かせるくらいだったが……
今の俺はあの時より成長しているはずだ。
俺はオフィーリアの髪の毛をゴーレムくんに押し当て、魔法を注ぎ込む。
「『生命の聖光』!」
――ヒュィィィィィン!
髪の毛がゴーレムくんにスゥッ、と取り込まれ、石の身体が淡く光り輝く!
そして地面にそっと置いてみると……トコトコと自立歩行をし始めた!
「やりましたわ!見てください、これであなたの生命を宿したゴーレムくんができましたわ!」
俺はゴーレムくんを持ち上げてオフィーリアに見せつける。
「ま、まさかそんなことができるなんてね……でもそんなちっこい石人形がご先祖様の器になるの?」
「やってみないとわからないでしょう?ほらヘカーティ、中で聞いていますわよね?このゴーレムくんに憑依してみてくださいな」
――ヒュゥゥン……
オフィーリアの身体から、俺の手元のゴーレムくんへと魂が移動しているのを感じる。
すると――
「おお!お主、なかなかやるのぉ!本当にこの石人形に入ることができたぞ!」
「やりましたわ!成功ですわね!」
「まさか……そんな……偉大なご先祖様があんなちっこい石人形に……」
オフィーリアは信じられないものを見るような目で呆然としている。
「しかしオフィーリアの言う通り、この身体はちと小さいのぉ。動かしたり会話することはできるのじゃが……大暴れはできそうにないぞ?」
「こんな小さいゴーレムくんからさっきみたいな大魔法が出たらたまったもんじゃないですわ。暴れたかったらまたオフィーリアに分身してもらえばいいんですわ」
「ちょっと!?あんたなに勝手なこと言ってんのよ!あれけっこう疲れるんだからね!?」
「くぅ……仕方あるまい……しかしセレスティアよ、なぜ急にこんなことを?」
ヘカーティが手のひらサイズのゴーレムくんの姿で首をコテンと傾げる。
なんかかわいらしい。
「だってあなた、いつもいきなり出てくるからびっくりするんですのよ。それに毎回気絶させられるオフィーリアがかわいそうですわ」
「むむ……確かにその通りじゃな。すまんかったの、オフィーリア」
「い、いえ……私はそんな……」
「ということで、これからはできるだけこのゴーレムくんに憑依しておくといいですわ!」
「うむ、わかった。さすが全属性のセレスティアじゃ。他の者にはできないようなことをやってのける。エリスもなかなか面白いやつを連れてきたのぉ」
小さい石の腕を組み、うんうんと感心するヘカーティ。
その姿もかわいらしい。
「オフィーリア、これであなたの意識が急になくなることもないでしょう。ですからこのわたくしに感謝しなさい!オーホッホッホッ!」
「ぐぐぐ……ムカつくけど感謝してあげるわ。でもその見た目が気に食わないわね。偉大なご先祖様がそんなゴツゴツした石人形なんて……」
「そうですの?かわいらしい見た目だと思いますけど……」
「どこがよ!あんたのセンスおかしいんじゃないの!?」
「はぁ……仕方ないですわね……」
オフィーリアがブーブー文句を言ってくるので、ゴーレムくんの見た目を変えてあげることにした。
「『錬成』!」
再びズズズズッとゴーレムくんが変形していった。
「おっ、なんじゃなんじゃ?妾はどうなっておるんじゃ?」
「ってこれ私じゃない!」
「だって他に思いつかなかったんですもの。先ほどの分身魔法から着想を得まして、あなたと同じ姿にしてみましたわ。あなた自身の見た目なら文句はないでしょう?」
「はぁ……まあいいわ。さっきのよりは全然マシね」
「なるほど。妾はオフィーリアの姿になったのか。どれどれ……オフィーリア、少し失礼するぞ」
「えっ」
ヒュンッ、とヘカーティの魂がオフィーリアに戻っていく。
そして彼女は、俺の手元のゴーレムくんの姿を確認した。
「おお!完全に見た目がオフィーリアの石人形になっておるな!かわいらしい姿じゃ」
そしてヒュンッ、とまたゴーレムくんのところに魂が戻ってくる。
「はっ!今一瞬気絶していたような……」
「あなたねぇ、自分の姿を確認するためだけにオフィーリアに憑依しないでくださいません?できるだけゴーレムくんに憑依しておいてとさっき言ったばかりではありませんか」
「だってこれしか方法がなかったんじゃもん」
ちっちゃいオフィーリアの姿になったゴーレムくんが首をぷいっとする。
これはこれでかわいらしい。
とにかく、思いつきとはいえゴーレムくんを作ることもできたし、ダンジョン内を進んでいこう。
「それじゃ、ヘカーティはわたくしの肩にでも乗っておいてくださいな」
「むっ?なんでじゃ?妾は一人で歩けるぞ?」
「ご先祖様、さすがにその姿でダンジョン内を一人で歩くのは危険です……セレスティアの言う通りにしたほうがよろしいかと……」
「確かにそうじゃな……この姿だと大した魔法も使えんしの。では遠慮なくセレスティアの肩に乗せてもらうのじゃ」
「ええ、では先に進みますわよ」
こうして俺は肩にちょこんとヘカーティを乗せ、オフィーリアとともにさらにダンジョンの奥へと進んでいくのだった。




