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第74話 深淵天墜

「私の本気、見せてあげるわ!」


ミノタウロスを指差し、高らかに宣言するオフィーリア。

一体なにをするつもりなんだ。


「『影分身シャドウエイドロン』!」


――ズズズズ……


オフィーリアの身体から影が分離していき、人型になっていく。


「オフィーリアが……二人いますわ……!」


そしてオフィーリアとまったく同じ見た目の分身が生まれた!

分身のオフィーリアは虚ろな目をしていたが、やがて目に光が宿る。

そして凄まじいオーラとともに邪悪な笑みを浮かべた。


「ふはははは!待っていたぞ、この時を!」


……ん?

あの高笑い……

俺はてっきりオフィーリアが分身を出して同時攻撃でもするのかと思っていたが……


「しかし情けないのぉオフィーリアよ。ミノタウロスごときにここまで苦戦するとは」

「うぅ……すみません、ご先祖様」

「ま、妾は好き放題暴れられるからいいんじゃがの」


やっぱり!

あの分身の中身はヘカーティだ。

なるほど、そういうこともできるのか!


「おい!セレスティア!お主ポカンとしとらんで、さっきみたいに時でも止めてオフィーリアを部屋の隅まで避難させるのじゃ!」

「なぜわたくしがそんなことを!?」

「そうですご先祖様!セレスティアの力を借りるわけには……」

「いやお主、分身を維持するのに魔力を使いすぎて動けんじゃろ。このままだと妾の最強魔法に巻き込まれてしまうぞ?」

「うぅ……わかりました」

「それでは頼むぞセレスティア!」


そう叫びながらヘカーティはこの広い空間の上空へと飛んでいった。

なにをするつもりか知らないが、どうやら俺はオフィーリアを避難させなくてはいけないらしい。

ていうか、しれっと俺の時間停止の魔法のことバラしやがったなあいつ。

隠してたのに。

まあ、オフィーリアはそれどころじゃなさそうで気づいてないっぽいけど。


「ふはははは!ミノタウロスよ、お前程度の魔物が、この妾の闇魔法を受けられることを光栄に思うがいいぞ!」


上空のヘカーティから物凄いエネルギーを感じる。

ヘカーティが片手をあげると、手のひらから小さな黒い球が生まれ、どんどんと大きくなっていく。

とてつもない威圧感にミノタウロスは上空を見あげながらうろたえていた。

ていうかアレやばい!

オフィーリアを避難させないと!


「『時間停止オーバークロック』!」


――カチッ!


世界から音が消え時間が停止する。

俺は即座に移動を開始し、オフィーリアのもとまで駆け寄る。

そして彼女を抱きかかえ、部屋の隅の方まで急いで走るのであった。

まさか人を避難させるために時間を止めることになるとはな。

そういえば前、エリスの嘘を真に受けたサフィアが時間停止で運ばれて瞬間移動したいとか言ってたような……

そんなことを思い出しながらなんとか魔法の効果時間内に避難が完了する。


――ヒュゥゥゥゥゥ……


そして時間が動き出した。


「!?私いつの間にこんなところに!?なんであんたに抱きかかえられてんのよ!気を失ってた?でもご先祖様はあそこにいるし……」

「人に運んでもらっておいてギャーギャーうるさいですわね」

「あんた、またなんか変な魔法使ったんでしょ!早く降ろしなさいよ!」

「はいはい」


オフィーリアを地面に座らせると、かなり疲れているようだった。

ただでさえ戦闘で魔力を消費していたのに、あの分身を維持するのも相当苦労するだろうからな。

仕方ないんだろう。

そしてヘカーティのほうを見ると、手のひらサイズだった小さな球がミノタウロスの何倍もの大きさのとてつもないエネルギーの塊になっていた。


「おお、さすがセレスティア。もう避難はできたようじゃの。これなら遠慮なく魔法をぶっ放せるなぁ!」


ヘカーティのやつ、すごい楽しそうだな……

満面の笑みを浮かべている。

ミノタウロスは慌てて逃げようとするもあんな巨大な魔法から逃げられるはずもなかった。


「これが闇の大賢者『ヘカーティ』の力じゃ!『深淵天墜アビスインパクト』!」


――ズズズズッ!


ヘカーティが腕を振り下ろすと、巨大な黒い球がミノタウロスに向かって落ちていく。


――ズドォォォォォン!!!!


そしてあっという間にミノタウロスは闇に飲み込まれた。

とてつもない音とともに砂ぼこりが舞い散る。

ミノタウロスの断末魔すら聞こえなかった。

ほこりが晴れるとミノタウロスは塵ひとつ残さず消滅していた。

静まり返った空間にコロン、と音が響く。

おそらくミノタウロスのものであろう、少し大きな魔石が転がっていた。


「とんでもない魔法でしたわね……」

「……」


俺は目の前の光景に驚きを隠せなかった。

隣で座り込んでいるオフィーリアもあまりの衝撃からか言葉を失っており、驚愕の表情を浮かべている。

すると、上空にいたヘカーティがこちらに向かって降りてきた。

ストン、と着地する。


「ふぅ、まあこんなものかのぉ。どうじゃ?凄かったじゃろ?妾の魔法」

「え、ええ……凄かったですけど、あそこまでやる必要あったんですの?とてもミノタウロス相手に使う魔法には見えなかったのですが……」


誰がどう見てもオーバーキルだった。

そもそも俺達も巻き込まれそうになったし。

しかし、ヘカーティは悪びれもせずに言う。


「だって、暴れたかったんじゃもん」

「えぇ……?」

「妾はなかなか身体が動かせる機会がないんじゃ。こういうときくらい思いっきり魔法をぶっ放したいんじゃよ。ちょうど避難要員としてセレスティアもおったしな」

「あなたねぇ!いくらなんでも無茶苦茶ですわ!」


こいつ、俺を便利道具みたいに使いやがって!

無駄に魔力を消費しちゃったじゃないか!


「まあそんな怒らんでもよいではないか。敵もこうして倒せたんじゃし、これで先に進めるな!」


「ふはははは!」と胸を張りながら高らかに笑うヘカーティ。

するとオフィーリアが声をあげる。


「あの、ご先祖様……申し訳ないのですが、もう限界です……」

「おおそうじゃったか。オフィーリアよ、暴れる機会をくれてありがとうな。しかし、今度はミノタウロスくらい一人でも倒せるように鍛えるんじゃぞ?」

「はい!精進します!」

「それじゃあの。セレスティアもまた会おう」

「え、ええ」


――ヒュンッ!


こうしてオフィーリアの分身は消えた。

ヘカーティの魂は、またオフィーリアの中に戻ったのだろう。


「ふぅ……やかましい奴が消えて静かになりましたわね。それにしてもオフィーリア、あなた自分一人で倒すと言っておきながら結局人の力借りてるではありませんか」

「いちいちうっさいわね。倒せたんだからいいでしょ」


なんか逆ギレされた。

しかもヘカーティと同じようなこと言ってるぞこいつ。


「さすがに私も疲れたわ。セレスティア、悪いんだけど手貸してくれない?ちょっと立つのもしんどくてさ」

「……仕方ありませんわね」


こうして俺がオフィーリアに手を差し出すと、バシンッ!と手を掴んでくる。


「ありがと。ふふっ」


そしてなぜかニヤリと微笑んだ。


「『生命吸収エナジードレイン』」

「なっ!?」


――ギュンギュンギュン!


俺の中から魔力が吸い取られていくのを感じる。

俺は慌てて手を離した。


「ちょっと!?なにするんですの!?」

「あんたさっき人より魔力量が多いとかなんとか言ってたじゃない。別にいいでしょ?ちょっとくらい」

「ま、まあ、別にこれくらいなんともないですけど!?でもなんでこんな不意打ちみたいな真似をするんですのよ!」

「偉大なご先祖様に対して『やかましい奴』なんて失礼な事言うからその罰よ。あー、おかげで元気になったわ。ありがとうね」


いちいち細かいなぁこいつ。

どうなってるんだこの家系は。

先祖も先祖だがこいつもこいつでなかなかめんどくさいぞ。


「ところであんた。どうやって私を一瞬で移動させたのよ。突然の連続だったから、何もわからなかったんだけど」

「絶対に教えませんわ!」

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