第73話 ミノタウロス
「おお〜、でっけぇ〜扉がありますわね〜」
「いかにも中に魔物がいますよって感じの扉ね」
俺たちがダンジョン内を探索していると、行き止まりに巨大な両開きの扉がそびえ立っていた。
オフィーリアの言う通り、扉の奥からは並の魔物とは違う強大な生命エネルギーを感じる。
「一体この中には何がいるんでしょう?知らない生命反応ですわ」
「何がいてもいいじゃない。どんな魔物だろうと私の闇魔法の敵じゃないわ」
「大した自信ですわね。ま、とりあえず入りましょうか」
「ええ」
――ギィィィィィィ!
重い扉を開ける音が、静寂に包まれたダンジョン内に響き渡る。
中は円形の広間になっており、ところどころの壁で炎が燃えていて、通路よりずっと明るかった。
これだけ明るいなら一旦光の球は消してもいいだろう。
俺は『閃光球』を解除する。
魔力の節約になって助かるなぁ。
それにしても、いかにも戦うためのフィールドって感じだ。
そして広間の中心には、牛のような頭と筋骨隆々の肉体を持った巨大な魔物がいた。
「ブルゥゥゥ……ッ!」
ただ立っているだけで、ビリビリとした威圧的なオーラを放っている。
「あれはもしかして……」
「ミノタウロスね。へぇ、結構強力なモンスターがいるじゃないの」
「オークよりも強いんですの?」
「パワーもスピードもオークより断然上よ」
「なるほど。やりがいがありますわね」
ミノタウロスかぁ。
食堂のメニューで何回か食べたことあるけど、実際に対面するのは初めてだなぁ。
オークもそうだが、どう見てもおいしそうには見えない。
でも、食べてみるとおいしいんだよな。
あれ?でもダンジョン内の魔物って、倒したら魔石になるんじゃなかったか?
「オフィーリア、あいつ倒しても食べられませんの?」
「そりゃそうでしょ。倒したらちょっと大きい魔石になって終わりよ。外にいる野生のミノタウロスとは違うんだから」
「そんな……せっかく初めて対面できたのに、倒しても食べられないなんて……」
「あんた……そんな食べることしか頭になかったっけ?」
「食事は重要ですわ!わたくしは他の方たちより魔力量が多いんですから、いっぱい食べなきゃいけないんですの!」
「へぇ〜、大変なのね〜」
オフィーリアが呆れたように適当な返しをしてきた。
食事の重要性をまるで理解してくれない!
サフィアならきっとわかってくれるはずなのに。
倒してもお肉が手に入らないなんて、全然モチベーションが上がらないなぁ。
俺がそんなふうに肩を落としていると、オフィーリアが一歩前に出た。
「じゃ、今度は私の番ね」
「えっ?あなた、一人で戦うつもりですの?ていうかいつから交代制になったんですのよ」
「さっき目の前であんなデタラメな魔法を見せられたら、私も黙ってはいられないわ!あのレベルの魔物だって、私一人で倒せるってことを証明してやる!」
オフィーリアはやる気満々だ。
彼女なりになにかプライドがあるんだろう。
まあ別にいいか。
自信あるみたいだし、邪魔するのも悪いしな。
ほんとにヤバそうだったら助けに入ればいい。
どんな戦い方をするのか見学させてもらおう。
「わかりましたわ。ではわたくしはゆっくり見学させていただきます」
「ええ、よーく見ておきなさいよ!」
こうして、オフィーリアが巨大なミノタウロスのほうへと一人で向かっていくのを俺は見送った。
「ヴォォォォァ!!」
ミノタウロスがオフィーリアに気づき、空気を震わせるほどの威嚇の咆哮をあげる。
しかしオフィーリアは怯むことなく、ミノタウロスを真っ直ぐに見据えていた。
「さて、早速いかせてもらうわ!『影槍撃』!」
――ブォン!
オフィーリアの周りに無数の影の槍が出現し、ミノタウロスに向かって放たれる。
――ズズズズッ!
ミノタウロスの身体中に槍が命中したが……
「ヴォォォォァ!」
「ま、こんなんじゃ倒せないわよね」
硬い筋肉に阻まれ、まったくダメージが入っていなかった。
そしてミノタウロスはすかさず地を蹴り、オフィーリアの眼前に素早く接近すると、丸太のように太い腕で巨大な拳を振り下ろしてくる!
「『高速移動』!」
――ドォォォォン!!!
ミノタウロスの拳が石畳の床を粉々に砕く。
とてつもないパワーだ。
「ふぅ……あぶないわね。あんなの喰らったらひとたまりもないわ」
しかし、そこにオフィーリアの姿はなかった。
拳が振り下ろされる直前に『高速移動』を発動し、攻撃範囲外へと逃れていたのだ。
「へぇ〜、闇魔法だけじゃなくてちゃんと補助魔法も使いこなしてるんですのね」
俺は素直に感心していた。
今まで闇魔法を使う姿ばかり見てきたので、補助魔法のレベルがどれほどなのか知らなかったが、ちゃんと特訓してるんだな。
そして、オフィーリアは攻撃を避けると同時にミノタウロスの背後へと回り込み、両手で魔法を放つ構えをしていた。
「くらいなさい!『影砲撃』!」
――ブォォォォォォン!
オフィーリアの両手から、極太の黒い闇のエネルギー砲が放たれる。
背後からの奇襲に気づいたミノタウロスはすぐに振り向き、太い両腕を身体の前でクロスさせてガードの構えをとった。
「ヴォォォォァ!!!!」
「くっ……!」
オフィーリアは全力で『影砲撃』を撃ち続けているが、ミノタウロスの強固なガードを崩しきれない。
やがてエネルギー砲が途切れる。
ミノタウロスの腕は黒く焼け焦げてダメージを受けていたが、胴体までエネルギー砲は届いておらず、まだまだ戦えそうだった。
「はぁ……はぁ……」
魔力を連続で消費したオフィーリアも、少し息が上がってきている。
「まったく……強気なこと言ってた割に、かなり苦戦してるではありませんか」
手助けしてあげたほうがいいか?
俺とオフィーリアで一緒に戦えば、確実に倒せそうな敵ではあるが。
俺はミノタウロスと睨み合っているオフィーリアに呼びかける。
「オフィーリアー!わたくしが手を貸してあげましょうかー?」
「うっさいわね!邪魔しないでよ!」
「そうは言っても、相当苦戦してるではありませんかー!」
「ふん!私はまだまだやれるわ!あんたは黙って見てなさい!」
「はぁ……」
頑なに俺の手助けを拒むオフィーリア。
思わずため息が出てしまう。
おいおい、大丈夫か?
まだなにか作戦があるんだろうか。
「ミノタウロス、あんたなかなかやるわね。私の本気、見せてあげるわ!」




