第7話 風魔法とリリィ
「わたくし、全属性が扱えますので」
「はぁ!?」
クレアの素っ頓狂な声を背中で聞きながら、俺は颯爽と踵を返した。
さて、次はどの属性を試そうか。
俺は演習場を見渡した。
水は先生が見せたし、火はさっきライターレベルだが成功した。
そうだリリィ!リリィは風属性だと言っていたな。
次は風魔法を試してみよう!
俺は少し離れた場所で練習しているリリィを見つけ、声をかけた。
「ごきげんよう、リリィ。調子はいかがですか?」
リリィはブツブツと何かを呟いていたが、俺の声に気づくとハッと顔を上げた。
「あ、セレスティア様……! いえ、その……やはり実践は難しいです……」
リリィは困ったように眉を下げた。
「本で読んだ理論は頭に入っているのですが、それを実際に形にするとなると……なかなかうまくいかなくて……」
しょげている姿も可愛らしいが、今の俺には彼女の知識が必要だ。
「わたくしにも風魔法を教えてくださいませんか?」
「!!セレスティア様も風属性だったのですか!?」
リリィが目を丸くして食いついてきた。
俺は人差し指をそっと唇に当て、悪戯っぽく微笑んでみせた。
「いいえ、わたくし『全属性』扱えますの」
「ぜ……全属性!?そんなの……聞いたことがありません……!いかなる古文書や魔導書にも、そんな記述は……!」
リリィが驚愕のあまりフリーズしている。
しまった、ちょっと刺激が強すぎたか?
俺は慌てて補足する。
「リリィ、このことは秘密ですわよ?」
「は、はい!セレスティア様と私だけの秘密……ですね!」
なぜかリリィは頬を染め、恍惚とした表情で大きく頷いた。
……まあ、さっきかっこつけてクレアにも言っちゃったんだけどな。
それは言わないでおこう。
多分いずれバレるしな。
「それで?風魔法というのはどういうものですの?」
「はい!よくぞ聞いてくれました、セレスティア様!」
俺が質問した瞬間、リリィの雰囲気がガラリと変わった。
おどおどしていた態度が消え、瞳が大きく開かれる。
テンションが上がっている。
これは……なんかデジャヴを感じるぞ。
まさかまた…
「風魔法の本質はマナによる大気の流動操作と圧縮プロセスにあります!通常初心者は風を起こすことに意識を向けがちですが重要なのは『気圧差』です!局所的に高気圧と低気圧の境界を作り出しその圧力勾配力を利用して指向性を持たせることで――」
始まってしまった……
ずっと早口でよくわからないことを言っているぞ……このままだと日が暮れてしまう!
テンションが高いリリィも可愛いが
「リ、リリィ!お、落ち着きなさい……!」
「ハッ!すみません……つい……」
「深呼吸!一旦深呼吸をしましょう!」
「は、はい……!すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~」
よし!これで一旦落ち着いたかな?
「理論はもういいですわ。どのような魔法がありますの?」
「はい……!風魔法は主に空気を操る魔法なんです……!初歩は小さな風しか起こせませんが、それでも圧縮した空気を飛ばせば攻撃魔法にもなります……!
使いこなすことができれば音を遠くへ届けたり、逆に遮断したり……それに空を飛ぶことだって可能なはずです……!」
なるほど、空も飛べるようになるのか!それはわくわくするなぁ!
しかし、初心者の俺ではそんなことはまだできないだろう。初歩的な攻撃魔法を撃つことができるだけでもいいかもしれない。
「リリィ?お手本を見せてくださる?」
「は、はい……!もちろんです!」
そうしてリリィは両手を的に向かって構え、目を閉じる。魔法を撃つイメージをしているのだろうか。
そして目を見開くと風が起こった。
ザンッ──!
という音とともに的に切り傷が入っている。
「これが初歩的な風魔法……
疾風の刃です……」
「すごいですわ!!!」
俺は思わずテンションがあがる。
これが風魔法か!
「いえ……私なんて……まだまだです……威力も大したことないし……」
「そんなことないですわ!立派な風魔法ではありませんか!」
「セレスティア様……!えへへ……ありがとうございます……」
リリィが照れてもじもじしている。
かわいらしい。
「わたくしもやってみますわ!」
「セレスティア様……!大切なのはイメージすることです……!風を圧縮し、解き放つイメージをしてやってみてください……!」
俺はリリィのアドバイス通り、脳内でイメージする。
風を圧縮……!そして解き放つ!
「はぁっ!!!」
雄叫びとともに風が……
起こらない……?
「あ、あら?おかしいですわね……もう一回やってみますわ!はぁっ!!!」
しかし風は起こらない。
的に傷一つついていない。
「でませんわ……」
「セレスティア様……」
リリィも悲しそうな顔をしている。
せっかくアドバイスしてもらったのに……
「ハッ!もしかして……」
そう言ってリリィは小さい石ころを拾ってきて、近くの大きな岩の上に置いた。
「セレスティア様……!この石ころを目標に撃ってみてください……!きっとこの距離なら……!」
「わ、わかりましたわ!はぁっ!」
すると、石ころが風を受けたように飛んでいった。成功……したのか……?
「で、でましたわ!リリィ!でましたわ!」
「はい……!ちゃんと見てましたよ……!
セレスティア様……!よかったです……!」
「しかしどうして……?先程まではうまくできませんでしたのに……」
「きっと射程距離です……」
射程距離……?
「セレスティア様は……最初から魔法を撃てていたんです……それがあの的まで届いてなかったんだと思います……」
「なるほど、だから近くの石は飛ばすことができたのですね」
「はい……!射程距離が短くて的まで届かないことは、初心者ではよくあることなんです……!」
初心者あるあるに陥っていたわけか。
てっきりあの女神が嘘ついてて風魔法は使えないと思ってしまったぞ。
「失礼ですね♪私が嘘つくわけないじゃないですか♪」
「っ!?」
「エリスさん!?」
いつの間にかエリスがすぐそばにいた。
びっくりした。てか勝手に人の心読むな。
「エリスさんも風属性なんですか……?」
「いえ~?適当にふらふらしてるだけですよ♪そしたらいちゃいちゃしてるお二方を見かけたので♪」
「い、いちゃいちゃ……!?」
リリィが顔を真っ赤にしている。
「あまりリリィをからかわないでくださいまし。風魔法を教わっていただけですわ」
「あら♪そうでしたか♪それで、どうです?
魔法の調子は♪」
「順調……と、言いたいところですが」
確かにエリスの言う通り色んな属性の魔法が使えるのがわかった。しかししょぼい……
最初はテンション上がったがこんなんじゃ使い物にならんぞ。
「この程度の魔法では実用性がありませんわ」
「まあそう焦らないでください♪誰だって最初はそうなんですから♪ですよね?リリィさん♪」
「は、はい……!セレスティア様ならきっと、もっとすごい魔法が撃てるようになります……!だから……その……落ち込まないでください!」
リリィが励ましてくれる。なんて優しいんだろうこの子は。
するとエリスが俺だけに聞こえる小声で囁いてくる。
(あなたの身体はできたてでまだ赤ちゃんのようなものなのですから♪焦らずともすぐに特大の魔法が撃てるようになりますので♪安心してください♪)
(そうなんですの……?)
本当かぁ?
しかし、いまは女神の言葉を信じるしかないな。
「あの……何を話してるんですか……?」
「風魔法の練習という口実で、リリィさんといちゃいちゃできるってアドバイスしてあげただけですよ♪」
「い、いちゃ!?」
またリリィの顔が真っ赤になる。
こいつ、リリィで遊んでいるな?
しかしエリスが言うことも一理ある。
俺達は恋人同士なんだ。
できるだけ一緒にいられるほうがいい。
「リリィ、これからもアドバイスお願いしますね?」
「は、はい……!任せてください!」
リリィが元気よく返事する。
名残惜しいが風魔法が使えることもわかった。今度は別の属性を試したい。
授業の時間も限られてるだろう。
もう行かなくては。
「それではリリィ、わたくしは別の属性の場所に行ってきますわ」
「もう行っちゃうんですか……?」
「ふふっ大丈夫ですわ。わたくしたちは恋人でクラスメイトなのですから。またいつでも会えますわ。ごきげんよう」
「はい……また一緒に練習しましょうね!」
そうして俺は次の属性の場所に向かう。
……そういえばいつの間にかエリスのやついなくなってたな。本当、自由な女神だ。




