第65話 一方その頃部長とエリス
――時は少しさかのぼり……
セレスティアたちがヒールハーブを探して森の奥へ向かった頃。
ベアトリスとエリスの二人は、反対側の獣道を歩いていた。
「いやぁ〜、エリスくんが入部してくれたら魔法研究会も賑やかになりそうだね!」
「ふふっ♪そうですねぇ〜♪私もベアトリス部長から色んなことを学ばせていただきたいです♪」
「セレスティアくんが連れてきた娘なのに、めっちゃいい娘じゃん!なんでも聞いてよ!部長としてバッチリ教えてあげるからね!」
エリスに持ち上げられ、すっかり気分を良くしているベアトリス。
彼女はウキウキしながら森の中を進み、やがて木の陰に生えるキノコを発見した。
「おおっ!エリスくん見てごらん!あれが『グリーンマッシュルーム』だよ!」
「わぁ〜!鮮やかな緑色ですねぇ〜♪あれぇ?でも部長さん、あのキノコ、傘の裏側が少しだけ赤くないですかぁ?」
エリスはわざとらしく小首を傾げてキノコを指差した。
「んん?そうなの?エリスくんは目が良いね。でも大丈夫!きっとそれはよく熟している証拠だよ!むしろ高品質なポーションができるかもしれない!」
何の根拠もなく自信満々なベアトリスがキノコに近づいていく。
その様子を見て、エリスの口角がニヤァっと吊り上がる。
もちろんエリスは女神なので、それが熱を加えると爆発する『ボムマッシュルーム』であることに気づいていた。
しかし、彼女がそれを指摘するはずもなく……
「あれ?このグリーンマッシュルーム、素材に使うには少し湿気っているね。ちょうどいいや。よし、エリスくん!私の火魔法で、少しだけキノコを乾燥させてみせよう!」
「えぇ〜っ!?火魔法を使っちゃうんですかぁ!?」
「あぁ!ちょっと炙るくらいなら問題ない!これも魔法研究会の活動の一環、実践あるのみだよ!」
「わぁ〜!部長さんすごーい!どんなふうになるのか、とーっても楽しみですぅ〜♪」
目を輝かせて拍手をするエリス。
「ふふん、見ていたまえ!『灯炎』!」
――ボッ!
ベアトリスが自信満々に指先から小さな炎を出し、キノコに近づけた。
次の瞬間。
緑色だったキノコが不気味に赤く発光し、ぶくぶくと膨張しはじめた。
「……ん?なんかキノコの色変わってない……?しかもなんか膨らんで……」
「あははっ♪部長さん、これ爆発しますよ♪」
「えっ」
――ドッッッッッカーーーン!!!
「『神聖防壁』♪」
ボムマッシュルームの凄まじい爆発音が森の中に響き渡る。
「やれやれ♪こんな人が部長なんて、セレスティアさんも面白いところに入りましたね♪」
「うわあああああっ!……ってあれ?無傷だ。しかも吹っ飛んでない」
ベアトリスは咄嗟に閉じていた目を開き、自分の手や身体を確認していた。
地面や目の前の木を見て、位置が変わってないことも確認している。
ベアトリスの目の前に広がる光景は、なかなかに酷い有様だった。
ボムマッシュルームが生えていた倒木や周囲の雑草は真っ黒に焦げている。
そして、ボムマッシュルーム自体は爆散し跡形もなくなっていた。
もし爆発が直撃していれば、ただでは済まなかっただろう。
――それなのに。
エリスとベアトリスの立っている半径数メートルだけは、全くの無傷だった。
服の裾すら汚れていない。
まるでそこだけ別の空間に切り取られたかのような、異常な光景になっている。
至近距離でいきなり爆発し、防御する暇もなかったはずなのに、吹っ飛ぶこともなく無傷なことに困惑状態のベアトリス。
「さすが部長さんですね!『たまたま』爆発に巻き込まれずに無傷だなんて♪私も焦りましたよぉ〜」
「あれ?でも目の前で爆発したけど。エリスくんもしかして……」
ベアトリスが何かに気づいたかのように言う。
「私ってめちゃくちゃ運がいい!?」
「そうです、部長さんは強運の持ち主ですよ!私も部長の強運にあやかって無傷で済みましたし♪ぜんぶ部長のおかげです♪」
「そう?やっぱそうだよねぇ!」
「「あははははっ!!」」
こうして大声で笑い合う二人であった。




