第6話 初めての魔法
「まず魔法を扱ううえで必要なのは自らの属性を把握することです。私の場合は水属性ですね。例えばこのように――」
そう言うと先生は手のひらの上に小さな水の玉を出した。
すげえ!水の玉が浮いてる。
「最初はこのような簡単な魔法しか扱えません。しかし、己を理解していけばもっとすごい魔法が使えるようになりますよ」
なるほど。俺も極めれば……あれ?そもそも俺は何属性なんだ?
「みなさん、入学時に自分の属性を把握したはずですよね?まずは自分の属性の初歩的な魔法を扱えるようになりましょう。」
自分の属性……?
いやいやそんなん知らんぞ!
内心慌てている俺をよそに
「ちなみに、この学園には特別な属性である光魔法を扱える生徒がいます。ミーナさん!」
「は、はい!」
大きな声の返事とともに神秘的な輝きを放つ銀色の髪の少女が前に出る。
「あれ編入生の子じゃない……?」
「ああ確か遠い村出身の……」
生徒たちのそんなひそひそ話が聞こえてきた。
なるほど。特別な力を持った村出身の女の子。まるでゲームの主人公みたいだ。
待てよ?今の俺は悪役令嬢。悪役っぽく振る舞うチャンスじゃないか?
「ミーナ・ベルと申します!よろしくお願いします!」
自己紹介をし、ぺこりと頭を下げる彼女に向かって
「あら、特別な力を持っているというからどんな方かと思ったら、ただの庶民じゃありませんの」
俺は精一杯の高飛車ボイスで嫌味を言ってみた。
「お姉様の言う通りです!こんな庶民になにができるんですか!」
カノンも乗ってきた。
クレアはやれやれと呆れているが、周りの貴族生徒たちもクスクスと笑っている。さあどうだ。怖がれ。萎縮しろ。
「あの!セレスティア・フォン・オブシディア様ですよね!お噂はかねがね!同じ授業を受けられるなんて光栄です!」
しかしミーナは目をキラキラさせて食いついてきた。
あれ?なんか反応違くない?
なんでこんな好感度高いの!?
ていうか俺のフルネーム初めて聞いたわ!
そんな名前だったの俺!?
嫌味を言われたという自覚がないのか、それとも単なるド天然なのか。不思議な子だ。
「ええと……仲良くしてくださいね~。ではミーナさん、皆さんに光魔法を見せてあげてください」
先生に促され、ミーナが胸の前で両手を組んで祈りを捧げる。
すると、彼女の全身から眩い光が溢れ出した。
「えいっ!」
ミーナが両手を掲げると、演習場全体を包み込むような光の粒子が舞った。
それは攻撃的なものではなく、浴びただけで体が軽くなるような、温かく神聖な輝きだった。
「す、すごいですわ……!」
「これが……光魔法……!綺麗……」
「そんな……こんな庶民が……」
俺は思わず見とれてしまった。
隣のリリィは感動し、カノンは敗北感を感じているようだ。
これが本物の光魔法か。演出が派手すぎるが綺麗だ。
リリィの言っていた『特別な人のみが扱える』ってのも納得だ。
ハッ!思わず素に戻ってしまったが悪役令嬢に戻らなければ。
「ふ、ふん。まあまあですわね。少し眩しすぎますわ」
「!なるほど……光量の調整ですね!ご指導ありがとうございます!」
嫌味のつもりで言ったのに、ミーナは感謝の眼差しを向けてきた。
だめだこの子、いい子すぎる。調子が狂うな。
「それでは各自、自分の適性魔法の練習を始めましょう~」
先生の号令で生徒たちが散らばっていく。
そうだ属性!結局俺の属性わかってないじゃん!
「セレスティア様……私は風属性なので……」
「お姉様!私は土属性のところに行ってきますね!」
「あたしは火属性のほうか~」
リリィもカノンもクレアも行ってしまった。
みんな自分の適性属性は把握済みらしく、迷いなく練習を始めている。
こういうときはまだ残ってるあいつに助けを求めよう。
「エリス!」
「どうしました?セレスティアさん♪練習始めないんですか?」
とニヤニヤしながら答える。
こいつ、俺が困ってるの絶対わかってるだろ。
「わたくしの属性がわからないのですが……そもそもみなさんはどのようにして属性を把握していますの?」
「この学園には、入学するときに自身の属性を測る儀式のようなものがあるらしいですよ?儀式といっても水晶に触るだけなんですけどね♪」
「……水晶?そのようなもので属性がわかりますの?」
「はい、水晶に触れたときの光の色で属性を把握するらしいです♪」
なるほど、結構簡単なんだな。でも入学時にやるなら今はもう分からないんじゃ……
「先生ー!セレスティアさんが自分の属性がわからないらしいです!」
「っ!?」
こいつ勝手に!しかもそんな大声で言ったら周りにも聞こえるだろ恥ずかしい!
幸い、ほかの生徒達は自分の魔法の練習に夢中で気づいてないようだった。
「おや、セレスティアさんほどの方がご自身の属性を把握されていないのですか?」
「確認ですわ。改めて、このわたくしの属性の光を見たいんですの」
俺は適当に言い訳する。
「あらそうですか。でしたらこの水晶を使ってください」
持ち歩いていいんだそれ。
だが助かる。
楽しみだなぁ。どんな属性の魔法が使えるんだろう。
俺は先生が持っている『属性判定の水晶』の前に立った。
これに触れれば、適性属性の色に変わるはずらしい。
俺はそっと手をかざした。
ブォン……。
水晶の内部で、色が渦を巻く。
赤、青、緑、黄、そして白と黒――。
あらゆる色が混ざり合い、まるで万華鏡のように激しく輝き出した。
「あら?これ壊れてますの?」
「いえ……そんなはずは……」
そして水晶がピキピキと音を立てて震え出す。
そしてパリィン!と砕け散った。
やばい!壊れたぞ!
なんかまずいことしたか!?
「も、申し訳ございません……壊してしまいましたわ……」
「これはいったい……」
先生も困惑している。すると
「さ♪いきましょうセレスティアさん♪」
とエリスに引っ張られる。
「いや……でも水晶が壊れて」
「水晶なら壊れてませんよ♪」
エリスが俺の言葉を遮る。
先生が持っていた、壊れたはずの水晶が元に戻っていた。
「元に戻っていますわ……」
「あら?でもさっき確かに……」
「先生きっと疲れてるんですよ♪無理しないでくださいね?それでは私たちも練習に行ってきますね♪」
「え、えぇ……頑張ってくださいね~……」
そうして俺とエリスは先生から離れる。
「エリス!いったい何だったんですの!?結局わたくしの属性は!?」
「全部です♪」
「は?」
全部!?全部ってどういうことだ!?
全属性扱えるってこと!?
「忘れたんですか?あなたの身体は女神であるこの私が作ったんですよ?それくらいのことはできますよ♪」
「なるほど……ていうかあなた!わたくしの属性知っていましたの!?ならさっさと教えなさい!」
「だって面白いじゃないですか♪水晶が割れてびっくりするあなたたちの姿♪」
こいつ全部わかってて黙ってたのか。
いつの間にか割れた水晶が元に戻っていたのもこいつの仕業だな?
「まあそんな怒らないでください♪魔法、楽しみにしてたんでしょう?全属性扱えるんですよ?色々楽しんだらいいじゃないですか♪」
たしかに。全属性扱えるってことは色んな魔法が試せるってことだ。
それは結構わくわくする。
まずなにから試そうか。
水魔法はさっき先生に見せてもらったしな。
光魔法や闇魔法も扱えるはずだが特別な人にしか扱えないのならいきなり使うと目立つだろう。
そうだ火魔法!火だったらイメージしやすいし試してみたい。
そういえば、さっきクレアが火属性って言ってたな。聞いてみよう。
「ならまずは火魔法を試してみますわ」
「火属性ならあっちですよ♪いってらっしゃい♪」
エリスはどうするんだ?と思ったがこいつは女神だ。わざわざ魔法の訓練なんてしないだろうし適当にサボるんだろう。
そして俺は、火魔法の練習をしているクレアを見つけ声をかける。
「ごきげんよう、クレア。わたくしに火魔法を扱うコツを教えてくださる?」
「はぁ?何よ急に。てかあんた火属性だったっけ?……まあいいわ。大事なのはイメージよ。体の中の熱を一点に集めて、ドカンと爆発させる感じ!」
クレアが掌を突き出すと、紅蓮の炎が渦を巻いて噴出した。
ボォォォォン!!
熱風が頬を撫でる。かっこいい。
これだよこれ!俺が求めていたのは!
てか炎でかくないか!?
今やってるの初歩なんだよな!?
もしかしてクレアも結構すごいのか?
と、とりあえず俺もやってみよう。
「よし、やってみますわ!」
俺は右手を突き出し、全身全霊で炎をイメージした。
燃えろーーー!!!
「はっ!」
ボッ。
俺の指先から、ライターの火のような小さな炎が生まれた。
ゆらゆらと頼りなく揺れ、風が吹けば消えてしまいそうだ。
「ぷっ……ちっさ!なによそれ!あんた大したことないのね!」
クレアが腹を抱えて笑う。
だが、俺は感動で打ち震え自身の指先の火を見つめていた。
出た!魔法が出たぞ!
ちっぽけだけど、俺の手から火が!
「でましたわ!クレアごらんなさい!火がでましたわ!」
「ちょ、そんなことではしゃがないでよ。……まあ最初にしては上出来なんじゃない?」
俺が喜んでいるとクレアも満更でもなさそうに笑ってくれた。
やっぱり魔法は楽しいな!
と思った瞬間。
プツッ。
「あっ」
集中力が切れたからか、指先の火が煙も出さずに消滅した。
気まずい沈黙が流れる。
「……消えちゃったわね」
「ですがちゃんとでましたわ!今度はもっと大きいのを出してみせますわ!」
「あんたポジティブね……」
クレアが生温かい目で見てくる。
しかし俺が扱えるのは火属性だけじゃない。もっと他の属性の魔法も試してみたい!
「それではごきげんようクレア。わたくし、他の属性も試してきますわ」
「は?何言ってんの?あんた火属性だったんじゃ……さっきだって火魔法を……」
「わたくし、全属性が扱えますので」




