第51話 ドラゴンジェットコースター
「それでは、そろそろランチにしましょうか」
お茶を飲み終えたあたりで、ディアカシャが唐突に切り出す。
「えっ、食べ物あるんですの!?」
「ありますよ」
ディアカシャは表情を変えずにさらっと答える。
しかし、普段はドラゴンとか使い魔しかいないんだよな、この家。
まともな人間用の食材とかあるのか?
「……ちゃんと人間が食べれるものですわよね?生肉とか岩とかじゃないですわよね?」
「相変わらずセレスティアさんは疑い深いですね〜♪」
エリスがニヤニヤと茶々を入れてくる。
「では、こちらへどうぞ」
「えぇ〜わざわざ移動するんですの?めんどくさい……ここでいいではないですか」
めんどくさぁ……
ご飯くらいこの部屋に持ってきてほしいよ。
「食事する部屋もちゃんと用意してあるんですよ♪こういうのは『形』が大事なんです、『形』が♪文句言わずにさっさと行きますよ〜♪」
「はぁ……」
仕方ないのでエリスの言うことに従う。
そして案内されたのは、貴族が食事をするような長いテーブルがある豪華なダイニングルームだった。
「はぇ〜。エリス、これわざわざ用意したんですの?」
「はい、悪役令嬢のお家なんですから、ちゃんとしないと♪」
ふーん、女神なりにこだわって作った家なのか。
でも、実際こういうのを見るとテンション上がるなぁ〜!
テーブルマナーとか雰囲気だけで全然知らないけど!
――ガチャッ
「失礼します!」
メイド服を着た人が料理を運んできてくれた。
この人もエリスの使い魔かなにかなのかな?
ちゃんとメイド服着てるし……
そして運ばれてきたメインディッシュを見る。
分厚いステーキ肉だ!
俺のテンションが上がっていることに気づいたのか、ディアカシャが言う。
「セレスティアはお肉が好きだとエリス様から聞きましたので、用意しました」
「おお!その通りですわ!ありがとうございます!」
「ふふっ♪おいしそうなドラゴン肉ですね〜♪」
「えっ!?」
これドラゴン肉なの!?
そう言えばエリスが前、ドラゴン肉はおいしいみたいなこと言ってたよな!?
どんな味するんだろう?
ていうかドラゴン肉ってことは……まさか……
俺は恐る恐るディアカシャの方を見る。
「……私の肉じゃないですよ?それにそもそもドラゴン肉ですらないです。エリス様の言うことを真に受けないでください」
「エリス……」
「もう、ちょっとした女神ジョークじゃないですかぁ〜♪そんな怒らないでくださいよ♪」
なんだ、違うのか。
エリスはこういうしょーもない嘘をつくような奴だった。
「すぐドラゴンを食べようとしないでください、エリス様」
ディアカシャも呆れているようだった。
結局なんの肉なんだろう……
とりあえず肉を食べてみると、ミノタウロスの肉だった。
学園の食堂でも食べたことあるから味で分かる。
柔らかくておいしい!
流石豪邸の食事だ!
そして食事も終わり――
「では、そろそろ帰りましょうか♪」
「そうですわね、お世話になりましたわ。……ディアカシャ……ママ……」
やっぱり気恥ずかしい。
「はい、またいつでも帰ってきてください」
そう言うディアカシャは、少し表情が柔らかく見えた。
相変わらず目つきは鋭いけど……
まあでも、学園寮以外にも帰れる場所があるっていうのは心強いな。
「さて、どうやって帰りましょうか?」
「どうって……行きと同じで徒歩じゃありませんの?」
「それじゃあんまり面白くないですねぇ……」
なんだそれ……
行きは徒歩がいいって言っておいて……
またろくでもないこと考えてそうだなぁこいつ。
「そうだ!ディアカシャ、ドラゴン態になって私たちを国近くの森まで運んでくださいよ!」
「なに言い出すんですの!?」
あんなデカいドラゴンが近くを飛んでたら、めちゃくちゃ目立つだろ!
さっき騒ぎにならないようにって話してたじゃねえか!
「分かりました。ドラゴン態になります」
「ちょっと!?」
「エリス様には刃向かえないので」
そう言いながらディアカシャは変身しようとする。
すると、ズズズっと音が聞こえてきた。
あの時のデッカイドラゴンになるのか!?
俺が怯えていると……
――バッサァァ!
ディアカシャの背中から、巨大な翼だけが生えた。
「えっ?」
俺がポカンとしていると、エリスがケラケラと笑いながら言う。
「あはは♪完全なドラゴンになるわけないじゃないですか♪騒ぎになっちゃいますよ」
「エリス……!あなた騙しましたわね!」
「面白くて、つい♪」
つい♪じゃないよ!
ビビったぁ……
でもちょっと見てみたかったかも……
いつか大きなドラゴンの背中とか乗ってみたい。
「目立つといけないので、翼だけ生やして飛ぶことにします。そういうことですよね、エリス様」
「はい♪」
さすが使い魔。
エリスの意図が分かっていたのか。
というかもしかして、ディアカシャも俺をからかっていたのか?
めちゃくちゃドラゴンに変身する雰囲気出してたじゃん!
「あなたたち、一緒になってわたくしをからかって遊んでいますわね!?」
「そんなことはないですよぉ、ねぇ?」
「はい、そんなことはないです」
二人とも俺とは目を合わせてくれないんだが。
ちゃんと目を見ろ目を。
「もう!帰るんでしょう?ディアカシャ、早く送ってくださいまし!」
「だからママだと――」
「もうママなんて呼んであげませんわ!」
「そ、そんな……これが反抗期……ですか……」
珍しく、ガーンとショックを受けたような顔をするディアカシャ。
えっそこでそんなショック受けるの?
どんだけこだわってたんだよ!
「さあ二人とも、行きますよ♪」
いつの間にかディアカシャの腰にしがみついているエリスが言う。
なんで運んでもらうはずなのにお前が仕切ってるんだ。
「エリス様は自分で飛んだらいいのでは?」
「セレスティアさんと一緒に運ばれたいんですよ♪」
「はぁ……わかりました……」
ため息をつきながら、よくわからないことを言うエリスに従うディアカシャ。
二人運ぶの大変そうだけどな。
刃向かえないというかもうめんどくさくなってるんじゃないか?
「ほら、セレスティアさんも腰に捕まって!」
エリスも急かしてくるし、とにかく俺も捕まろう。
「それでは行きますよ。ふっ!」
――ビューーーーーーン!
「!?」
えっ速っ!
こんな勢いで飛ぶなんて聞いてないぞ!?
「ちょっと!?落ちる!落ちる!」
「ちゃんと捕まってれば大丈夫です♪だって古竜ですよ?二人くらい落とさず運んでくれますって♪」
「いやでも速すぎるって!うわああああ落ちるううううう!」
「あははー♪」
――ドォォォォォォン!
数分後、大きな音を立てて国近くの森の入り口に着地する。
「はい、着きました。これくらい近くまでくればいいでしょう」
「さすが、速いですねぇ♪」
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
生きた心地がしない……
絶叫アトラクションにでも乗った気分だ……
なんか着地も派手だったし結局目立つんじゃないかこれ。
しかし、ディアカシャとエリスはまったく気にしていないようだった。
「それでは私はこれで。また会いましょう」
「ええ……また機会があれば帰らせていただきますわ……」
「ありがとうございましたー♪」
ディアカシャは「ふふっ」と少しだけ微笑むと、「ビューン!」と物凄いスピードで飛び立って行った。
あっという間に見えなくなる。
客観的に見るとあんな速かったのか。
よくあれに捕まって生きてたもんだ。
「ふふっ♪今日も楽しかったですね♪明日も休みですし、何しましょうか?」
「俺はぐっすり眠りたいよ……ところでエリス」
「なんです?」
「お前やっぱディアカシャに嫌われてない?」
「なんてこと言うんですか!そんなことないですよぉ。どう見ても仲良しでしょう!」
「ははっ、女神ジョークってやつだよ」
「女神ジョークは私だけの特権ですよぉ〜」
そんな会話をしながら、俺たちは学園寮への道を歩くのだった。




