第50話 ママとおこづかい
「ふぅ〜疲れましたわぁ〜」
俺はディアカシャに案内された部屋のソファに座り、一息つく。
学園からここまでずっと歩いてきたからな。
しかもあんな険しい獣道を。
それなりに疲れた。
「セレスティア、はしたないですよ」
ソファでだらけていたら、すかさずディアカシャに注意されてしまった。
なかなか手厳しい……
ディアカシャが用意してくれていたお茶を啜っていると、隣に座ったエリスがとんでもないことを言い出した。
「ディアカシャ、いつもみたいにおこづかいくださーい♪」
「はい、エリス様」
「ぶふぉっ!?げほっ、ごほっ!はぁ!?」
俺は思わずお茶を吹き出しそうになり、盛大にむせる。
「いつもありがとうございます♪」
「いえいえ」
「ちょ、ちょっと待て!お前が俺に貸してたお金の正体、ディアカシャに貰ってたやつだったの!?」
ずっとエリスのお金の出どころは気になっていたが、まさか使い魔に貰っていたとは……
というか神が使い魔にたかるなよ!
「セレスティアさん、口調が素に戻ってますよ♪」
「いいだろ別に!ディアカシャだってお前の使い魔なら、どうせ俺の中身が男って知ってるんだろ?それどころじゃ――」
「いえ、今初めて知りました」
「…………あっ、そうでしたのね」
「いやもう遅いですよ……意外と間抜けなんですね、セレスティアさんは♪」
しまった〜油断した!
エリスって適当だし、使い魔になにも話してなくても不思議じゃない!
「あの……このことは内密にお願いします……」
「はい」
一応念を押すが、この人、いやこの竜は他人に言いふらすようなタイプには見えないし、多分大丈夫だろう。
そもそも言う相手いるのか?
「なんですか?」
――ギロッ
そんなこと考えてると睨まれた。
やべっ、考えてることバレたか?
やっぱり怖い!
「セレスティアの事情は把握しました。しかし、今は私の娘なのですからお嬢様らしい振る舞いをしてください」
「わかりましたわ……」
ディアカシャだって俺の『ママ役』として振る舞おうとしているんだし、俺だってちゃんと『娘』らしく振る舞わないとな。
ディアカシャもきっとそう言いたいんだろう。
じゃあ早速、娘らしくおねだりしてみよう!
「お母様?エリスにおこづかいをあげるのでしたら、わたくしにもくださいません?わたくしのお母様なのでしょう?」
「『ママ』ですよ、セレスティア」
そこは譲れないのかよ!
どっちでもいいだろ!
すると、エリスがニヤニヤしながら茶々を入れてくる。
「おこづかいですって♪ディアカシャはどう思います?ママとして♪」
「そうですね、娘をあまり甘やかすのは良くないと思います。ママとして」
「なっ!?」
「ということで、セレスティアにおこづかいはあげません。自分でなんとかしてください」
ス、スパルタすぎる……!
「どうしてエリスはよくて、わたくしはダメなんですの!?」
「エリス様には刃向かえないので」
「そんな……」
横暴だ!
エリスは女神特権を乱用している!
「しくしく、残念でしたねセレスティアさん……」
エリスがポンッと俺の肩に手を置き、嘘泣きしながら慰めてきた。
どうせそんなこと、これっぽっちも思ってないくせに。
こいつのことだから内心爆笑してるんだろう。
……待てよ?
エリスのお金の出どころは分かったが、ディアカシャのお金の出どころが分からない。
どうやって稼いでいるんだ?
戦闘力はあるだろうし、人間のふりしてクエストをこなしてるとか?
「というか、ディアカシャのお金の出どころはどこなんですの……?」
「だから『ママ』ですよ、セレスティア」
なんかさっきからやたらこだわるな……
エリスと同じで変なところにこだわるのが『エリスの使い魔』って感じだ……
なんか訂正するのも面倒くさそうだし、大人しく従おう……
俺はため息をつきながら質問し直す。
「はぁ……分かりましたわ……ディアカシャママはどうやってお金を稼いでるんですの?」
「簡単ですよ。まずはドラゴン形態になります」
「はぁ……」
「そして自分の古くなった鱗を剥ぎ取ります」
「ふむ……」
「それを人間に売ります」
「えっ?」
「結構高く売れるんですよ。古竜の鱗って」
「それいいんですの!?」
予想とは全く違う答えが返ってきた。
俺が突っ込むと、相変わらずディアカシャは表情を変えずにさらっと答える。
「何か問題でも?人間は鱗を加工して色んなものに活用できる、私はお金がもらえる。ウィンウィンではありませんか」
「そ、そうですわね……」
なかなか斬新なお金の稼ぎ方だな……
自分の鱗を素材として売ってるのか……
まあ本人がいいならいいのか……?
女神的にはありなのかなこれ。
俺はエリスのほうをちらりと見る。
「あんまりやりすぎると、またドラゴンが出たって騒ぎになって討伐隊が来ちゃうので、ほどほどにしてくださいねぇ〜♪」
ほどほどならオッケーらしい。
正体がバレなければいいのか……
ていうか「また」ってことは騒ぎになったことあるのかよ。
大丈夫なのかこのママは。
「ということで、人間としての暮らしもなんとかなっています」
そう言ってディアカシャは、優雅に紅茶を啜るのだった。




