第49話 初めての帰省
俺たちは『実家』があるという場所に向かって、なかなか険しい獣道を進んでいく。
一体どんな場所にあるんだ。
「歩きにくい……」
ワンピースなんて着るの初めてだが、ひらひらしてて動きにくい……
森の中を歩く格好じゃないだろこれ。
ていうか、前を歩くエリスの服装も俺とそっくりのワンピースだ。
まるで姉妹のペアルックみたいだ。
「なあエリス、なんで俺と似たような服着てるんだ?仲良し姉妹じゃあるまいし……」
「いいじゃないですか、仲良し姉妹みたいなものでしょう?セレスティアさんは可愛い妹ですね♪」
「誰が妹だ!まったく……それよりもこれ本当に道合ってんの?どんな場所に作ったんだよ……」
「合ってますってば。疑い深いですねぇ~。悪役令嬢らしい大きな家を作るには、こういう人里離れた僻地しかなかったんですよ~」
確かに、いきなり町中にデカい家なんて建てたら、何かおかしいってみんな気づくだろうしな。
「それにこういう誰も来ないような場所に家があった方が、悪役令嬢っぽくないですか?」
「確かに!悪役っぽい!」
俺は思わず同調する。
なんか上手く丸め込まれた気がするが、まあいいか。
「あっ、やっと着きましたよ~♪」
「おお……」
茂みを抜けると、目の前には森の中に不釣り合いな豪邸が広がっていた。
雰囲気たっぷりな大きな家だ。
「ていうかわざわざ徒歩で来る必要あったのか?女神の力で瞬間移動みたいなのできないの?」
「こういうのは自分の足で行くから趣があるんですよ♪瞬間移動なんて味気ないじゃないですか♪」
エリスらしいな……
着替えもほんとは力を使えば一瞬でできるのにわざわざ手動でやるし、なんか女神なりにこだわりでもあるのかな。
「ところで人はいるの?使用人みたいなのとか……」
「中に入れば分かります。さあ、行きますよ♪」
「あ、ああ……」
どんな人がいるかわからないし、これからは令嬢モードに切り替えよう。
俺たちは重厚な扉を開け、中に入る。
すると、玄関ホールでメイド服を着た女性が出迎えてくれた。
目つきが鋭く、凛とした長身の女性だ。
「おかえりなさいませ、エリス様。それとセレスティア」
「はい、お疲れさまです♪」
「ただいま戻りましたわ」
……ん?
なんで俺だけ呼び捨て!?
しかもついでみたいに!
俺は目の前の人を知らないので、一応令嬢モードのまま質問する。
「ていうかエリスには『様』で、わたくしは『呼び捨て』なんですのね……ここ、わたくしの家なんでしょう?そもそもあなた誰ですの?」
俺は疑問を口にする。
するとメイド姿の女性は表情一つ変えずに答えた。
「あなたのママです」
「へっ?ママ?」
「そして、あなたにボコボコにされたドラゴンです」
「ドラゴン!?」
いきなり情報量が多い!
処理しきれないぞ!
「ど、どういうことですの?」
「はい、質問タイムです。一つずつどうぞ」
真顔でそんなことを言われる。
ていうか目つきが怖い!
とりあえず気になったことから質問していこう。
「まず、わたくしのママとは?わたくしの身体はエリスが作ったのでは?」
「それが一つ目の質問ですか?」
「え?ええ……」
「はい、あなたの言う通り身体を作ったのはエリス様ですので、正確には私は『ママ役』です。そうエリス様に命じられたので」
命じられたって……
エリスとは一体どういう関係なんだ?
「あなたはエリスのなんなんですの?」
「それは質問ですか?」
「ええ、質問ですわ……」
「私はエリス様の使い魔の古竜、名は『ディアカシャ』と申します。今はあなたのママになるために人間態になっていますが、本来はドラゴンの姿をしています」
「そ、そうなんですのね……だからエリスには『様』をつけると……」
なるほど。段々と分かってきたぞ。
つまりこの前エリスが呼んだのが、目の前の彼女ってことか。
「それではこの前襲ってきたのはなんなんですの?」
「それは質問ですか?」
「ええ……質問ですわ……これいちいち確認する必要あるんですの……?」
なんで毎回確認してくるんだ。
最初何者か聞いたときはすぐ答えてくれたのに。
「質問タイムですから。確認しないとエリス様がうるさいので」
なんか変なルールでもあるのか……?
「そんなことはないですよ~♪いつも自由にしてって言ってるじゃないですかぁ~♪」
そんなことをいうエリスを、ディアカシャが鋭い目つきで見つめる。
エリスってもしかして人望ないのでは?
いつも適当なことばっか言ってるし。
「セレスティアさん、なにか失礼なこと考えてません?」
「だってエリス、ディアカシャに睨まれてますわよ?」
「いえ、睨んでなどいません。元からこういう表情です」
「とまあ、こんな感じのクールなドラゴン娘ちゃんなんですよ♪かわいいですよね♪」
確かにずっと同じ表情しているが、可愛いか?
めちゃくちゃ怖いぞ。
「話が逸れました。先ほどの質問ですが、あの時はエリス様に呼ばれたので行っただけです」
「ああ、やっぱりあの指笛はあなたを呼ぶためだったのですね」
知ってた。
俺たちがエリスに振り回されていたように、ディアカシャもエリスに振り回されていたということか。
「呼ばれたので向かったら、エリス様が『サンドバッグになってください♪』という目をしていたので、じっとしていました」
そういえば確かにあのとき、じっと睨まれるだけで、何もしてこなかったな。
「だから敵意を感じなかったんですわね。とはいえ、凄い睨まれた気がしますが」
「元々そういう表情なので」
と彼女はさらっと言う。
何を考えてるのかわからない……
「いきなり属性魔法を連発で食らった挙句、ボコボコに殴られるとは思いませんでしたが」
そう言いながら、ディアカシャは俺を睨みつけてくる。
迫力が凄い。
これ怒ってるんじゃ……?
「あの、もしかして怒ってます……?」
「いえ、元々こういう表情なので」
「絶対怒ってますわよね!?わたくしは悪くないですわ!?すべての元凶はエリスですわ!?」
「エリス様には刃向かえないので」
「そ、そんな……ていうかやっぱり怒ってるじゃないですの!」
「まあまあ、落ち着いてください二人とも♪もういいじゃないですか、終わったことなんですから♪」
お前が言うな!
誰のせいでこうなったと思っているんだ!
怖いしなんとか話を変えよう。
そうだ!ディアカシャはなんでメイド服を着ているんだろう。
てっきり最初はこの屋敷のメイドかと思ったんだが。
一応俺の『お母さん』という設定なら、メイド服を着る必要なんてないだろうに。
「あなたはわたくしの『お母さん役』なんですのよね?なぜメイド服を?」
「それは質問――」
「質問ですわ」
俺が食い気味に言うと、彼女は相変わらず俺のことを睨んでいるような表情で答えた。
やっぱり何を考えてるか分からないな……
「……この服はエリス様の趣味です。この屋敷には他にも使い魔がいますが、全員メイド服を着せられています」
「ああ……そうなんですの……」
着せられてるって……
この屋敷だとメイド服強制なのか……
俺はエリスの方をちらりと見る。
「なんです?その目は。いいじゃないですか、メイド服♪かわいいでしょう?」
「……確かに、クールなメイドママ……いいかもしれませんわね……」
「……」
――ギロッ
「ひぇっ……なんでもないですわ!」
怖い!
やっぱり怒ってるようにしか見えない!
「ほらほら、いつまで玄関にいるつもりなんですか?中に入りましょうよ♪」
怯える俺をよそに、エリスは楽しそうに俺の手を引く。
「どうぞこちらへ。お茶の用意ができています」
「あ、ありがとうございます……」
ディアカシャもまったく表情を変えずに中へ入るように促す。
俺はエリスに引きずられるようにして、屋敷の中へと足を踏み入れる。
俺の『初めての帰省』は、不安でいっぱいのスタートだった。




