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第35話 ミーナの放課後の過ごし方

「はぁ……疲れましたわ……」


全ての片付けが終わった頃には、窓の外はすっかり茜色に染まっていた。

俺たちはベアトリス部長に別れを告げ、部室を後にする。


「ごめんなさいセレスティア様……私のせいで……」


廊下を歩きながら、リリィが申し訳なさそうに眉を下げる。


「リリィが謝る必要はありませんわ。自分から首を突っ込んだことでしてよ」


俺は苦笑いをして、彼女の手を握った。

騒がしいし、いきなり爆発するし、部長は変人だけど……退屈はしなさそうだ。

俺も爆発させたし……


「それに、リリィと同じ時間を過ごせるのなら、掃除も悪くありませんわ」

「セレスティア様……!ふふっ……ありがとうございます」


リリィが嬉しそうに微笑む。

こうして見ると、やはり彼女は天使だ。

部長の毒気に当てられた心が浄化されていく。

さて、寮に戻って夕食でも食べようか。

そう思って、校舎の裏手にある道へ差し掛かった時だった。


パカーン!


「……ん?」


静かな夕暮れの空気を震わせる、豪快な音が聞こえた。

何かが割れるような、乾いた良い音だ。


パカーン! パカーン!


「なんですの? この音」

「校舎の裏から聞こえますね……」


工事でもしているのだろうか?

俺とリリィは顔を見合わせ、音のする方へと足を向けた。

角を曲がると、その「音」の正体が見えた。


「せええぇぇいっ!」


パカーン!!

一人の女子生徒が、身の丈ほどもある巨大な斧を振り下ろしていた。

太い丸太が、真っ二つに割れ、左右に弾け飛ぶ。

彼女の足元には、すでに綺麗に割られた薪の山が築かれていた。


「あれは……」

「ミーナ様……ですね……」


彼女は制服ではなく実技授業の時に着た動きやすいローブ姿だった。

夕日に照らされたその姿は熟練の木こりのような風格がある。


「ふぅ……」


彼女が額の汗を拭い、ふとこちらに気づいた。


「あれ?セレスティアちゃんとリリィちゃん?おーい!」


彼女は斧を地面に置き、手を振りながら爽やかな笑顔で駆け寄ってきた。


「ごきげんよう、ミーナ。一体ここで何をしていましたの? 薪割り……に見えますけれど」

「うん、薪割りだよ!」


そのまんまだった。

いや、俺が聞きたいのはそういうことではなくて。


「なぜ魔法学園で薪割りを? 魔法があれば、こんなことしなくても済みますでしょう?」

「あーそれはね、私『特待生』だからさ!」


ミーナは薪の山を指差して、あっけらかんと言う。


「トクタイセイ?」


聞き慣れない単語だ。

俺が首を傾げると、リリィが説明してくれた。


「学費を免除してもらう代わりに、学園の雑用……奉仕活動をお手伝いする制度です、セレスティア様」

「そうそれ!これは食堂のかまどや、寮の大浴場で使う燃料用だね」

「まあ、学費免除のためにこんな重労働を……?」


俺が驚いていると、ミーナは斧を軽々と持ち上げ、明るく笑った。


「それもあるけど…… 私がやりたくて志願したんだ!」

「やりたくて?」

「うん! 私、遠くの小さい村出身でさ。こういう力仕事はずっとやってきたから得意なんだよ! 魔法使うと魔力を消費して疲れちゃうけどこれならいくらやっても平気だしね!」


いや魔力消費しなくても疲れるだろ!

体力は無限にあると思ってるのかこの子は。

もしかして結構肉体派なのか?

偏見だが光属性の女の子ってもっとおしとやかなイメージがあったんだけど……


「それに、これ全部終わらせたら食堂のおばちゃんがおまけしてくれるんだ~♪」

「それが一番の目的ですのね……」


ミーナらしい理由だ。

しかし、いくら得意とはいえこの量を手作業でやるのは効率が悪すぎるんじゃないか?


「でしたら、魔法を使えばもっと楽に作業を進められるのではなくて? 疾風の刃ウィンドカッターなどを使えば、一瞬で終わりそうですけど……」


俺が提案すると、ミーナはキョトンとして、それから苦笑いした。


「セレスティアちゃん、私『光属性』だよ? 風魔法は使えないってば~」

「あ……」


そうだった。風属性はリリィだ。

俺は全属性使えるから『他の属性魔法が使えない』という常識がつい頭から抜けてしまっていた。


(とはいえ……光魔法でもなんとかなるのでは? 光を集束させて刃にするとか、熱で焼き切るとか……)


俺の感覚では出来そうな気がするのだが一般的には難しいのだろうか。

光魔法は花を咲かせるくらいしかやったことがないからまだよくわかっていない。


「それにさ、これくらい斧でやったほうが早いからね!」


ミーナは再び斧を構える。

腰が入った完璧なフォーム。無駄のない力の伝達。


(そういえば……実技の授業で『身体強化アクティベート』を習った時、やたらでかい岩を持ち上げていたな……)


あの時も思ったがやはり野生児だ。

魔法を受け入れる肉体そのものが、他の生徒たちとはレベルが違ったのだ。

妙に納得してしまった。


「あ、もうこんな時間! 残りも早く終わらせなきゃ! みんな困っちゃう!」


ミーナは空を見て慌てて斧を持ち直した。


「ごめんねセレスティアちゃん!リリィちゃん!ふたりの時間を邪魔しちゃって! じゃあ、私続きやるから! せいっ!!」


パカーン!


再び豪快な音が響き渡る。


「え、ええ……ごきげんようミーナ」

「お疲れさまです……ミーナ様」


聞こえているか分からないが、一応挨拶をして俺たちはその場を去る。


「……リリィ」

「はい……」

「世の中、色々な人がいますわね……」

「そうですね……ミーナ様はすごいです……あんなにパワフルで……元気で……それに比べて私なんて……」


リリィが少しだけ自信なさげに呟く。

隣を歩く彼女の横顔は、夕日に照らされて少し儚げに見えた。

確かにミーナの太陽のような明るさは魅力的だ。

でも――


「わたくしは、リリィのその慎ましさも好きでしてよ?」

「えっ……」

「それに、力仕事はミーナに任せておけばいいんですの。リリィにはリリィの、素敵な風魔法があるではありませんか。部室の掃除でもとても役に立っていましてよ」


俺がそう言って微笑むと、リリィは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「あ、ありがとうございます……セレスティア様……」


照れるリリィの手をぎゅっと握る。

爆発マニアの部長に、野生児のミーナ。それに他にも色々な生徒がいる。

色々な放課後の過ごし方がある。

個性的な友人たちに囲まれた学園生活は刺激的で楽しい。

だが、一日の終わりにこうしてリリィと穏やかに歩く時間も落ち着いていて、これはこれで楽しい。


「さて、食堂のおまけの話を聞いたら、なんだかお腹が空いてきましたわ」

「ふふ、そうですね。今日は何でしょう?」

「お肉だと嬉しいですわね!」


俺たちは繋いだ手を揺らしながら、寮へと足を早めるのだった。

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