第3話 悪役令嬢の取り巻きとクラスメイトの女神様
人気のない中庭での「契約」を終えた私たちは、何食わぬ顔で教室に戻った。
リリィはまだ顔を赤くして俯いているが、俺は悪役令嬢としての仮面を貼り付け、堂々と扉を開ける。
「ちょっとセレスティア、あんたどこ行ってたのよ! ていうかその子と付き合ってるって本当なの?」
教室に戻るなり声をかけてきたのは、赤髪の少女クレアだ。
「わたくしが誰と付き合おうが勝手でしょう」
「まあそうだけど……」
「クロード殿下は?」
「どっか行ったわよ。まあ、どうせまた来るでしょうけど」
「そうですの……」
ふむ、この子は常識人っぽい。
話が通じる人がいてよかった。
とりあえず「殿下がいなくなった」という情報はありがたい。
「そんなことよりあんたの取り巻きがまた騒いでるわよ」
「取り巻き?」
なんだそれ?
そう思った直後だった。
「お姉様ーーーっ!!」
声がする方を見ると、見知らぬ金髪の少女がドタドタと物凄い勢いで――まるでロケットのように飛び込んできた。
なんだ!? 敵襲か!?
「お姉様! またあのクソ王子にプロポーズされたって本当ですか!? 私が席を外しているうちに、あいつ……ッ! 次に会ったら特大魔法でぶっ飛ばしてやりますよ!」
すごい剣幕だ。
誰かは知らないが、俺のことを「お姉様」と呼ぶあたり、先ほどクレアが言っていた取り巻きとはこの子なのだろう。
それに王子のことを「クソ王子」呼ばわりとは……なかなか見込みがある。
「落ち着きなさい。その件ならもう解決しました」
「解決……ですか?」
きょとんとする金髪少女。
俺は隣で縮こまっているリリィの肩を抱き寄せ、ニッコリと微笑んだ。
「実はわたくし、こちらの彼女とお付き合いしていますの」
「はい……セレスティア様の恋人のリリィ……です……」
「は……?」
金髪の子が固まる。
そして次の瞬間、彼女の鋭い視線がリリィに突き刺さった。
「なっ……誰よあなた! あなたみたいな地味な女がお姉様の隣に立つなどおこがましい! 今すぐ離れなさいこの泥棒猫!」
「ひっ……!」
ものすごい勢いでリリィに掴みかかろうとする。
おいおい、リリィが物凄くビビってるぞ。助けないと。俺はスッと目を細めた。
「あなた? わたくしが選んだ相手に文句がおありかしら?」
「っ……!」
俺が少しドスを利かせると、彼女はビクリと震えた。
そして一瞬で表情を変え、満面の笑みをリリィに向ける。
「リリィさん! よく見ればなんて可愛らしい子! 流石ですお姉様! お姉様が選んだだけあって、素晴らしい原石ですね! お姉様の目に間違いはありません!
私はカノン、お姉様のパートナーならばぜひ私とも仲良くしてくださいね?」
「え、ええ……?」
切り替えはやっ!
手のひら返しが光の速さだ。
名前はカノンというらしい。
どうなることかと思ったがこの子、俺の言う事はちゃんと聞いてくれるようだ。リリィとも仲良くしてくれるようだし、そんな悪いやつではなさそうだ。
とりあえずこれで、殿下除けの「偽装恋人」と、それを認める『証人』は確保できた。
やれやれ、これで少しは平穏な学園生活が送れるだろうか。
色々あったがせっかく転生できたんだ。憧れの『悪役令嬢ライフ』を送るぞ!
そう思って意気込んだ、その時だった。
「ふふ、ずいぶんと楽しそうですね♪」
不意に、鈴が鳴るような声が鼓膜を揺らした。
――ッ!?
この声聞き覚えがある。
あの女神の声だ。
しかし前と違って脳内に響く感じじゃない。
俺が不思議に思って天を見上げていると、
「どこ見てるんですか、こっちですよこっち」
バッと振り返ると、すぐ後ろにピンク髪の少女が立っていた。にっこりと笑顔を向けている。
クラスメイトだろうか。妙に馴れ馴れしい。それにこの声と雰囲気……
(……まさか、こいつあの女神か!?)
優雅に微笑むその少女は、俺の方を見て、音もなく唇を動かした。
「こんにちは、セレスティアさん♪ どうです?『悪役令嬢ライフ』は楽しんでいますか?」
「お、お前!?」
「ふふっ♪ 口調が崩れてますよ?」
「セレスティア様……? どうされたのですか……?」
ハッ! しまった。ついうっかり素が出てしまった。リリィが不安そうな目で俺を見ている。
冷静になり、改めて目の前の少女に問う。
「あなた、何者ですの?」
「何者って、セレスティアさんのクラスメイトのエリスですよ♪ 忘れたんですか? そうですよねみなさん?」
「お姉様、こいついつもお姉様に付きまとうクソ女じゃないですか。忘れたくても忘れられませんよ。ぶっ飛ばしましょうか?」
血の気が多いなこの子。
「カノン、落ち着きなさい。リリィ? この方をご存じかしら?」
「はい……クラスメイトのエリス様……ですよね……?」
リリィも知ってるのか。ならもしかしてクレアも?
「クレアもご存じで?」
「当たり前でしょ。クラスメイトのことくらい覚えてるわよ」
「ほらぁ~、皆さん私のこと覚えてくれてるじゃないですか~。忘れるなんてひどいですよセレスティアさん……しくしく……」
こいつ……わざとらしく泣いてるふりなんかしてるぞ。ムカつくな。しかしこの女神、ちゃんとクラスに馴染んでいるらしい。あとで詳しく話を聞いてやる。
「ということでよろしくお願いしますね♪ セレスティアさん♪」
そう言うと彼女は嘘泣きをピタリと止め、ケロッとした顔で俺に微笑んだ。




