第29話 初めての図書館とマイペースなエルフ
「それでは授業はこれで終わりです。お疲れ様でした」
「「ありがとうございました!!」」
ようやく午前の授業が終了した。
周囲の生徒たちは、まだ俺とサフィアから距離を取っている。
まあ、あれだけの騒ぎを起こせば当然か。
「サフィア、ペアを組んでくれてありがとうございました。助かりましたわ」
「うん。気にしないで」
サフィアは素っ気なく答える。
本当に何を考えているのか読めない子だ。
とりあえずお礼も言ったし、食堂へ向かおうとしたその時。
「セレスティア。昼、暇?」
「えっ? ええ、特に予定はありませんけれど……」
「ちょっと付き合って」
サフィアはそう言うと、俺の返事も聞かずに歩き出した。
え、どこ行くの?
俺は慌てて彼女の後を追った。
辿り着いたのは、学園の中にある巨大な図書館だった。
天井まで届く高い本棚、そして静寂。
すごい雰囲気だ。
こんなに大きい図書館なんて初めて見たぞ。
どんだけでかいんだこの学園。
「サフィア? お昼ご飯は……?」
「それより調べたいことがある。セレスティアの秘密が知りたい」
サフィアは迷うことなく奥の方へと進んでいく。
どうやら俺の全属性について何か調べる気らしい。
研究熱心なのはいいが、昼飯抜きは勘弁してほしいぞ。
「……ん?」
図書館の中を歩いていると、本の山に囲まれている小さな背中を見つけた。
席に座り、一心不乱に何かを読みふけっている。
「あれは……リリィ?」
俺は彼女の席の近くまで歩み寄り、普通に名前を呼んでみた。
「ごきげんようリリィ、奇遇ですわね」
「……ふむふむ、やはり風属性の魔力変換効率は……ここをこうすれば……」
……反応がない。
完全に自分の世界に入り込んでいるらしい。
俺は苦笑しながらさらに近づき、彼女の背後からもう一度ハッキリと声をかけた。
「リリィ!」
「ひゃいっ!?」
俺が声をかけると、その背中がビクッと跳ね上がった。
彼女は恐る恐る振り返り――俺たちの姿を見て目を丸くした。
「セ、セレスティア様!? な、なぜここに……?」
「ごきげんよう、リリィ。サフィアに連れられてきたんですの」
「えっ……サフィア様と?」
すると、本を片手に持ったサフィアがやってきた。
「勝手にいなくならないで。あなたがいないと、よく調べられない」
「そもそもあなたが勝手に連れてきたんでしょう……」
リリィが驚いたように、俺の隣に立つサフィアを見る。
「えっと……こんにちは、サフィア様……」
「うん」
この二人ルームメイトなんだよな?
ルームメイトなのに、この距離感。
「お二人はルームメイトなんですのよね?……いつもこんな感じですの?」
「うん。あんま話すことがなくて」
「は、はい……」
話すことがないって……
二人とも見た感じ、重度の魔法好きだと思うんだが。
「魔法について話せばよろしいのでは?」
「私は光属性とか闇属性とか、『未知の魔法』以外あまり興味がないから」
「私は……ただの風属性ですから……」
リリィが少し寂しそうに眉を下げる。
「私は、見たことないものが見たい。規格外の現象とか、ありえない出力とか」
なるほど、それがサフィアの行動原理なのか。
サフィアが俺の方を見て目を輝かせる。
「だから、セレスティアは面白い。全属性で、加減知らずで、常識外れ。もっと知りたい」
「……なんか怖いですわ」
どうやら俺はこのエルフに完全に目をつけられてしまったらしい。
エリスに振り回されるだけでも大変なんだけどなぁ。
「でも、最近のリリィも面白い。前より元気になった。以前から研究熱心だとは思っていたけど、最近はもっと熱くなってる」
「え?そ、そうでしょうか……」
「うん。恋の力?ぜひ教えて欲しい」
「ひゃい!?」
いきなりの質問にリリィが驚き、顔が茹でダコみたいに真っ赤になった。
サフィア……ほんと躊躇いがないというか、好奇心に忠実というか。
見てるこっちもびっくりする。
「まあいいや。行くよ、セレスティア」
「えっ? どこへ?」
「食堂。お腹空いた」
サフィアはそれだけ言うと、くるりと踵を返した。
「ちょっと!何か調べるのではなかったのですの!?」
「もう調べた。何もわからないことがわかった。だからもういい」
「えぇ……」
そう言ってサフィアは本を元の場所に戻し、食堂に向かおうとする。
自由だ。本当に自由なエルフだ。
俺とリリィは顔を見合わせて、思わず吹き出してしまった。
「……行きましょうか、リリィ。一緒に」
「は、はいっ! 喜んで!」
リリィがパァッと花が咲いたような笑顔になる。
こうして俺たちは、クールでマイペースなエルフに振り回されながらも、一緒に食堂に向かうことになった。




