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第2話 恋人は地味なクラスメイト

「――というわけで殿下、貴方のプロポーズを受け入れることはできませんの。それではごきげんよう。行きますわよ」

「は、はい……!?」


俺は唖然とする殿下の前で彼女の手を引き、颯爽とその場から去る。

背後では、振られた殿下だけでなく、教室中の生徒たちが石になったかのように呆然と立ち尽くしていた。

ふん、男と結婚なんて死んでも御免だ。


俺たちは廊下を早足で進み、人気のない中庭のベンチまでやってきた。


「ここなら誰もいなさそうですわね」


周囲を見渡し、誰もいないことを確認してから彼女の手を離す。

さすがに強引すぎたか。いきなり巻き込んで悪かったな。しかし今の俺は悪役令嬢!

ここで謝るなんてことはしない。


「先ほども言った通り、あなたにはわたくしと付き合っていただきます」

「う、うう……」


彼女はうつむいたまま、モジモジと指先を合わせている。

怯えているのだろうか。すると、消え入りそうな声で問いかけてきた。


「あの……どうして……私なんですか……?」

「えっ」


俺の動きが止まる。

どうしてって……そりゃあ「大人しそうで断れなそうな地味キャラだったから」なんて、口が裂けても言えない。

そんなことを言ったら、協力してもらうどころか泣かせてしまうかもしれない。


「私……その……地味だし……いつもひとりだし……セレスティア様に釣り合うような人間じゃ……」


まずい。卑屈になっている。

ここでこの子に逃げられたら、またあの殿下に追いかけ回される羽目になる。

なんとかして彼女をその気にさせないと!

俺は脳みそをフル回転させ、彼女を説得する。


「実はわたくし、以前からあなたに興味がありましたの」

「えっ……」


彼女がバッと顔を上げる。その瞳が揺れている。

よし、食いついた。俺は畳み掛ける。


「あなた、先ほどだって殿下に夢中になっていた他の方とは違って、自分の世界に没頭していたではありませんか」

「あ、あれは……ただ本が好きなだけで……」

「そこがいいんですの! 周りに流されず、自分の好きなことに没頭する凛とした姿……わたくし、そこに惹かれましたの!」


これは俺の本音でもある。この子からは他の子とは違うものを感じる。殿下から逃げるための隠れ蓑は絶対に必要だし、どうせなら――。


(それに、改めて近くで見るとこの子かなりかわいいぞ?)


俯きがちで顔がよく見えてなかったが、その瞳はくりっとしていて大きく、肌も白くて綺麗だ。

制服をアクセサリーなどで派手に着飾っている他の生徒たちに比べれば地味かもしれないが、この純朴な雰囲気がたまらない。


(こんな小動物みたいで可愛い子と付き合えるなら、俺としても一石二鳥じゃないか?)


俺は彼女の両手をギュッと握りしめ、極上の「悪役令嬢スマイル」で迫った。


「なのでこのわたくしと付き合いなさい。いいですわね?」

「は、はい!よ、よろしくお願いしましゅ!あっ……」


大事なところで噛んだ。

顔を真っ赤にして口元を押さえる彼女。

……なんだこの生き物。めちゃくちゃ可愛いぞ。


「ふふ、可愛らしいですわね」

「うう……」


そういえば、まだ名前も聞いていなかったな。


「あなた、お名前は?」

「えっと……リリィ……です……!」

「まあ! 貴女にぴったりの可愛らしいお名前ね!」


褒めちぎると、リリィは恥ずかしそうに目をそらす。感情が分かりやすくて助かる。これなら扱いやすそうだ。

俺は満足げにうなずいた。


「それではこれからよろしくお願いいたしますね、リリィ」

「はい……セレスティア様……」


頬を染め、潤んだ瞳で俺を見上げるリリィ。

こうして、俺が殿下から逃れるための『偽装恋愛』が始まったのだ。

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