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第19話 セレスティアの加速

「では、次はセレスティアさん。お願いします」

「はい」


先生の声に頷き、俺は優雅に前に出る。

カノンからの重い期待と、ミーナやリリィからの応援の視線を背中に感じる。


(さっきみたいに変なことにならないといいけど。俺自身が吹っ飛んだりしたらたまったもんじゃないぞ)


俺は深く息を吸い込み、意識を集中させる。

加速するイメージ。

速く移動するだけでなく、思考もその速さについていかないと暴走してしまう。

まずは肉体を加速する感覚を研ぎ澄ます。

そして思考を加速させ、神経を張り巡らせる。


「いきますわよ……『高速移動クロックアップ』!!」


俺は地面を蹴り出すと同時に、練り上げた魔力を一気に解放した。

魔法が発動した感覚がある!

息切れする前にこのままあの旗に向かわなくては。

そうして数歩進んだとき、違和感に気づく。


(――あれ?)


目印の旗は風でなびいてきたはずなのに止まっているような?

不自然な形で静止している。

風も感じない。

風が吹いてないのなら旗はあんなふうにならないはずだ。

それに音もしない。

さっきまで聞こえていた生徒たちのざわめきも、風の音も、何も聞こえない。

完全な無音の世界。


(……なんだ、これは?)


俺は恐る恐る、一歩、二歩と足を動かしてみた。

体は動く。重くもない。

俺は周りを見渡す。

先生も、カノンも、まるで石像のように固まっている。

まるで絵画の中に閉じ込められたようだ。

しかしその中でエリスとは目が合った気がした。


(まさか、また魔力制御をミスったのか?思考だけを加速させてしまって意識だけが暴走して世界から切り離されたとか?)


何が起きているのか分からない。

魔法が発動した感覚はあるし、こうして移動もしているのに誰も反応しない。

ただの不発にしては、妙な静けさだ。

立ち止まり、そんなことを考えていたらなんだか息切れしてきた。

魔力も減ってきてるし肉体も限界なのか?

これ戻れるのか?

そんな不安に襲われたその瞬間――


「はい、おつかれさまです。セレスティアさん」

「……え?」


ドッ、と音が戻ってきた。

鳥のさえずり、風の音、そして先生の声。

俺はキョロキョロと周りを見渡す。

さっきのは夢だったのか?

しかし俺が立っているのは、スタートラインから数歩進んだ場所だ。

移動はできている。

俺が呆然としていると、アルノート先生が微笑みながら歩み寄ってきた。


「あまり長く移動はできなかったようですが、大丈夫ですよ」

「はい……?」

「移動速度はすごかったですよ?私の目にも見えないくらいのスピードでした。すぐに魔力が途切れてしまったようですね。速度を上げすぎると長い距離は移動できませんから。バランスが大事なんです」

「は、はぁ……」


いや、なんか違う気がする。

俺の中ではもっとこう、すごいことが起きていたはずなんだが。

困惑しながらもみんなのもとに戻る。


「セレスティア様……セレスティア様ならきっとすぐに上達できます……!」

「そうだよセレスティアちゃん! 私だってすぐバテちゃったし! 一緒にがんばろ!」

「え、ええ……頑張りましょう……」


リリィとミーナが励ましてくれた。

その優しさが俺の困惑した心に沁みる。


「お、お姉様……? いかがなさいましたか? まさかお加減が……?」


カノンも心配そうに駆け寄ってきた。

くっ、なんてことだ……

令嬢らしくない情けない姿を見せてしまった……


「ふふっ♪何か変だと思いませんでしたか?」


その時。

背後から、楽しげな声が聞こえた。

エリスだ。

彼女は俺の背中に隠れるようにして、誰にも聞こえない声量で耳打ちしてくる。


「変って……なにか知ってますの?」

「もちろん♪私は女神ですから♪」


そういえばさっきエリスと目があった気がしたがあれは一体……

明らかにおかしかった……

俺たちは他のみんなに聞こえないように小声で会話する。


「まるで世界が止まったような……なんなんですの?」

「あなたがやったのは『高速移動クロックアップ』ではありませんから♪」

「……どういうことですの?」

「厳密に言うとクロックアップは発動していましたけど、セレスティアさんの場合は出力が強すぎたんです♪さっきの肉体強化と同じですね♪」


エリスがクスクスと笑う。


「肉体や思考、神経すべてを加速させすぎたってことですね♪ですので周りのものが全て止まって見えたんですよ♪

時間停止(オーバークロック)ってやつですね♪」


なるほど……!

少し歩いた程度の感覚だったが実際には超高速で動いていたということか。

つまり、魔法は失敗どころか大成功していたのだ!


「さすがわたくしですわ!属性魔法はイマイチでしたが補助魔法なら誰にも負けていないってことですわね!」


俺は安堵し、誇らしげに胸を張った。


「びっくりした!ちょっと~さっきからふたりで何話してるのさ?」


いきなり大声を出したからかミーナたちをびっくりさせてしまった。


「えぇ、わたくしの魔法が大成功だったって話ですわ!」


しかし、エリスは意地悪く目を細める。


「ええ、魔法としては大成功です♪……ですが、一つお忘れでは?」

「えっ?」

「魔法初心者がいきなりそんな魔法使ったら『肉体』はどうなると思います?」


エリスが指先で、俺のふくらはぎをツンとつついた。


ビキキキキキッ!!!!


「――っ!?」


遅れてやってきた衝撃。

まるで全身の筋肉を万力で締め上げられたような、耐え難い激痛が俺を襲った。


「ぎゃああああああああああああ!!?」


俺の口から、令嬢にあるまじき絶叫がほとばしる。


「い、痛いッ! 痛い痛い痛い痛い!! 足が! 背中がぁぁぁッ!!」


俺はその場に崩れ落ち、芝生の上をのたうち回った。

過度な加速の反動。

認識できないほどの速度で無理やり動かされた筋肉が悲鳴を上げ、即時に筋肉痛が襲いかかってきたのだ。


「セ、セレスティアさん!?」

「お姉様ーーッ!?」


先生とカノンたちの慌てた声が聞こえるが、それどころではない。


「た、助けて……エリス……」

「えぇ~?でも私たちまだ治癒魔法習ってないですし~♪」


やっぱこいつ悪魔だ……

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