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第17話 初めての補助魔法

更衣室を出て、俺たちは第一演習場の芝生の上に集まっていた。

日差しが眩しい。

そして何より太ももが涼しい……

俺は短いケープの裾を引っ張って、少しでも露出を隠そうと試みるが防御力は心許ない。


「それでは授業を始めます。まずは座学……と言っても立ち話ですが、補助魔法の基礎についておさらいしましょう」


アルノート先生が手を叩き、生徒たちの注目を集める。

先生はいつも通りの柔和な笑顔で人差し指を立てて解説を始めた。


「補助魔法には『身体強化』などの強化系や傷を癒やす『治癒魔法』などの回復系などがあります。これらは自分にかけることも、他人にかけることも可能です」


ふむふむなるほど。


「ただし、覚えておいてください。『治癒魔法』で自分の傷を治すことは可能ですが非常に危険でもあります。」


先生の言葉に生徒たちがざわつく。

俺も少し意外だった。

自分で治せるなら便利じゃないか?


「簡単な傷ならともかく重傷の場合は注意が必要です。自分が傷ついているということは、それだけ体力が低下している状態です。その状態で魔力を消費すれば……どうなるか分かりますか? 傷は塞がるかもしれませんが魔力欠乏や過労で倒れてしまいます。それに、そもそも魔力が足りず魔法を使うことすらできないかもしれません」

(ああ、なるほど)

「ですから、自分の傷を治す時は他人の治癒魔法を受けるか、『回復ポーション』を飲むといいでしょう。」


回復ポーション。

そんな便利アイテムもあるのか。


「説明はこれくらいにして、実技に移りましょうか。今日は身体強化(アクティベート)を練習します」


アクティベート……?

身体強化ということは筋力をあげたりするやつか?


「瞬発的に魔力を体の中心に集中させるイメージをし、肉体を強化する魔法です。まずは私が手本を見せましょう」


先生がふわりと構える。

次の瞬間、先生からオーラのようなものが出てきた。

そして、近くにあった大きな岩を軽石でも持ち上げるかのように簡単に持ち上げた。


「おおーっ!」


歓声が上がる。

すげえ!あんなでかい岩も持ち上げられるのか!


「ふぅ……。このように、魔力で筋繊維一本一本を補強するイメージです。ただし魔力の消費が激しく、力の加減を間違えると自分自身が怪我をするので気をつけてくださいね」


先生は軽々と持ち上げていた岩を


ドスン!


と地面に下ろした。

地面が少し揺れる。

見た目は優しそうな女性教師なのにやっていることはゴリラだ。

魔法ってすごい。


「それでは、みなさんもやってみましょう。サイズ別に岩を用意しましたから、自分に合ったものを選んで挑戦してください」


先生の指示で俺たちは岩が並べられたエリアへ移動する。

そこには小さいサイズから大人が数人がかりでも動かなそうな巨岩まで様々なサイズの岩が転がっていた。


「よーし! 私、あの一番大きいのやってみる!」


真っ先に手を挙げたのはミーナだ。

彼女は迷わず先生が持ち上げたのと同じくらいの巨岩の前に立った。


「いくよっ!身体強化アクティベート)!!」


気合一閃。

ミーナの体から荒々しい魔力が噴き出す。

彼女はガシッと岩を掴むと、腰を落として一気に持ち上げた。


「うおおおおらぁぁぁっ!!」


ズズズ……と岩が持ち上がっていく。

ついには頭上まで掲げられた。

魔法とはいえさすが村娘のパワーだ。

握手の時も力強かったもんなぁ。

本当に魔法なのか……?


「やったー! 持ち上がったー!」

「すごいですね、ミーナさん!でも腰を痛めないように気をつけて」

「余裕余裕!」


やっぱり野生児だ。筋力強化との相性が抜群にいいらしい。


「うぅ……私はこっちで……」


一方でリリィは、バスケットボールくらいの一番小さな岩の前で屈み込んでいた。


「えいっ……! えいっ……! ……あうぅ、動きません……」


プルプルと震えているが岩は地面に根が生えたように動かない。

やっぱり補助魔法にも個人差はあるんだな。

小動物がじゃれているようにしか見えない。可愛い。



「では、わたくしもやってみますわ」


俺も試してみよう。

俺は優雅に歩み出ると、ミーナが持ち上げたのと同じ特大サイズの岩の前に立った。


(やってやるぞ!)


俺はわくわくしていた。

ほんとにこんな大きなものが持ち上げられるのか想像できない。


「お姉様ー! ファイトですー! その岩を銀河の彼方へ投げ飛ばしてくださいー!」


カノンが無茶な声援を送ってくるが、無視して集中する。


(イメージしろ……身体の中心に魔力を集めるイメージだったな……)


俺は目を瞑りイメージする。

ドクン、と心臓が力強く鼓動する。

魔力が中心に集まっていくのを感じる。

温かい。この魔力を腕の筋繊維に流していけばできるはずだ。


身体強化(アクティベート)!」


カッ! と、俺の体から目に見えるほどの濃密な魔力オーラが立ち昇った気がした。


「ふっ!」


俺は岩に手をかけ、軽く力を込めた。

すると――。


ズオッ!!


「えっ?」


持ち上げるつもりだった。

しかし俺が少し力を入れた瞬間、岩はまるで重力が消滅したかのようにかっ飛び、俺の手を離れて空高く舞い上がってしまった。


ヒュオオオオオオオ……


岩は放物線を描くどころか、垂直に近い角度で遥か上空へ射出された。

全員が見上げる中、岩は太陽の光に重なり、きらりと光って……。


数秒後。


ズドォォォォォォォォン!!!!!


演習場の遥か彼方、誰もいない森の方角で隕石が落下したような轟音が響き渡った。

衝撃で地面が揺れ鳥たちが一斉に飛び立つ。


「…………」


演習場に重苦しい沈黙が落ちた。

周りの生徒たちはみなぽかんとしていた。

ミーナが「おお~」と口をあんぐりと開けている。

リリィが「あわわ……」と涙目で震えている。

カノンだけが「さすがですお姉様!!」と叫んで拍手している。


そしてアルノート先生は慌てて俺のほうを向く。


「セレスティアさん!?」

「お、おーほっほ!みなさまご覧になりまして?これがわたくしの力ですわ!」


俺は冷や汗をダラダラ流しながらも開き直り、精一杯の「悪役令嬢スマイル」で誤魔化した。

なんか思ってたのと違う!

持ち上げるだけのつもりだったのに……

これじゃあまるで投石器だ。


「……素晴らしい出力ですが、加減というものを覚えましょうね?校舎に向けていたら大惨事でしたよ!」

「あっはい……」


確かにそうだ。

もし、岩が落ちた場所が校舎で建物を壊したり、生徒に怪我なんてさせてたら大ごとになっていたな。

危なかった……


「さて……基礎はこのくらいにしておきましょうか。セレスティアさんの魔力制御については後で『みっちり』指導するとして」

「ひえっ」


先生の目が怖い。

穏やかな先生だが怒らせると怖いぞこれは。


「次は応用編です。この筋力強化を脚力に応用した移動術――『高速移動(クロックアップ)』を練習します」


高速移動かぁ。

速く移動できたら便利だろうが、さっきのこともあるし大丈夫だろうか……

不安になってきたぞ……


(ま、まあ、走るだけなら岩を投げるより安全だろう。……たぶん)

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