第14話 初めてのオーク肉
「お待たせしましたー!」
店員さんがテーブルに料理を並べていく。
俺の目の前には、熱々の鉄板に乗った『厚切りオークロースのソテー』が鎮座していた。
ジュワワワ……という心地よい音が食欲を刺激する。
飴色のソースが絡んだ分厚い肉からは香ばしい香りが立ち上っていた。
(ごくり……)
俺は思わず喉を鳴らした。
見た目は完全に前世で見た厚切りのポークソテーそのものだ。
これがオーク?あの?
いや、今は余計な想像をするのはやめよう。
「いっただっきまーす!」
俺が躊躇している間にミーナは既にナイフとフォークを握りしめていた。
はやっ!躊躇いなくいったぞ!
彼女は慣れた手つきで肉を切り分けパクリと頬張る。
「ん~っ!おいしぃ~!」
満面の笑みで頬を押さえるミーナ。
その幸せそうな顔を見ていると俺の中にある警戒心が少しずつ溶けていく気がした。
よし、俺もいくぞ。
俺はナイフを手に取り肉に刃を入れた。
思ったより柔らかい。
スッ……と切れていく。
断面からは透明な肉汁が溢れ出し、鉄板の上で弾けた。
切り分けた肉をフォークに刺しソースをたっぷりと絡める。
そして口へと運んだ。
(……!!)
口に入れた瞬間、爆発的な旨味が広がった。
なんだこれ!?めちゃくちゃ美味いぞ!?
臭みなんて全くない!
まるで豚肉のような味だ!
脂身が甘くて、噛むほどにジューシーな肉の味が溢れてくる。
スパイスの効いたソースがオーク肉の甘みをさらに引き立てていた。
(うまっ!これは……!)
俺の魂が叫ぶ。
白米だ!
この甘辛いソースとジューシーな肉は間違いなく炊きたての白いご飯に合うやつだ!
俺は反射的にテーブルの上を探した。
だが、そこにあるのはバスケットに入ったパンだけ……
そうか、ここは異世界。米文化はないのか……?
(くっ……白米がないのが悔やまれる……!)
しかしないものは仕方ない。
パンも肉に合うしな。
俺は焼きたてのパンをちぎり、鉄板に残った肉汁とソースをたっぷりと吸わせて口に入れた。
(……!!)
美味い!
カリッとしたパンの表面!
それにモチモチの中身が濃厚なソースと肉の旨みをたっぷり吸っている!
これが白米で受け止めるのとはまた違う相性の良さ!
美味いものは正義だ!
(セレスティアさん、食べ方が男らしすぎますよ?)
俺が無心で肉とパンを交互に口へ運んでいると、エリスが小声で囁いてきた。
ハッとして顔を上げる。
いけない、あまりの美味さに没頭しすぎていた。
「どう、セレスティアちゃん?美味しいでしょ?」
ミーナが笑顔で聞いてくる。
俺は口元のソースをナプキンで拭い、優雅な令嬢の仮面を被り直す。
「ええ、とても美味しいですわ。驚きました」
「でしょ~?パンと一緒に食べるのもたまらないよねぇ~」
「よかったです……私もサラダ……とても美味しいです……」
リリィは薬草サラダを小さな口でハムハムと食べている。
その姿はまるでリスかウサギのようだ。
癒やされる……
ふと横を見ると、エリスがスプーンを片手にニヤニヤしていた。
「ふふっ♪随分と気に入ったみたいですねぇセレスティアさん?さっきまでの怯えてた顔はどこへいったのやら♪」
「うっ……美味しいものは美味しいんですの!」
「素直でよろしいですね♪このオムレツも絶品ですよ?卵がふわっふわで……あぁ、幸せです~♪」
エリスは黄色い卵をスプーンですくい、うっとりと身をよじらせている。
女神様、完全に満喫してやがる。
ていうかなんの卵なんだそれは。
「あー!そっちのオムレツも美味しそう!」
「ミーナさんにはあげませんよ?これは私のですからね♪」
「えー!ケチー!」
ギャイギャイと騒ぐミーナとエリス。
それを見て微笑むリリィ。
「私……友達とランチするの……初めてで……とっても楽しいです……!」
「リリィ……わたくしも楽しいですわ」
ミーナもそんなリリィを見て微笑んでいる。
エリスは相変わらずニヤニヤしているが。
美味しい肉料理と温かいパン。
なんだろうこの空間。
転生して初めての食事がこんなに楽しいものになるなんて……
俺は最後の一切れを口に運び、ゆっくりと噛み締めた。
オーク肉、ごちそうさまでした。
この味は一生忘れないだろう。




