第10話 光魔法とミーナ
「はぁ……はぁ……ここまでくれば……」
俺は全力疾走で逃げたので息を切らしていた。
無我夢中で逃げていたためここがどこかわからない。
あれだけ広かった演習場だ。
学園の地理がわからないとはいえ外には出てないだろう。
そうだ。学園のことわからないのに、1人で行動したらどこに行けばいいかわからん。
どうやって帰ればいいんだ。
しかし、ここだけ異様に静かだ。
さっきまでは色んな魔法の音が飛び交っていたというのに。
目の前にはきれいなフィールドが広がっているだけだ。
なんだここ、何をする場所なんだ?
すると
「セレスティア様?こんなところでなにしてるんですか?そんなに息を切らして……」
と声をかけられた。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
きれいな銀色の髪をポニーテールに束ねた少女。
この子、さっき光魔法使っていた子だ。なぜか俺の名前を知っていた子。確か名前はミーナ・ベルだったか。
なんとなく、この子相手には悪役令嬢っぽく振る舞いたくなる。
「あら、庶民のミーナさんではありませんか。わたくしがどこでなにをしていようと勝手でしょう。あなたには関係ありませんわ」
「もしかしてセレスティア様もお花が好きなんですか!?」
「はい?」
「だからこの場所に来たんですよね! ここ、学園で一番お花が綺麗に咲く場所ですから!」
「いきなりなんなんですの……?」
俺が困惑していると、ミーナは嬉しそうに俺の手を取った。
ちょ、距離感ちかっ!
「見てくださいセレスティア様!ここの芝生、素敵なお花畑ができそうなんです!」
ミーナはそう言うが、広がっているのは雑草ばかり。
俺にはただの芝生にしか見えない。
「ただの芝生なのでは?」
「えへへ、ちょっと見ててくださいね」
ミーナはそう言うと、掌を地面に向け魔力を込めた。
すると、ふんわりとした温かい光が溢れ出す。
攻撃的な火や鋭い風とは違う、優しくて柔らかい光だ。
「生まれろ、生命よ。生命の聖光!」
光が周囲を包み込む。
次の瞬間、茎や蕾がニョキニョキと生えてきて固く閉ざされていた緑の蕾がほころび、
ポンッポンッという幻聴が聞こえそうな勢いで、可愛らしい白い花が辺り一面に咲いた。
「すごいですわ……」
「咲きましたー!どうです?綺麗でしょ?」
ミーナが自分のことのように自慢げに笑う。
なるほど、光魔法か。
レーザーとか目潰しとか想像していたが、こういう使い方もできるのか。植物の成長を促す……光合成の強化版みたいなものか?
「すごいですわね。雑草ばかりの場所に、花を咲かせるとは」
「これは生命を与える魔法です!村にいた時は、よく畑の野菜に使ってたんです!お日様が足りない日とかに使うと、野菜が元気になって美味しくなるんですよ!」
なるほど、農業用ライトみたいな。
特別な力ならもっといろんなことに使えそうだな。
「セレスティア様もやってみますか?とっても温かい気持ちになりますよ!」
ミーナが無邪気に誘ってくる。
光魔法か……選ばれた人間しか使えないらしいが、全属性の俺ならいけるはずだ。
それに、植物を育てる魔法なんて面白そうだ。
いや待て、なんで俺が光魔法を使えることを知っているんだ。
そういえば俺の名前も知っている。
どこで聞いたんだ?
「待ちなさい。あなた、なぜわたくしが光魔法を使えるとお思いで?初対面の相手がなぜ特別な属性を使えると思いますの?」
「えっ、使えないんですか?そんな……」
ミーナはしょんぼりしている。
「それになぜわたくしの名前を知っているのですか?あなた何者ですの?どこまで知っているのですか?」
当然、俺の中にはミーナの記憶はない。
この世界に来てから初めて会ったし。
他の連中みたいに女神が最初から知り合いだったことにしたのか?
しかし、自己紹介のときに初めて会ったって感じだし、知り合いという雰囲気でもないんだよなぁ。
「授業の前に親切な方に教えてもらったんですよ!
この学園には『セレスティア・フォン・オブシディア』という、光魔法が使える青髪の美しい女性がいると!光属性の人を見るのは初めてですがひと目見ただけであなたのことだとわかりました!あなたからは他の人とは違う『生命のオーラ』を感じたので!」
ということは、その教えたやつも俺が光魔法を使えることを知っているってことか。
つまり犯人はひとりしかいないじゃないか。
「その方、もしかしてピンク髪のほわほわした感じの方でしたか?」
「はい!ニコニコして楽しそうな方でしたよ!」
「エリス……ですわね……」
「『エリス』さんというんですね!やはりお知り合いの方でしたか!とても良い人でした!おかげでこうしてセレスティア様とお話もできましたし!」
あいつ、人の名前勝手に教えたわりには自分は名乗ってなかったのかよ!
さっきまで警戒してたのがバカみたいじゃないか!
こんな純粋な子で遊ぶなんてあいつが一番やりそうなことだ!
「あの、セレスティア様?どうしました?」
「いえ、なんでもないですわ。それより光魔法の使い方を教えてくださる?」
「!!やっぱり使えるんですね!やったー!」
ミーナはぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「そ、そんなに喜ばなくても……」
「喜びますよ~!貴重な同じ属性の持ち主に出会えたんですから!」
そうか。他の属性なら同じ属性同士仲良くすることもできるんだろうがこの子の場合は同じ属性に出会うこと自体が初めてなのか。
「では早速始めましょうか!エリスさんが『セレスティアさんは魔法の実力は全然なので手取り足取り教えてあげてくださいね♪』と、言っていたので簡単な魔法をやりましょう!」
あいつ、勝手にそんなこと言ってたのか。
まあ事実だからしょうがないけど。
実際、光魔法ってどう使うかあまりイメージできないな。
「……わかりましたわ。何をすればいいのでしょう」
「それでは丁度そこにまだ咲いていない蕾があるので咲かせてみましょう!」
ちょこんと、すぐそばに一つ蕾があった。
まずは一輪、花を咲かせられないとな。
「蕾に向かって生命を流し込むイメージです!」
「わかりましたわ、やってみます」
俺は指定された蕾の前にしゃがみ込んだ。
生命を流し込むイメージか。
俺は両手を蕾に向かって構え、イメージする。
ミーナのように、パァッと咲かせてやる!
「花よ、咲きなさい!」
するとポンッと白い花が咲いた!
できたぞ!光魔法も使えたぞ!
「咲きましたわ!見まして!?」
「わーい!やりましたね、セレスティア様!」
ミーナの屈託のない笑顔と、目の前で優しく輝く白い花。
あの殿下から必死に逃げただけだったが、こうして偶然ミーナと出会い、光魔法まで習得できたのは幸運だったと言えるだろう。
……まあ、あの女神が他にもミーナに余計なことを吹き込んでいないか、そこだけは少し不安だが。




