表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指輪よりオリハルコンの工具を渡された時、私は結婚を決めました  作者: 九葉(くずは)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話 国境越えと「肩こり解消」ネックレス

ガーネット王国の国境を越えて三日目。

乗合馬車のサスペンションは限界を迎えていた。

振動係数が許容範囲を超えている。


「……う、ぐぅ……」


向かいの席から、苦しげな唸り声が漏れた。


三十代半ばと思われる女性だ。

旅人にしては重装備すぎる鋼鉄製の甲冑。

赤茶色の短髪に、鋭い眼光。

いかにも歴戦の戦士という風貌だが、現在の彼女の顔色は土気色だった。


ガタン!

車輪が轍に嵌まり、車体が大きく跳ねる。


「ぐっ……!」


女性騎士が眉間を押さえ、深く呻いた。

首から肩にかけての僧帽筋が、岩のように強張っているのが視認できる。


私は手元のメモ帳を閉じた。

これでは計算に集中できない。非効率だ。


観察。

重装備による定常的な荷重負荷。

加えて、悪路による振動ストレス。

典型的な緊張型頭痛と、血行不良による機能障害だ。


「あの」


「……なんだ。すまないが、今は話す余裕が……」


「いえ、会話は不要です。これを」


私はポーチから、一つのネックレスを取り出した。

見た目は無骨だ。

剥き出しの銅線が黒い革紐に巻き付き、先端には小指大の灰色の魔石がぶら下がっている。

ガーネット王国の貴族が見れば「ゴミ」と判定して捨てられる代物だろう。


「……なんだ、それは。呪いのアイテムか?」


「『低周波治療ネックレス・試作三号』です。微弱な雷属性魔力をパルス状に流し、筋肉を強制的に収縮・弛緩させます」


「は?」


「血行促進効果があります。着けてみてください。静かになってもらわないと、私が困りますので」


私は有無を言わさず、彼女の手にネックレスを押し付けた。

女性騎士は怪訝な顔をしたが、背に腹は代えられないのか、恐る恐る首に巻いた。


「……っ!? なんだ、これは!」


魔石が肌に触れた瞬間、彼女が目を見開いた。


「ピリピリする……いや、熱い? なんだか中から揉まれているような……」


「最初は出力レベル1です。右のダイヤルで強度を変えられますが、絶対に3以上には回さないでください」


「なぜだ?」


安全装置リミッターの実装がまだだからです。レベル4で白目を剥いて気絶します」


「……危険すぎないか?」


彼女は引きつった笑みを浮かべたが、すぐにその表情が驚きに変わった。

土気色だった頬に赤みが差し、苦悶に満ちた呼吸が整い始めたのだ。


「痛みが、消えていく。首に鉄板が入っていたような感覚が、嘘のように……」


「僧帽筋の緊張が緩和されたようですね。成功です」


私は満足して、再びメモ帳を開いた。

これで静かな環境が確保できた。


「君、これをどこで手に入れた?」


数分後。

女性騎士が、興奮した様子で身を乗り出してきた。


「私が作りました」


「君が!? この魔石の回路、見たこともない術式だぞ。ラピスの軍部技術局でも、こんな小型で安定した雷魔力制御は……」


「独自規格ですので。あと、あまり揺らさないでください。ペン先がブレます」


彼女は驚愕の表情で私を見つめ、それから「ふっ」と豪快に笑い出した。


「面白い。飾り気のない嬢ちゃんだが、腕は確からしい」


彼女はネックレスを外そうとしたが、私はそれを手で制した。


「差し上げます。試作品ですし、メンテナンス用魔石も予備がありますから」


「……いいのか? これほどの機能を持った魔道具、金貨数枚は下らないだろう」


「私の目的は静寂な環境の確保です。対価は十分に支払われました」


女性騎士は私の手を強く握った。

掌が分厚く、熱い。


「気に入った! 私はヒルダ。ラピス王国の騎士団で副団長をやっている」


「副団長……?」


ただの傭兵かと思っていたが、予想外に身分が高い人だったようだ。

コネクションの構築は合理的だ。私は名乗り返した。


「リリス・アークライトです。技術職の職探しに来ました」


「そうか。なら、入国したら私の屯所へ来い。君のような人材、国が放っておかんさ」


   ◇


数時間後。

馬車はラピス王国の王都「サファイアガルド」の城門に到着した。


巨大な蒸気機関が唸りを上げ、鉄の扉が開く。

灰色の石造りの街並み。

あちこちに見えるパイプラインと、青白く光る魔導灯。


ガーネット王国の華やかさとは対照的な、機能美の塊のような街。

胸が高鳴る。ここなら、私の技術も「異端」ではなく「先端」になれるかもしれない。


「次。荷物のスキャンを行う」


入国ゲートで、厳めしい審査官が私を止めた。

私は指示通り、ポーチを魔力測定台に乗せた。


『ピガーッ!!』


耳をつんざくような警告音が鳴り響き、測定器のランプが赤く点滅した。


「なっ!? 魔力密度、測定不能エラー!? 危険物検知!」


審査官たちが一斉に色めき立ち、槍を構える。


「おや、おかしいですね」


私は首をかしげた。

中身はただの工具と生活用品だ。

ただ、空間収納の圧縮率が高すぎて、センサーが誤作動を起こしたのだろう。

ラピス王国の測定器なら大丈夫だと思っていたが、ここのゲートの機材は型落ち品のようだ。


「待て待て、騒ぐな」


騒ぎを聞きつけ、横からヒルダさんが割って入った。

自身の紋章を審査官に見せる。


「副団長! しかし、この娘の荷物が異常値を……」


「私の連れだ。機密扱いの試作装備を持っている。ログは『システムエラー』で処理しておけ」


「は、はいっ! 失礼いたしました!」


審査官は慌てて敬礼し、ゲートを開けた。

強引だが、助かった。


「目立ちたくなかったのだがな。……まあいい、行こうか」


ヒルダさんは苦笑いし、私の背中を叩いた。


ゲートをくぐる際、背後の測定器がまだ「ブブブ」と不満げな音を立てていた。

きっと私のポーチの魔力波形が記録されただろうが、まあ、エラーデータとして破棄されるはずだ。


私は雑踏の中へと歩き出した。


冷たく乾燥した風。

石炭と微かなオゾンの匂い。

ああ、ここは私の肌に合う。


私はポーチを握りしめた。

まずは拠点探しだ。

この国で、私の新しい人生が始まる。


――そう信じていた私は、まだ知らなかった。

今のエラーログが破棄されるどころか、即座に王城の「とある人物」の元へ転送され、解析されていることなど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ