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ベル候補 1



「七瀬おはよ!」


「里菜ちゃんおはよう〜」



昨日の出来事が夢だったかのように、今日も変わらない日常だと教室に入るまでは思っていた。


席が隣の里菜ちゃんにいつものように挨拶をすると、ふと違和感を感じる。


聞き間違え?かもしれないけどベルがどうとかこうとか…。




「ね、なんか今日いつもとなんか違うね?」


「え、七瀬知らないの?今日の放課後に放送でベル候補が発表されるんだって!やーっとだよ!薔薇が散るまでにベルが決まるんだ」



おお、里菜ちゃんも興奮気味だった…!

そういえば、昨日の南高の人達もベルについて教えろみたいなこと言われたけどなんだろう。


北高へ入学して2年目なのにそんな噂あったかな?



「そのベルってなに?」


「……」


「あの、里菜ちゃん?」


「もしかして七瀬ってベルのこと知らずにここへ入学したの?」




私の問にどこか別の世界へ意識だけ飛んでいってしまっかのうにフリーズしてしまう。


おーいって里菜ちゃんの顔の前で手を振って、やっと戻ってきてくれた。



「どうしてここへって…寮付きで、学校の近くに私好みの書店があるから。しかも今そこでバイトもできて、こんな好条件のところ他にないよ!」


「ああ、尋ねた私が馬鹿だった。そうね、七瀬はそういう子だった」


「…ん?今、私って褒められてはないよね…?」


「呆れ半分褒め半分。七瀬はブレないなって」



額を片手で覆いお手上げとでもいうような仕草で、褒め半分と言われても…半分も褒められてる気がしないというのは心の内に留めておく。




「んで、ベルって言うのはね、心の美しい女の人の事をいうんだって」


「心の美しい女の人…?」


「今の鳳凰ってそこまで悪い噂はないでしょ?あるとしたら、南高の青鷺火と対立してるとか、皇隼太様は強くて綺麗で残酷無慈悲だとか…」


「まあ、その程度の噂なら私も知ってるけど…」




というか、昨日少し巻き込まれましたと言える空気でもなくてそのまま里菜ちゃんの話の続きを聞く。



「昔の鳳凰は手がつけられないほど野蛮で、特に総長は1度喧嘩したら、相手が気絶しても殴り続けるほど凶暴だったんだって。そんな彼に真っ直ぐ向き合って、愛を教えたのが心の美しい女の人みたい」


「どうしてその人をベルと呼ぶの?」


「美しいってフランス語でbellだからって聞いたことある。まあ、近年の鳳凰はそんな荒れてないからベル=美しい女の人というよりは、ベル=総長の女に変わってきてるけどね」



里菜ちゃんから聞いた話は入学当初から噂にあったらしいけど、そんな大切なこと私は1年以上も知らなかったんだ…。


噂が気にならないくらい日々が充実していたのだと解釈することにした。



ちなみに心の美しい女の人がベルと呼ばれたのが、薔薇の花びらが全て散る頃だったらしくその名残があるのだとか。



「今日の放課後の放送ってつまり名前を呼ばれてしまえばその人の意思関係なく総長の女になるってこと?」


「そうなるね、七瀬ぐらいだよそんななりたくないって顔してるの」


「え…そんなに顔に出てた?」


「ばっちりね」



私は、ベルとか総長の女とかそんな肩書きは必要なくて、本に出てくるような人生を賭けて人を愛すような恋に憧れている。



例えば…身分違いだけれど、自分の位を捨てて愛する人を幸せにするとか。


危険だとわかっているのに、本能に逆らえず禁断の恋に落ちてしまうとか。


そんな恋がないかなと、今日も恋焦がれている。



「里菜ちゃん選ばれるといいね!」


「選ばれたらもうその場で気絶しちゃうかもしれない…胸熱展開だもん!」


「あはは…里菜ちゃんが選ばれるように今日1日願っておくね?」



身を乗り出して話す姿に圧倒されて、苦笑いになってしまった。


里菜ちゃん可愛いから選ばれそうな気もするけど…。

何を基準にして選考するのか全くわからない。



「ありがとう!でも、大体この流れは乗り気じゃない七瀬みたいな子が選ばれがちだよね」


「ええ!?やめてよ〜!そんな怖いフラグ立てないで」



ごめん冗談って言いながら席ついたけど…今までの里菜ちゃんのフラグって回収しなかったことないんだよね…。


今回ばかりは笑えない。


今日1日周りがそわそわしていて、最初はなんとも思ってなかったのに変に私まで緊張しちゃって最後の授業なんて集中出来なかった。


里菜ちゃんが冗談でも、私みたいな子が選ばれるかもよとか言うから…



里菜ちゃんが選ばれますように(私を絶対選ばないで)と毎時間休み時間がくると願ってたから大丈夫と思い込む。




「そろそろだね」


「私、バイトあるから帰るね」


「え?七瀬!?それはまずいんじゃ…」


「でも…」



置いてかないでなんて言ってすがりつかれたら、帰るに帰れない。


まあ、呼ばれるのは大した時間を使わないだろうから、終わったらすぐ帰ろう…!




「あー、皆さんお待たせしました。もうすぐ薔薇の花びらが散る頃となりましたー。

手短に済ませたいので、“ベル候補”を早速発表させていただきまーす」




す、すごい…さっきまでざわついていたのに、放送の声が聞こえた途端ピタリと止まった。



放送越しなのに、抑揚のない気だるげな性格がうかがえる。



里菜ちゃんにベルについて教えてもらった時に、ついでで鳳凰についても聞いておいた。



鳳凰は幹部全員が、獣と呼ばれていて美形揃いだとか。

彼らは、立ち入り禁止の旧校舎を住処として別名野獣の檻と呼ばれているらしい。



これも以前の鳳凰の名残で、一般生徒に手を出さないようにと幹部達が新校舎の立ち入りを禁止されている。

(今は変わって授業を受けてもいいとか…)



ベルになれば、旧校舎の立ち入りを許可されて鳳凰の幹部達と一緒に過ごさなければならないとも聞いた。



……そんなの絶対に無理!



「ベル候補として旧校舎へ来ていただくのは、2年C組、春野七瀬。これからお迎えにあがるので教室でお待ちくださーい」


「やったね七瀬!羨ましいけどすごいよ!」



私に抱きついて喜ぶ里菜ちゃんと反対に、私の顔面は死んでいて絶望だった。

聞き間違えを疑いたいけど、確かに私の名前。



やっぱり里菜ちゃんのフラグは必ず回収する運命なのかもしれない…。



候補なのにも関わらず私だけというのも、意味がわからない。



周りからも、歓喜の視線や羨望の視線、更には選ばれなかったと涙ぐむ子もいて、とにかくその場から離れることしか頭になかった。



「待って七瀬!?ここで待ってろって言われてたでしょ?」


「ごめん里菜ちゃん。私バイトあるし、昨日スマホも壊しちゃったから修理に出さなきゃ…」


「そんなのあとでいいでしょ」


「と、とにかく何か聞かれたら適当に誤魔化しといて」



ベル候補として選ばれた人が逃げたら、ベルにする気力も失せて諦めてくれると思う。


もっと他に可愛い子はいるし、どうしても私なんてことはないだろうから…。



私には私のやりたいことがある。



それに、本当に昨日会った人が鳳凰の総長なら、尚更諦めてくれるはず。



いかにも興味を示さないし、彼のやり方に口を出して挙句の果てスマホを貸してほしいなどと言ったり、開いているはずもない病院へ連れていこうとしたりかなりやらかしてしまっている。



だから忘れてまた新たな本と出会える至福のバイト先へ向かった。



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