第2話:ことばの形、意味の力
「……あ、あそこに、何かある?」
目の前の草原の先に、いくつかの煙が立ちのぼっているのが見えた。
村のようだった。屋根の形はどこか西洋風で、地面は土の道。
空の色は地球と似ていて、風はやわらかく吹いている。
「とにかく、行ってみよう」
歩き出すと、見えてきたのは木製の柵に囲まれた小さな村。
入り口には、腰に剣を差した若い男が立っていた。
「おい、旅の者か?」
「え、あ、はい。ちょっと……道に迷ってて」
「迷うような場所でもないがな。まあ、いい。名前は?」
「あ、桐谷……いや、ユウトって呼んでください」
「ふむ。外れの草原から来たってことは……もしかして、“転字者”か?」
「てんじしゃ……?」
男は少しだけ驚いたように目を見開いた。
「なら、村長に会っておけ。そいつが、ここでの話を早い」
そう言って村の中へ通してくれた。
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村は素朴で静かだった。
土の匂いがして、鶏の鳴き声と、木を削る音が遠くから聞こえる。
悠斗は案内され、藁ぶき屋根の小さな家に入る。
中には白髪の老人がいた。背筋はまっすぐ、目は鋭く、だが優しげだった。
「……ほう。“変字”の力を持って来た者か。珍しいな」
「はい……そういう風に言われて」
「なら、試してみせよ。おぬしの力がどれほどのものか、見ておきたい」
村長が指差したのは、一枚の紙だった。
そこには、こう書かれていた。
【火の石】
「これが何か、わかるか?」
悠斗は息をのんだ。
目の奥に、何かが光った気がした。
すると、紙の文字がすっと変わって見えた。
【火の石】→《火石:マグマの底に眠る燃える鉱石。魔力を加えると発火する。》
「……え、今、説明が……頭の中に……」
「見えるのか?」
「はい。“火の石”が、なんか……“マグマの底にある燃える鉱石”って出ました」
村長は目を細めて、深くうなずいた。
「本物だ。やはり、転字の眼を持つ者……。この地にとって、希望になるやもしれん」
「希望? いや、僕、ただの大学生で……」
「いや、ただではない。ガチャの力も持っておるのだろう?」
「えっ、なんで知って――」
村長は微笑んで立ち上がり、棚から一冊の古びた本を取り出した。
そこには、こう書かれていた。
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《ガチャの祝福を得し者、文字を読み変える眼を持つ者。
この二つを揃えし時、新たなる書の扉が開かれる》
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悠斗はそのとき、ようやく理解し始めた。
これはただの“ゲームのような異世界”ではない。
「ことば」と「文字」が、運命を導く――特別な世界なのだと。