第1話:転移の朝
春の朝。
大学2年生の桐谷悠斗は、いつものようにコンビニのパンを片手に、通学路を歩いていた。
「今日はゼミ発表か……嫌だなぁ」
彼はどこにでもいる、普通の大学生だった。
目立たず、成績も中の上。バイトとゲームに明け暮れる、少しだけ内向的な青年。
しかし――その日、世界は突然終わった。
「……え?」
空が砕けた。
空気が光になって、全ての人と物がその中に吸い込まれていく。
悠斗の体も、足元からふわりと宙に浮かび、光の渦に巻き込まれていった。
気がつくと、目の前に広がっていたのは見たこともない、広大な草原だった。
「……え、どこ?」
立ち上がった彼の前に、透明なウィンドウが現れる。
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《ようこそ、“転字の世界”へ》
あなたは選ばれた旅人です。
この世界には、“言葉”と”文字”が力を持ちます。
《特典付与:鑑定眼【変字】》
──あらゆる言葉を視て、意味を“変換”できる力を得ました。
《ガチャ権利付与:1日1回》
──今日の運試し。あなたの冒険の一歩を、ガチャが導きます。
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「は? なんかゲームみたいな……え、鑑定眼? 変字?」
混乱しながらも、悠斗の目の前にまた別のウィンドウが開く。
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《ガチャを引きますか?》
【YES】 【NO】
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「……やってみるか」
恐る恐る【YES】を選んだ瞬間、空から巨大なカプセルが降ってきた。
ゴロゴロ……カシャン。
中から出てきたのは、銀色の指輪だった。
【★☆☆☆☆:古びた言葉の指輪】
→身に着けると、一つだけ“文字”の意味を見抜ける。
「……うん。弱そう」
でも、それが彼の最初の力だった。
最初の一歩。最初の運。
これから始まる、長くて、優しい異世界の旅のはじまり。