2魔法使いは勇者の剣を名乗る
「ボクは勇者の剣なりーっ!!」
大根畑の真ん中で、胸まで土に埋まった男が叫んでいる。少年は、愕然とその様を見つめていた。それが、勇者と魔法使いの出会いだった。
少年の頃、勇者は漠然と将来は勇者になりたいと思っていた。はるか昔に魔王を倒した勇者一行の話に憧れていた。街に行くと冒険者ギルドがあり、そこで出会う勇者や戦士が格好良いと目を輝かせていた。街から少し離れた所にある勇者の家や周りの家は、みんな農家だ。勇者は、農作業を手伝いながら体を鍛えていた。そのせいか、同年代の子供より体格が良かった。
ある日、家の畑に異変が起きた。大根畑の真ん中に男が埋まっていたのである。彼は胸まで土に埋まり、両手を合わせた状態で天にぴんと腕を伸ばしていた。そして、叫んでいた。
「ボクは勇者の剣なりーっ!!」
大人たちは、遠巻きに彼を見ていた。明かにイカれた様子に誰も近寄ろうとしなかった。自称剣の男は目を見開き血走らせて唾を飛ばしながら叫んでいた。ヤバイ奴である。しかし、勇者は勇敢にも彼に近づいた。親が止めるのも聞かなかった。男は周囲に生えている大根の様だ。収穫間近の大根たちは、緑の葉を広げ、白い実の部分が土から覗いている。土に埋まった自称剣男も似たようなものだと思った。きっと大根のように引っこ抜けるに違いない。勇者は確信していた。勇者は腰を下ろし後ろから男に抱きつく様な姿勢になり、自分の背中を後ろに反らして一気に男を引き抜いた。抜かれた瞬間男は静かになった。それどころか、男は、勇者と同年代の少年の姿になった。勇者はあっけにとられた。
「やぁ、ありがとう。助かったよ」
少年は言った。少年はぶかぶかになってしまった服の袖をまくった。少年の胸元では、赤い石がはめ込まれた剣の首飾りが揺れている。
「厄介な呪いに掛かっていてね。君のおかげで一つ解けた。自分が剣だなんて狂気だろう? 近寄る勇気をもってくれて本当にありがとう」
少年はペコリと頭を下げた。
「いや、別に。その、でも」
勇者はしどろもどろだった。
「ああ、姿が変わったことにも驚いたよね? これは僕を引き抜いた人物と同じ年齢になる呪いも掛かっていたんだ」
少年は説明した。少年は今度はズボンのすそをまくり始めた。
「それにしてもよく近づいてくれたね?」
少年は感動しているようだった。
「だって、大根みたいだと思ったから」
勇者は正直に答えた。
「は?」
「これがオレと魔法使いの出会いだ」
勇者が言った。
「嘘ぉ!?」
戦士と僧侶が声を揃えた。