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聖夜の黄昏  作者: 那王
2章 動き出す世界
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黒曜石のテーブル

深紅の絨毯が音を吸収する部屋の中央には、磨き上げられた黒曜石の巨大なテーブルが鎮座していた。その冷たく硬質な表面には、天井のシャンデリアの光が複雑な模様を描き出している。テーブルを囲むのは、世界の富と情報を掌握し、影から政治を操る巨大複合企業「グローバル・オムニ・グループ(GOG)」の最高幹部たち。彼らが纏う重々しい空気は、部屋の温度を数度下げているかのようだった。


「ヘリオス社の爆破事件、そして相次ぐ機密情報の漏洩…一体どうなっているんだ?」

静寂を破ったのは、低く、しかし部屋の隅々まで響き渡る威圧的な声。GOGのCEO、アルフレッド・バーンズだ。白髪を非の打ち所なくオールバックに撫でつけ、仕立ての良いスーツに身を包んだ彼は、その鋭い眼光でテーブルの向かいに座る幹部を射抜いた。世界経済を支配する影の帝王。その呼び名にふさわしい威厳が、彼の一挙手一投足に滲み出ていた。


「犯人は『黒き聖夜の審判』と名乗る集団、あるいは個人とされていますが…その正体、及び拠点は依然として不明です。あらゆる諜報網を駆使しておりますが…」

情報部門を担当する幹部の一人が、額に汗を滲ませながら苦々しい表情で報告する。彼の声は、バーンズの威圧感の前にか細く震えていた。


「無能が!」

バーンズの手がテーブルを叩く。黒曜石の硬質な響きが、幹部たちの肩を震わせた。

「そんな報告ならニュースで何度も流れていて、そこらの子供でも知っているわ! 我々が知りたいのはその先だ!」


彼は立ち上がり、テーブルの縁に両手をついた。その鷲のような目が、幹部たち一人一人を睨めつける。

「こいつらの目的はなんだ? 我がオムニの最大のライバルであるヘリオスの破壊が目的なら歓迎しよう。むしろ、よくやったと褒めてやりたいくらいだ。なんなら、うちの最新鋭ミサイル『ゼウスの鉄槌』でもプレゼントしてやってもいい。ついでにヘリオスのエウロ工場にもう一発ぶち込んでやれと頼んでやろうじゃないか」


皮肉とも本気ともつかない言葉に、幹部たちは押し黙る。


「も、申し上げにくいのですが…」

別の幹部が、恐る恐る口を開いた。

「暴露された情報の内容から鑑みるに、おそらくヘリオス社単体を狙ったものではなく、アメリアの軍需産業、ひいてはそれを支える政財界全体への攻撃かと。ヘリオス社への攻撃は、その始まりに過ぎない可能性が…ですので、いずれは我々グローバル・オムニ・グループも…標的となる可能性は否定できません」


バーンズは、まるで面白い冗談を聞いたかのように、一瞬口の端を歪めた。だが、次の瞬間、彼の表情は再び怒りに染まった。今度は先ほどよりも強く、テーブルが軋むほどの力で叩きつけられる。

「そんなことは分かっている!SNSでの情報暴露を見ただろう!15年前の首都同時多発テロに関する、アメリア政府とヘリオス社の共謀疑惑…まさに国家の根幹を揺るがす情報だ。あんなものを暴露する連中が、我々オムニを見逃すはずがない!奴らは必ず次に来る!」


バーンズは部屋の中を歩き回りながら、怒鳴り声を上げる。

「ヘリオスも馬鹿ではない。最新鋭の防衛システムを何重にも施したあの工場が、なぜ、いとも簡単に破壊されたのだ!?説明しろ!そして、同じことが我々に起きた場合、どう対処するつもりか、それを聞いているんだ!」


張り詰めた空気の中、バーンズの怒声だけが響き渡る。幹部たちが冷や汗を流して俯く中、会議の末席に座る一人の男だけが、薄笑いを浮かべていた。痩身で猫背気味、黒縁の眼鏡の奥で爬虫類のような瞳が鈍く光る。GOGに所属し、禁断とされる魔法と最先端科学の融合を密かに研究する科学者、Dr.神室であった。


〈工場爆破、情報漏洩…ヒッヒッヒ…この混沌の裏に揺らめく気配…間違いない、魔法の力だ。それも禁術と呼ばれる類のものだろう。素晴らしい…!あぁ、古の魔法…これほど甘美な探求対象があろうか!〉


彼は細い指で神経質そうに顎を撫でながら、思考を巡らせた。

〈だが、この使い方はあまりにも稚拙…まるで子供の火遊びよ。人類がすでに持っている技術で十分に実現可能なことを、わざわざ貴重な魔法で行うとは。おそらく、魔法を持ち出したのは、サンタクロース協会とかいうおとぎ話集団の、世間知らずな若造だろう。正義感に駆られて暴走した、といったところか〉


〈ヒッヒッヒ…我々にとっては好都合。長年、その存在すら疑わしく、研究の邪魔が入って情報すらほとんど掴めなかったサンタクロースの魔法…その一端が、向こうから姿を現してくれたのだからな。利用しない手はない〉


彼の口元に、歪んだ笑みが広がる。

〈知恵もたかが知れている。すぐに尻尾をつかめるだろう。捕獲し、解析し、そして…我が科学と融合させるのだ!〉


バーンズの怒りは依然として収まらず、不穏な空気の中で取締役会は一旦休会となった。幹部たちが足早に退出していく中、Dr.神室はポケットから小型の通信機を取り出し、低い声で部下たちに命じた。


「例の『黒き聖夜の審判』の追跡状況は?…なに、まだ掴めんのか。まあいい、すぐに動きがあるはずだ。準備は怠るな。早くいけ。必ず捕まえてこい。生きたまま、だぞ」


通信を切ると、彼は再びほくそ笑んだ。窓の外では、鉛色の空が広がっていた。

「例の『黒き聖夜の審判』の追跡状況は?…なに、まだ掴めんのか。まあいい、すぐに動きがあるはずだ。準備は怠るな。早くいけ。必ず捕まえてこい。生きたまま、だぞ」


通信を切ると、彼は再びほくそ笑んだ。窓の外では、鉛色の空が広がっていた。

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