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聖夜の黄昏  作者: ナオ
序章
3/56

届かぬ想い

風が頬を切り、星々が私たちの道を照らしている。

トナカイたちは力強く空を翔けていく。


手の中のサッカーボールを強く握りしめながら、私は心の中で呟いた。

(待っていて、きっと君のもとに届けるから)


でも、目的地に近づくにつれ、私は異変に気づいた。

下界から激しい炎と煙が立ち昇り、遠くから爆発音が響いてくる。


「なんて酷い……」


建物は崩れ、道は寸断され、人の営みがあった痕跡は瓦礫の山へと変わっている。

私たちが少年の住む村に辿り着いたとき、そこに「村」と呼べるものはもう残っていなかった。


爆撃によって、村は破壊し尽くされていた。生存者を探すことすら困難な状況。


「間に合わなかったの……」

「降りて探してみよう」


焦げ付いた臭いが鼻をつく瓦礫の中を、私たちは歩き始めた。


「誰かいませんか!」


しばらく彷徨った末、瓦礫の間を覗き込む一人の老人を見つけた。

彼は疲れ果てた表情で顔を上げ、私たちを見ると、目を見開いて後ずさりした。


「ひっ……その髪の色! 西側の人間か!?」

老人は逃げようとするが、足がもたつき、その場に倒れこんでしまう。


「わ、儂はもう年寄りじゃ、抵抗はせん。ただ食べるものがないか探しに来ただけじゃ、見逃してくれ!」


「違います! 私たちは敵ではありません!」

「見てください、武器も持っていないです!」


私たちが必死に両手を広げて敵意がないことを示すと、老人も何かに気づいたようで、少し落ち着きを取り戻した。


「……そうじゃな。よく見れば、軍服でもない。奇妙な服を着た子供じゃないか。西洋人の子供がこんなところに何の用じゃ」

老人は荒い息を整えながら、私たちの姿を凝視した。


「ここに住む少年を探しているのです。この手紙をくれた子を」

私は懐から、あの汚れた手紙を取り出して見せた。


老人は震える手でそれを受け取り、たどたどしく読み始める。

村の子供に思い当たる節があるようだ。


「両親と妹……これは……ハミドのことか?」


「ハミド……それが、あの子の名前なんですね」


「なぜ、お前たちがこの手紙を持っておる?」


「クリスマス……西洋の冬のお祭りです。そのお祭りの主役サンタクロースに手紙を書いてくれたみたいなんです。訳あって中身を見てしまったもので」

「彼に、どうしても届けたいものがあるんです」

私たちは言葉を選びながら伝える。


「ハミドのやつ……クリスマスじゃと? 異教の教えに手紙を出すなど」


「いや……」

老人は大きくため息をついた。


「わしらの神は、わしらを救ってはくれんかった。聖戦なぞと下らんことを声高に叫び、家を、食べ物を、子を孫を奪っていった。あの子が異国の神にすがりたくなる気持ちも、分からんでもないわ」


「あの、ハミド君は…?」


「この村に残っているのは、わしら老人やけが人だけじゃ。動ける者は皆……命を落としたか、復讐のために銃を取った。あの子ももうおらん。武器を手に取り出て行ったよ。」

老人は悲しげに首を振り、彼方を指さした。


「そんな……」


「急がないと……!」

「行こう、イリス! もしかしたら、まだ間に合うかもしれない!」


私たちは急いでソリに戻り、再び空へと舞い上がった。

老人の指差した方角、戦いの最前線へ。


最前線の戦地はさらに深刻な状況だった。

絶え間ない銃声と爆発音が響き渡り、煙と砂塵が立ち込めている。


「彼は、ハミド君はどこに……」

私は必死に目を凝らし、戦場を見下ろした。


そのとき硝煙の間から、小さな影の集団が見えた。

彼がいるかもしれない、私は高度を下げた。


それは少年兵の部隊、彼らは大人たちに混ざり、その小さな体には不釣り合いなほど大きな銃を構え、前線に立っていた。


「やめて! あなたはそんなことをするべきじゃない!」

私は叫んだ。

だが、戦場の轟音にかき消され、彼らの耳には届かない。


突然、鼓膜をつんざく轟音と共に、視界全てが真っ白な光に飲み込まれた。


「いや……!」

私はとっさにソリから身を乗り出し、手を伸ばした。

だが届かない、指先はむなしく空を切る。


爆風が私たちをも巻き込み、ソリは大きく揺れ、吹き飛ばされた。


────


目を覚ますと、私はノエルの腕の中にいた。

耳鳴りが止まない。


「大丈夫かい、イリス?」


「彼は……? ハミド君は?」


ノエルは哀しげに首を振った。


「どうして……どうしてこんなことに……!」


私のそばには、星屑を閉じ込めたサッカーボールが転がっていた。

蹴るたびに星が輝く、夢と希望のボール。


でも、それはもう届けるべき相手を失っていた。


「うあぁぁぁぁぁ……!」


空しく輝くボールの光が、今はただ、私の絶望を映し出していた。

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― 新着の感想 ―
ああ〜……。 なんということでしょう。悲しいです。 届けるべき相手がいなくなったサッカーボールが物悲しいです。 二人の心が揺さぶられている様子がとても伝わってきます。
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