届かぬ想い
風が頬を切り、星々が私たちの道を照らしている。ルドルフを先頭に、トナカイたちは力強く空を翔けていく。手の中のサッカーボールを強く握りしめながら、私は心の中で呟いた。
「待っていて、きっと君のもとに届けるから」
でも、目的地に近づくにつれ、私は異変に気づいた。下界から激しい炎と煙が立ち昇り、遠くから爆発音が響いてくる。
「なんて酷い……」
私の声は風に消されてしまった。戦火はますます激しさを増していく。
私たちが少年の住む街に辿り着いたとき、そこには瓦礫の山と化した景色が広がっていた。建物は崩れ、道は壊れ、人々の姿は見当たらない。爆撃によって、街は一瞬にして破壊し尽くされていた。生存者を探すことすら困難な状況。
「間に合わなかったのか……」
私はボールを抱きしめながら呟いた。心の中で何かが崩れていくのを感じる。
「まだ希望はあるよ。探してみよう」
ノエルの声に励まされ、私たちは崩れた街を歩き始めた。
瓦礫の中を進む中、一人の老人と出会った。彼は疲れ果てた表情で、私たちに気づくと驚いたように目を見開いた。
「あなたたちは……?」
「私たちは遠くから来ました。ここに住む少年を探しているのです」
私が切実に訴えると、老人は悲しげに首を振った。
「この街に残っているのは、わし一人じゃ。皆、戦争で……あの子も、きっともうおらん」
「そんな……」
私の胸が締め付けられる。老人はポケットから小さな紙片を取り出した。それは粗末な地図で、何かの場所を示していた。
「あの子は復讐を果たすために、敵の本拠地に向かったようじゃ。止めることもできなかった」
ノエルはその地図を凝視した。
「急がないと……」
「行こう、イリス」
私たちは急いでソリに戻り、再び空へと舞い上がった。
目的地である戦地はさらに深刻な状況だった。銃声と爆発音が響き渡り、煙と砂塵が立ち込めている。
「彼はどこに……」
私は必死に目を凝らした。そのとき、小さな影が見えた。それは少年だった。彼は大人たちに混ざって銃を構え、前線に立っていた。
「やめて!あなたはそんなことをするべきじゃない!」
私は叫んだ。でも、彼の耳には届かない。
突然、激しい爆発が起こり、視界が真っ白になった。
「いや……!」
私は手を伸ばしたけれど、間に合わなかった。爆風が私たちをも巻き込み、ソリは大きく揺れた。
────
目を覚ますと、私はノエルの腕の中にいた。
「大丈夫かい、イリス?」
「少年は……彼は……?」
ノエルは哀しげに首を振った。
「間に合わなかった。僕たちの力でも、救うことはできなかったんだ」
「どうして……どうしてこんなことに……!」
私は泣き崩れた。手には、星屑を閉じ込めたサッカーボールがまだ握られていた。
でも、それはもう届けるべき相手を失っていた。空しく輝くボールの光が、今はただ、私の絶望を映し出しているかのようだった。