仕掛けられた罠
巨大複合企業GOGの本部。Dr.神室は、薄暗い研究室でモニターに映る情報に、爬虫類のような冷たい笑みを浮かべていた。彼の情報網は、中東で起きた「奇跡」の噂を捉え、独自の解析でそれがイリスであると断定していた。
「ヒッヒッヒ…見つけたぞ、小娘。愚かな感傷が命取りよ」
部下の報告書を一瞥し、彼は嘲るように呟いた。「自ら撒いた種の後始末に、危険な現場にノコノコ現れるとは。行動パターンは単純。実に御しやすい駒だ」
彼は即座にGOG軍事部門責任者へ秘匿回線で繋いだ。
「私だ、Dr.神室だ。例の『黒き聖夜の審判』捕獲作戦の準備はいいかね?」
有無を言わせぬ口調で続ける。
「数日以内に、『テロリスト掃討』でも『予防攻撃』でも名目は何でもいい、予測地点一帯で大規模な軍事行動を起こせ。目的かね? 罠だよ、罠。あの魔女は、自分の行動が引き金になった騒乱には必ず現れる。そこを生け捕りにする。CEO直々の命令でもあるのだぞ、これは」
通信先の相手が手続き上の困難を口にしようとしたが、神室は冷たく遮った。
「懸念は無用。根回しは我々が完璧に行う。貴官らは駒を動かせばいい。失敗は許さんぞ? あの魔女の力は、我が科学と融合させれば、人類を次のステージへ…いや、私を神へと至らしめるのだからな! ヒッヒッヒ…! 必ず、生け捕りにしろ。いいな?」
一方的に通信を切ると、神室はモニターに映るイリスの不鮮明な画像と攻撃予測地点の地図を眺め、満足げに頷いた。