オーロラ号の船出
翌朝、ノエル、リリィ、ルドルフは、朝日に輝くノードハイムの港に立っていた。目の前には、白く巨大な船体を持つ豪華客船「オーロラ号」が停泊している。これから始まる長い船旅への期待と、少しの不安が入り混じった複雑な気持ちで、三人はその威容を見上げていた。
「わぁ…すごい…」
ノエルは圧倒されながら呟いた。
「こんなに大きな船に乗るのは初めてだ」
「さあ、行きましょうか」
リリィが笑顔で促した。
「私たちの新しい冒険が始まるわ」
見送りに来てくれたカイトが、ニヤリと笑って言った。
「ま、せいぜい船酔いしないようにな。アメリアに着いたら連絡しろよ。俺の知り合いの腕利きハッカーを紹介してやる。そいつなら、イリスちゃんの足取りを掴む、何かしらの手助けをしてくれるかもしれねえ」
「ありがとう、カイトさん! 色々助かったよ!」
ノエルは感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
ノエル、リリィ、そして大きな荷物を背負ったルドルフ。それぞれの想いを胸に、彼らはオーロラ号のタラップを上がり、船上の人となった。
やがて、長く、低い汽笛が港に鳴り響き、オーロラ号はゆっくりと岸壁を離れていく。甲板の手すりから見下ろすと、岸壁で見送る人々の中に、アニーとバーニーの姿があった。二人は、小さな体で精一杯、大きく手を振っていた。
「リリィお姉ちゃん! ノエルお兄ちゃん! ルドルフも! 頑張ってねー!」
「バーニーも応援してるよー!」
リリィは満面の笑顔で手を振り返し、ノエルも力強く手を振った。遠ざかる故郷の街並みを、リリィは少しだけ寂しそうな、しかし決意を秘めた瞳で静かに見つめていた。
船は、ノードハイムのフィヨルドを抜け、広大な大西洋へと進み始めた。これから始まる長い船旅。彼らの行く手には、様々な国での出会いと発見、そして、イリスを巡る厳しい試練が待ち受けていることを、まだ誰も知らない。
海鳥の声と潮風の匂いの中、オーロラ号は西へ、西へと進んでいく。ノエルの心には、イリスへの想いと、サンタクロースの力の意味、そして仲間たちとの絆があった。彼の、そして彼らの本当の旅が、今まさに始まろうとしていた。