第一章3話 『勇者への報酬』
痛い…痛え。
イト先輩に襲いかかっていたガイウルフに体当たりをしたが、その巨体にとってはそよ風のようなものだったのかびくともしない。
しかし、狙い自体を変えることには成功し、無事に引き裂かれたわけだ。
それにしても痛い、というより痛みを通り越して熱く、吐き気がする。
でもまだだ、俺がやるべきことはまだある。
「逃げ、て…先輩、お願い、早く!」
どうにかしてみんなをここから遠ざけなければ。
それにしても…ハハッ、先輩も泣くときはあるんだな。
でも今は、泣くより逃げてほしい。助かって欲しい。
「先生たちを呼んで、ください。カタリア、お願いしまず!」
このままじゃイト先輩は動かないだろう。だけど、カタリア先輩なら…大丈夫そうだな。
一瞬目を瞑ったカタリア先輩は
「みんな!直ぐに学校に戻って助けを呼ぶ!少しでも早く着くように全力を努めろ!」
なるほど、今日分かったのはカタリア先輩は中々に役者だということだ。
涙とか顔とかぐしゃぐしゃで行っても説得力がない。
でもそれがありがたい。
みんなが来た道を戻っていく。
イト先輩は最後まで
「イヤ!イヤだ!…いやぁ!!!」
と見捨てないでくれた。それが、たまらなく嬉しくて自分の命に意味を見出だせた気がする。
◇◇◇
…さて。俺はこれからどうなるのか。
考えたくもないが、嫌でも考えてしまう。
ガイウルフが他の人たちを追わなかったのは幸運だったが、それは標的が決まっただけのこと。
死にたくない、怖い、…助けてほしい。
さっきと矛盾した思考が脳内に溢れる。
助けてほしい?自分からこの道を選んだはずなのに、最後の最後で本心が出るなんて情けない。
満足だろ?みんなの命を助けた勇者として誇り高く逝こうぜ。
見上げると、ガイウルフはトドメの一撃を振りかぶっていた。
ありがたい、ちゃんと殺してくれるなんて。
今の俺には、生きたまま食べられる悪夢を見ずに済むことすら救いに思える。
ああ、世界は美しいな。
爪が俺の頭を突き刺…
パンッ!!
ガイウルフの爪が俺の頭を突き刺そうとした瞬間、やつは弾け飛んだ。風船が割れるみたいに
「…え。何、が起」
「いやぁ!実に素晴らしいものを見せてもらったよ、少年。」
声のした方を向く。すると、森の中から何者かが現れ、月の光がその者を照らす。
月光に照らされて顕になったのは、息を呑むほど凄絶な美女だった。