鏡の国
あのね、鏡の国が存在するらしいよっ
鏡の国は、世界中の鏡が共通している国っ
心からすべての事、現実から逃げたいと願ったらねっ
そしたら、連れてかれるんだよっ
連れてかれてね、戻ってこれなくなるんだよっ
一生っ
「うはははははっ、なにそのありきたーりな都市伝説、うははっ!」空音は大声で笑いだした。周りの友達も腹を抱えて転げまわってる。浜辺さんはずっと下をむいてるだけだ。
「ほんとだから。」浜辺さんは静かに言う。
「へー本当なんだー」空音の友達、彩夏もにやにや笑った。「確かになんかこわい話してって言ったのはこっちだけどさー冷え冷えしたいのにそんなくだらねー話するとか」
「ないわーさすがにー」空音もバンっと浜辺さんの机を蹴った。
「じゃー浜辺様ー」ずっと影でこそこそ笑っていた真梨香もため息をついた。「そーんなに鏡の国が本当だと思うならさ、やってみれば?えへっ」
「天才じゃねーかよ、真梨香ー」彩夏はこくこくうなずいた。「わかったね、浜辺さん?鏡の国がそんなに大好きなら、鏡の国に引っ越しでもすればー?うは、うははっ!」
浜辺さんは立ち上がり、教室から駆け出した。机には夏の夕日を反射させた涙が残っていた。
次の朝は、いつもと同じだった。空音、彩夏、そして真梨香は浜辺さんの机を囲むように話していた。「ねぇ、あいつ本当に来ると思う?」彩夏があくびを堪えながら言った。
「えっ、さや本当に信じてた系?」
「なわかけないでしょ、」彩夏は舌打ちをした。「普通に、うちらが問い詰めてたからさぁ」
「あーね、ほとんどさやと空だったけどねー」真梨香はクスクス笑った。
「え、さすがにひどくないかー真梨香様ー?」空音も笑い始めた。
「あの、ここ、」
「わー浜辺さんじゃーん、鏡の国のお嬢様!で、どうだった?ないでしょ、あるわけないじゃん、あんな馬鹿げた話。」
「ううん。」浜辺さんはニヤッと笑った。
「なんだって?」真梨香は浜辺さんを睨んだ。
「あったよ。私は逃げたけどね。鏡がたくさんあって、そして、鏡の私は泣きそうな顔で私を見てきた。かわいそうに、つらいんでしょうね、ここの世界。」浜辺さんはうつむきながら囁いた。
「ここの世界?は?なに言ってんの、鏡の王国でしょ相手がいたのは。うふ、あの話怖いというよりおもしれーわ」空音はため息をついた。
「それな、それな!」真梨香もこくこくうなずいた。そして、ずっとぼうっとしていた彩夏を揺さぶった。「おーいさや様ー生きてますかー?」
「違う、違う、ごめんなさい、違うの。ごめなさいっ」彩夏は急に呪いをかけられたようにクラスメートを押し寄せ、教室から逃げるように走った。
「あの子どうしたの?」空音はギョッとしたような表情をした。浜辺さんは彩夏を追いかけはじめた。
「面白そうなことになりそうねっ」真梨香と空音も二人の背中を追いかけるように、女子トイレに駆け込んだ。そこには衝撃的な光景があった。
「鏡の国に連れて行ってください。お願いします。どうか、お許しくださいっ」涙をぼろぼろ流している彩夏、そして、それを満足そうに眺めている浜辺さん。
鏡から出てきた。手が。彩夏はその場に凍り付き、顔が死んだように動かない。手は彩夏の首を掴み、鏡の中に引っ張り込む。それと同時に足、体、まったく同じ姿の彩夏が出てくる。
「え?は?何?」真梨香も足が動けず、震え始める。じょじょに体が吸い込まれる彩夏の声が聞こえる。
「もうこの人は鏡の浜辺さんなのよ。入ってきたときから歩き方が少し違った。あと、髪の毛の結び方も。鏡はすべてを真似できないもの。きっと、昨日の夜、浜辺さんは本気で逃げたいと思ったのね。うちらのせいで、あの子の高校生活が、青春が、うちらのせいで、、、う、」そしてついに、彩夏は完全に入れ替わっていた。空音は足が震えていたが、凍り付いていた真梨香を置いていき、女子トイレから逃げ出し、教室に駆け込んだ。ホームルームはもうはじまろうとしていた。そして、空音も倒れこんでしまった。
目の中が悪意でこもっている、にやにや笑っていた浜辺さん、彩夏、そして真梨香がすでに空音を教室で待っていたのだ。すでに、机に座っていたのだ。