表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/27

★書籍化記念SS 第三弾 レシュマと初めての魔法 


【 前向き令嬢と二度目の恋 ~『醜い嫉妬はするな』と言ったクズ婚約者とさよならして、ハイスペ魔法使いとしあわせになります!~】


発売日まで、あと約二週間!

今回のSSは、基本に戻って(?)レシュマちゃんです!




 ずいぶんと幼い時に読んだ童話。

 わたしが心惹かれたのは、ある童話の中の魔法使いのおばあさん。

 虐げられた可哀そうな女の子。ぼろぼろの服で、灰をかぶって。

 でも魔法使いのおばあさんが、女の子に魔法をかけて、それで女の子は王子様としあわせになる。

 正直に言うと、最初は、わたしもね、魔法をかけてもらって。きれいになって、王子様と結ばれたいなーなんて思ったりもしていた。

 でも、そんな夢は、お母様に連れて行かれたお茶会で、無残にも消え去った。

 だって、そこには。

 魔法なんかかけてもらわなくても、すっごくきれいな女の子たちがたくさんいたから。

 艶々サラサラの黒髪の子。

 真っ赤な赤い髪を緩やかに巻いている髪型の女の子。

 髪の色が派手で目立つだけじゃなくて、立ち居振る舞いも優雅。

 もしもわたしが、魔法使いのおばあさんに魔法をかけてもらって、きれいになったとしても。

 魔法なんてかけてもらっていない、今目の前にいる女の子たちのほうが、ずっときれい。

 魔法があったって、きっとわたし、王子様になんて見染めてもらえない。

 目立った特徴もない、平凡なわたし。

 それに……童話の中の心優しい女の子は、継母とか意地悪な義理の姉とかから、虐げられていても、美しい心を無くさなかったから魔法使いのおばあさんが来てくれたんでしょう?

 わたしの家族は仲良しだ。

 ルーク兄様は、わたしをからかったりはするけど、理不尽な苛めとかはしない。

 もちろん、いじめとかなんて嫌だ。

 家族は仲良しのほうがいい。

 だけど……だったら、わたしのところには、魔法使いのおばあさんは来ない。

 うん、でも。よくよく考えたら。

 わたし、魔法にかけられて、王子様としあわせになるよりも。

 わたしが、魔法使いのおばあさんになって、女の子をしあわせにするほうがいい。

 だって、魔法ってすごい。

 ガラスの靴を作ることも。

 カボチャで馬車を作ることも。

 なんだってできる。

 だから、わたし、お父様にお願いした。


「お父様、わたし、魔法を習いたいです」

 そう言ったら、お父様はよく効くけど苦い薬を飲んだみたいな顔で言った。

「……ま、まあ、初級魔法の家庭教師くらいなら……。予算は……。ああ、雇えないことも……ないが……」

 そうして、来てくれたのは、三十歳前くらいの優しそうな女の先生。

 魔法学校を卒業した後、認定魔法使いの試験を何度も受けたんだけど、合格できないままで。認定魔法使いになることはあきらめたけど、家庭教師として、初級魔法を教えているんだって。

「ではまず、魔法操作の基本的なやり方や風の操作などを教えましょうか」

 魔法の基本。

 どうやって、操作するか。

 風を起こすというのはどういういうことか。

「気圧ってわかりますか? 気圧の高いほうから低いほうへ、空気が押し出されて動くことにより風は吹きます」

 んーんと? 気圧?

 知ったかぶりしないで、わかったふりをしないで、わたしはちゃんと聞いた。

「では、春や夏の温かい空気を想像して下さい。温められた空気は膨らみます」

「えっと、あったかいと膨らむ」

「はい、逆に、冬。冷たい空気はどうなると思いますか?」

「あったかいのと反対だから、縮むのかな?」

「そうです。正解っ! 温かかったり冷たかったりする、つまり温度の違いによって、大気が移動するんです」

 あったかいのと冷たいのがある……。

 で、移動する……。

「あの、先生。例えば、水を入れたお鍋を、火にかけると、湯気は上に行く……と言う感じですか?」

「そうです。レシュマ様は理解が早いですね。冷たい空気も温められると上に行きます」

「じゃあ、上に行った空気が冷えると……、また、下に行く?」

「すばらしいっ! その通りです」

 先生は、ほめながら教えてくれるから。わたし、気分を良くしてどんどんいろんなことをおぼえていった。

「それで、ですね。その空気の移動を、自分の魔力で意図的に発生させるんです」

「たとえば右手の周りの空気をあっためて、左手の周りの空気を冷やして。それで、空気が動くのを……わたしが、凝縮して、方向をこっちだよって示せば……」

「風を吹かせることが可能ですね」

「わあ……」

 すぐにわたしはやってみた。

 教えてもらった通りに、風が発生すると思ったのに。

 最初は上手くいかなかった。

「あれ……?」

「レシュマ様。空気の移動だけではなく、体積や密度も考えてみてください」

「体積……?」

 なんだろう?

「空気が冷やされると、縮んで重くなるんです。逆に温められると膨張して軽くなる」

「あ、軽いから、あったかい空気は上に行く……」

「そうです。その通りですっ!」

 先生の授業はすごくわかりやすくて。

 わたしは、リボンとか、軽いものなら、すぐに魔法で操れるようになった。

「レシュマ様は、魔法の筋がよろしいですねえ」

 お世辞かもしれないけど、ほめてくれて。

 わたし、いつか魔法使いになれたらいいなーって。本気で思うようになったの。

 まさか、認定魔法使いにまでなることができて。

 しかも、将来の旦那様まで魔法使いだとは。

 予想すらできなかった、幼いころの、わたしの話。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ