青い陽射し
彼が僕のためにスイスのチーズサンドとコーヒーを頼んでいるあいだに、僕は頭の中を整理しようと考えたんだ。
彼は優しくて、とてもいい人だけど、僕は今日、彼にあったとき彼がいつもと違うことに気がついたんだ。彼は、優しいから僕ぐらいの洞察力があるとすぐにわかってしまう。それが彼の弱点。かなり致命的だ。
第一に気がついたのは、彼が僕を殺そうとしていること。僕、昔からかんがいいってよく褒められたけど、あんまり気がついてうれしいもんじゃないな。
でも僕を殺そうとしているのは、少なくとも彼自身の意思じゃない。彼のいる組織のもっと上の人物からの指示である、ということ。
第二に、その人物は彼に依頼したんだろうな。殺すということいがいに、僕のにぎる秘密を聞き出してこいと。
第三、彼にこの意思があってよかった。長年連れ添ってきた相棒に迷いもなく殺られるなんて、僕すごく悲しくなっちまう。たぶん、これが僕の弱点。感情がゆれやすい体質なんだ。すぐ泣く。
彼は、僕のことを殺したくないと思ってる。
これは、ちょっと……いや、おおいにやっかいだ。僕は、選択しなくてはならない。つまり、生きるか死ぬかをだ。
僕のにぎった秘密というのは、僕の命を捨ててでも守らなきゃいけないしろものなんだよ。もし、今しゃべったとして、その場をのがれることはできても、僕は次の日の朝を迎えられるかどうかそうとう怪しい。彼が死ぬか、僕が死ぬか。または、もうひとつ。まだ選択肢は残っているんだが、これは選択というよりもむしろ、奇跡にちがいないだろうな。
きっと、僕の信じる神様は、いや、神様ってのは信じるもんじゃなくて感謝するもんなんだけど、どうしても僕の職業柄、祈りや願いがさきをついてでてしまうんだ。とにかく、神様はチャンスをくれるに違いない。けれどそのチャンスというのは、僕が、僕であるための条件を満たさなきゃいけない。でも今の僕にはその条件を満たすことは不可能に近いだろうな。可能性はいちパーセントもいかないだろう。
いま彼は、僕の目の前で。ゆったりと腰を椅子に落ち着けて、左手をポケットにつっこんだ。右の手には、すでに短くなったたばこが、人さしゆびとなかゆびの間におさまっている。
僕はゆっくりと目をとじた。
ウェイトレスがカウンターを通って、僕のチーズサンドとコーヒーをもち、腰を左右にふりながら女性どくとくのうごきで近づいてくるのがわかる。僕のズボンのポケットには、おそらく彼も所持しているであろう、S&Wが。
僕はふいに彼を見て、それからガラスの向うの路上、人ごみに目をむけ、それからまた、彼に目を戻した。彼はすでに僕の視線には気がついていて、僕をじっとみつめている。僕も彼の目をのぞきこむ。
異国の血が入った、色素の薄い彼の目がみえた。
彼の目からみえている僕もおなじだ。
僕は彼にむかってわらってみせた。
彼は僕に笑い返したんだとおもう。たばこでつかんだ手でかくれて、笑ったはずの彼の口の形がよくみえなかった。たぶん笑ったんだ。だって目が少し、人が笑うときに細くなるように彼の目が少し、細くなって眉が上にあがったようにみえたから。
それから僕は、今さっきウェイトレスがもってきた皿の上のチーズサンドに手をつけた。






