死体送り人
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
雰囲気が異世界です。
死人に寄り添う戦士たちの物語。
「よく……よく頑張った……。もう良いんだ。頑張らなくて」
彼女はそう言って、ぼろぼろになった人間の体を自らの胸に抱き寄せた。
彼女は死体送り人だった。戦いの後、もし仮に彼女が“生き残ってしまった”ら、彼女が死にかけの人間を抱き締めて、あの世に送る。もうろくに動かず、冷たくなりゆく体を、自らの体温を分け与え、そっと今生を尊ぶ。それこそが戦士に課せられた唯一の温情てあるかのように。
「せんせ……」
「うん? どうした?」
「手を……」
欠損塗れな指が這うように彼女の体を撫でる。手を握って欲しいのだと、抱き締めてなくても分かった。彼女は左腕で戦士の体を落とさない様にしっかりと抱えると、彼女自身も傷付いた手で戦士の手を握り締めた。僅かな……時間だった。けれどもその様は永遠を感じさせる程、完成された構図だった。
「さぁ。帰ろう、私達の家に」
彼が亡くなった後、彼女は戦士の背と膝に腕を入れて、ゆっくりと立ち上がった。所謂お姫様抱っこの状態。そうして俺の顔を見て、ゆっくり頷いた。慈悲に溢れた顔の真下に、深淵の様な深い悲しみがあった。
「君、なんで態々戦士と言う役職に、『死体送り人』という立場を付けるか知ってるか?」
「……知りません」
知らないし、知りたくもない……。彼女の背中を見て何時も思う。どうしようもなく救えない理由があると分かっているから、あえて知ろうとしなかった。
彼女はその様を見て、特段怒る様な真似もせず、ただ静かに笑った。
「歴戦の戦士だって、死ぬ時は怖いんだ。あれだけ沢山の命を奪っておいて、何を言うんだって言うかも知れないが、本当に、死ぬのは怖いもんだよ」
そう言って、抱えた戦士の体を左右に譲った。揺籃に乗った赤子をあやす様に。そうして冷たくなった体にそっと顔を寄せた。ただ自らの温もりを渡す聖母のように。
「だから誰かが寄り添って、その怖さを半分肩代わりするんだ。そうして例え魂が無くなったとしても、亡骸は家に還すんだ。だってお前達の家は此処じゃないから。誰にだって帰る権利はあるんだ。私の後継、言ってる事が分からないかも知れない。でももしもお前がこの立場になったら、同じ事を思うようになるよ」
彼女はその後、何も話さなかった。ただ胸に寄せた空っぽな器を、ただ大切そうに持ち帰った。
ずっと前から浮かんでいた話です。
死にゆく人に寄り添って、魂をあの世に送る人間の話。
出来れば長編で書きたかったのですが、後回しにしそうなので、こうなってます。
最近バトルシーン書いてないので、かなり錆びてます。
だからお蔵入りは決定な気が。
この立場上、死体臭いから近寄るなとか、そんなもの捨てておけとか言う人は多分必ずいると思います。
その上死んでゆく人間を看取るのって精神的にしんどいので、極わずかしかいないんだろうなと。
伽藍堂な器でも、帰る権利がある。
そんな思いで書きました。