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三十三、プロポーズ大作戦


「クインを王配にって、本気ですかアレックス様!」


 ぽかんと口を開けたままの辺境伯とクインに代わって、アレックスとクインの間に割り込んだのはフィンリーだった。


「え? うん、本気だけど?」


 『王女』だったと公表してからもアレックスは今まで通り男装を続けており、そのままでは男性同士のプロポーズシーンだ。


(なるほど、私が侍従やってた時も周りからはこんな感じに見えていたわけね。これは確かにそっち方面好きなお姉さま方が騒ぐわけだわ……じゃなくて!)


「本気だけど? じゃないですよ! クインは、シンクレア家の嫡男ですよ⁉ アレックス様にあげるわけにはいきません! ねえ、お父様?」


 フィンリーはクインの腕をアレックスから奪い返し、しっかりとクインを抱きしめる。


「あ、ああ……そうだな。アレクサンドラ様、フィンリーの言う通り、クインはうちの嫡男です。身体面の不安がありましたが、こちらに来てから見違えるほどに体調もよくなったようだ。これなら辺境伯の後を継ぐのにも問題ないでしょう」


 しかし、アレックスは引き下がらなかった。


「だったら、王配にしても問題はないってことだよね? クインの有能さはすでに証明されているし、帝国との交渉だってクインからの助言がなければ成しえなかった。身分だって辺境伯の子息とあれば不足はないしね。


 だけど、そういうもの全部取っ払ったとして……。うん、何より私自身がクインを、好ましく思っている。王配、としてではなく単にこの私、アレクサンドラの伴侶としても。この先、私の隣にいるのはクインがいい」


 アレックスはじっとクインを見つめた。

 いつもの、どこか軽い調子ではなく、真摯なまなざしで。

 いつか、アレックスはイザベラの前で


 「だってこれは『運命』だからね。僕は出会ってしまったんだよ、愛しい恋人……フィンリーに」


などと言ったことがあったが。あの時の浮ついた嘘っぽさは、今のアレックスの言葉にはなかった、と思う。

 いつだって、アレックスは何かを『演じて』来て、侍従として傍にいた頃のフィンリーはアレックスの真意が見えないと思ってきた。『運命だ』なんていう言葉にもまったくそういう色がなかった。


 でも。

 今の彼女のクインへの言葉は本物だと……本当の、アレックスの心からの言葉だと分かってしまうから余計に、クインを奪われてしまいそうで怖いのだ。

 現に。フィンリーが抱きしめているクインの瞳がアレックスの言葉に揺れたのを、フィンリーは見逃さなかった。


「で、でも……っ! クインは、アレックス様よりも年下ですよ! 成人だってまだ」


 クインを取られまいとフィンリーは言い募るが、アレックスもまた引かなかった。


「二つくらいの年の差、別に何の問題もないよ? 正式な婚姻はクインの成人を待つし。とりあえずは婚約だけでも」


「だけど! クインは! 私と、これからもずっと一緒に……っ!」


 涙まであふれてきそうになるフィンリーの頭を、父親の辺境伯がぽん、と撫でた。


「フィンリー、まずはクインの気持ちを聞いてみよう。これはお前にじゃなく、クインへの申し込みだからね」


 そう言われてそっとクインから引き離されたフィンリーは俯いてしまう。


(……これじゃ私が、『王太子殿下の運命の愛を邪魔する悪役令嬢』側じゃない。

でも、でもでもクインは……っ)


 大切な半身。

 かけがえのない存在。

 前々……前世からの『呪い』に怯え、男装してその運命と抗うと言い出したフィンリーの途方もない話を信じてくれて、協力してくれて。

 いつだってクインはフィンリーの支えだった。クインのためなら、絶対に来たくないと思っていた王都にも来られるほど。

 思いもよらない騒動に巻き込まれ、一体どうなるのかと思ったけれど……それも何とか片付き、これからは一緒にアルデバラに帰って、この先もずっと一緒にいられると思っていたのに。


「クイン。アレクサンドラ様からのお申し出を、お前はどう思う?」


 辺境伯の問いに、クインは表情を引き締め……そして、アレックスに向き直った。


「まずは、アレックス様のお申し出、身に余る光栄に存じます。まさか僕が王配に望まれるとは思ってもみませんでした」


 そこで言葉を切って、クインはくすりと笑った。


「王配としてではなく、とのお言葉もいただきましたので、僕もただのクイン・シンクレアとしてアレクサンドラ様への気持ちをお伝えしてもよろしいでしょうか?」


 フィンリーは。

 クインが……王都に来るまで常に共に在った『兄』が、こんな真剣な男性の瞳をしているのを、初めて見た。


「うん。余計なものを取っ払ったクインから、私への気持ちが聞きたい」


 アレックスもまた熱の籠もった眼差しでクインを見つめている。


「僕は、あなたをお慕いしています。体が弱く、フィンリーにとってもシンクレア家にとっても厄介者でしかないと思っていた僕にあなたは、自信をくださった。僕は僕でいいと、こんな僕が必要なのだとあなたはおっしゃってくださった。

そんなあなたの隣にこの先も在って、あなたと共に歩むことが……僕の幸せなのだと、思うのです」


 クインはそう言い切って少し照れたように微笑む。

 そんなクインを、アレックスが思い切り抱きしめた。


「ありがとう! とても嬉しいよ、クイン!

それにね、これを見て」


 アレックスはおもむろに胸までの釦を外していく。そこに現れたのは、『王妃の首飾り』。そして、中央のヴェルライトは婚約式で見た時よりも鮮やかな色になっていた。


「アレックス様、その首飾り……石の色が違う?」


 フィンリーの問いかけに、アレックスは嬉しそうに頷いた。


「そうなんだ。私も最近気づいたのだけれどね。このこ、クインが傍にいる時ほんのり温かくて……色が、変わるんだ。他の男性が傍にいてもこんな風にはならないんだけどね。

女王の伴侶まで選ぶとは聞いていないけれど、きっと……この石も、クインを私の伴侶だと認めているんだと思う」


 晴れやかで……そして、どこか恥じらうような、それは明らかな女性の表情。そんなアレックスの表情は初めて見る。

 悔しいけれど、二人が想い合っているというのなら……しかも『王妃の首飾り』まで二人を認めているというのなら、これ以上フィンリーの出る幕はない。


 でも。一つだけフィンリーはクインに言っておきたいことがあった。


「クイン……っ! 私、クインのこと厄介者だなんて思ったこと一度もないよ……?」


「そうだぞ、クイン。正直な気持ちを言えば私だってお前を王家にはやりたくない……。体が弱くても、私の後を継ぐのはお前だと思っていたからな」


 泣きながら言うフィンリーと、苦々しい顔をする父親の顔を見てクインは苦笑した。


「うん、僕が勝手に僻んでそう思っていただけ。みんな僕のことを大切にしてくれていたのは分かっているけれど、それに応えられない自分が不甲斐なくてね。王都に来て、アレックス様にお仕えして……やっと、自分の力で生きているって思えるようになったんだ。そう思えたら体がすぅっと軽くなってね。自由に呼吸が出来た。それは、アレックス様の傍だったからだと思うんだよ」


 だから、とクインは言ってフィンリーと父に頭を下げた。


「辺境伯家を出て、王家に……アレクサンドラ様の伴侶となること、どうかお許しください」


 そこまで言われてしまっては。

 辺境伯はフィンリーを宥めるように肩を抱き、そしてクインもそっと抱き寄せた。


「承知した。これからこの国を立て直されるアレクサンドラ様をよく(たす)け、支え合い、よき伴侶でありなさい。

アレクサンドラ様、息子をどうぞよろしくお願いいたします」


 辺境伯の差し出した手を、アレックスはしっかりと握り返す。

 ここに、次期女王アレクサンドラと辺境伯子息、クイン・シンクレアの婚約は成った。


「うぅ……アレックス様、ひどい……私のクインを……! だいたい、クインが王家にお婿にいっちゃうならうちは、シンクレア家はどうするんですか……っ」


 満足げに微笑んだアレックスは、恨めしそうなフィンリーに向かってあっけらかんと言った。


「君がいるじゃないか、フィンリー。君が次代の辺境女伯になればいい」


 は? とフィンリーの目が点になった。


「私、が?」


「私だって女王として即位するんだ。この国は女子にも爵位の継承権を認めているはずだね? 辺境伯」


 アレックスの問いに辺境伯は頷いた。


「確かに、継承権は男女共にありますな」


「いえ、でもだからって!」


 焦るフィンリーに、アレックスは言った。


「君は幼い頃から辺境伯を見て回り、兵たちとの訓練にまで参加していたんだろう? ヴェルライト鉱山のことも詳しいし、これから父君についてしっかり学べば、君は立派な辺境女伯になると思うよ」


 そして、クインも。


「うん、フィンリーなら大丈夫。領民たちにも慕われているし、反対する人なんていないよ」


 でもそれは。クインがいてくれたから。クインが頭を働かせる分、自分は領内を駆け回っていただけで。父のように、立派に辺境伯を治めることが自分にはとても不可能に思えた。


「ただ、そうするとフィンリーにも早く伴侶を見つけた方がいいかもしれないね。私がクインとの婚約を発表すれば、君は王配の妹ということで注目されるだろうし、必然的に次期辺境伯も君だと皆推察するだろう。嫡子でない貴族の次男・三男あたりこぞって君に求婚しそうだよねぇ。どうする? シンクレア卿?」


 アレックスに問われた辺境伯は、むすっとした顔になる。


「それこそ、生半可な男を婿に認めるわけにはいきませんな。少なくとも私を負かすくらいの男でなければ」


(そんな男の人、いないのでは)


 フィンリーも、クインもアレックスも同時にそう思った。

 辺境伯リカルド・シンクレアに勝てる若者など、滅多には――。



「それでは! 俺が立候補させていただきたい!」


 その言葉とともに女王執務室の扉が大きく開いた。

 執務室に入って来た人物を見てフィンリーは目を瞠った。


 

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本編残り1話の予定です。どうぞ最後までよろしくお願いします。

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