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序、逆ざまぁヒロインはもううんざりです

次回から本編のスタートです。よろしくお願いいたします。


「ハリエット・ドブルーク公爵令嬢! 

今をもって貴女と私、すなわちエルランド王国王太子との婚約を破棄させていただく!

理由は貴女も分かっているだろう。貴女とその取り巻きたちがここにいるレイラ・アシュレイ男爵令嬢をよってたかって侮辱し、虐げたためである。

弱き者を虐げるような女性は未来の王妃には相応しくない」


 ストロベリーブロンドのふわふわの髪を頼りなげに揺らして王太子に縋り付く可憐な少女を、王太子は愛しげに抱き寄せる。


「そして私は、このレイラを新しい婚約者とする!」


 白けた空気がパーティー会場に流れていることに、弱きを助け強きを挫くヒーロー気取りの王太子は全く気付いていなかった。

 このような場で一方的に婚約破棄を言い渡す行為が、為政者として褒められたことではないことに。

 王太子の傲慢さと愚かさを次代の臣下である貴族令息・令嬢たちに見せつけているだけにすぎないことを。

 同情的な視線は、婚約破棄を言い渡された令嬢へと集まっていた。美しく誇り高い彼女は瑕疵一つなく、次代の王妃に最も相応しい令嬢として周囲も認めていたからだ。

 たかが男爵令嬢が取って代われるものではない。

 貴族社会の序列とルールを、この国の頂点に立とうという王太子が無視しようとしているのだから、反感を買うことは必至。

 けれど『運命の愛』とやらに目覚めたという王太子は、そんな当然のことも分かってはいなかった。


 

 ハリエット・ドブルーク公爵令嬢がため息混じりに扇を閉じる音が響く。

 この断罪劇があっさりと逆転することを。

 高揚し有頂天になっている王太子はまだ、知る由もない。



*†*†*



 ああ。

 まただわ。

 今回も回避出来なかった。


 ドヤ顔で高らかに宣言する王太子殿下の横顔を見ながら私は、内心膝をついて泣き叫びたい気持ちでいっぱいになっていた。

 

「レイラ、震えているのかい? 大丈夫だよ、私が君を護るからね」


 優しく囁きながら私の腰を抱く王太子の手に力がこもる。

 ……が、私は今すぐここから逃げ出したいだけなのだ。

 護ってくれなどと一言も言っていない。

 そもそも、私を虐めたなどとされ婚約破棄を言い渡された令嬢たちからだって、私は何もされていない。

 王太子とその側近が勝手に勘違いして正義感を振りかざし、婚約当初から気の合わなかった令嬢との婚約破棄のいい口実にされただけだと思っている。


 いや、本当に何もされていません私。

 彼女たちはたかが男爵令嬢にすぎない私に関心はなかったし、わざわざ自分の手を汚して虐めるなんてことを考えるほど愚かでもない。

 何度王太子たちにそう訴えても、「虐めた相手を庇うなんて、なんて心の清らかな乙女なんだ!」と感動され、取り合ってもらえなかった。


『君と出会ったのは運命なんだ! 私の妃になるのは君しかいない! 運命なんだこれはもう!』


 感極まったように王太子は運命運命連呼していたけれど、いやいやいや、感じてませんし私、あなたとの運命なんて。

 こうして断罪される運命を回避しようとして、王太子や高位貴族の令息には近付かないようにと、本当に気をつけて逃げていたのに。


 なぜか……本当になぜか、強制力のようなものが働いていつの間にか私は身分の高い男性を引き寄せてしまうのだ。

 

 私には分かっている。

 このお粗末な婚約破棄の断罪劇の後に待っているのが『逆ざまぁ』であることを。

 そして私は、王太子たちを誘惑し罪をでっち上げたとして社交界から追放、よくて修道院悪くて娼館に送られ、最悪の場合処刑される運命にあることを。


 だってもう、これ五回目ですからね!

 婚約破棄の断罪劇に巻き込まれて逆ざまぁされるの!

 前世の記憶を持ったまま何度生まれ変わっても、結局私は王子やら公爵やら騎士団長の息子やらに愛されて、婚約者との婚約を破棄してでも私と結婚したいと言われ、最終的にはこうして逆ざまぁされるのだ。


 え、つらい。


 私は今世での自分の容姿を思い浮かべる。

 ふわふわのストロベリーブロンドの髪。

 少し垂れ目がちな翡翠色の瞳。

 全体的に細身ながら出るところはちゃんと出ている理想的な体型。

 聞く人を魅了せずにはいられない愛らしい声。


 いわゆる『ヒロイン』なんだと思う、私は。そう、生まれ変わるたびに同じような容姿に生まれつき、同じ運命を辿るヒロイン。

 決して幸せにはなれないのに、『ヒロイン』としての容姿と運命だけ与えられて。どれほど抗って回避しようとしてもここに行き着く。


 もううんざりだ。

 私は小さく首を振り、公爵令嬢から逆に数々の罪を告発されて青ざめ始めた王太子からそっと距離を取る。

 逃げるなら、今しかない。


 あらかじめ用意しておいた薬を私は懐から取り出すと、それを一気に呷った。


「レイラ⁉ レイラ、どうしたんだ、レイラ――っ!」


 私が倒れたことで取り乱す王太子の声を聴きながら。


 どうか来世こそふわふわピンク髪愛され逆ざまぁヒロインには生れつきませんようにとひたすらに祈って意識を手放した。




 


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