第1話
どうぞよろしくお願いいたします。
「いままでずっと『呪われた子』だった…」
パホラの母は、村長の娘だった。
富農の村長は村一番の美しい女を妻とし、パホラの母が生まれた。
ルミといった。
目に入れても痛くない!
その言葉通りに愛されて育ったルミは、娘盛りのある日、裏山に女ともだちと山菜狩りに出かけた。
ところが、夜になっても娘たちは帰ってこない。
心配した村長は家人の男たちと、剣と弓矢を持って裏山に向かった。
すると、棍棒で殴り殺された娘の女ともだちが見つかった。
しかし、ルミは見つからず、半狂乱となった村長は裏山を徹夜で探し回り、その次の日も探し回ったが、娘は見つからなかった。
自分の力で何ともできないと知った彼は、その後、町の冒険者ギルドで、探索者を雇い、娘を探させることにした。
探索は難航し、1カ月、2カ月、と時が過ぎていった。
「殺されたのだろう。そもそも体の弱いルミは、もう生きていまい…」
人々が諦めの吐息とともに、そんな噂をした。
しかし村長は諦めなかった。
冒険者を雇い続けるには金が掛かったが、それでも彼は探索を続けさせた。
そして半年が過ぎたころになって、探索者は、ようやくオーガの隠れ家に囚われていた彼女を見つけ出した。
隠れ家にいたオーガたちは、もちろんすべて虐殺された。
やせ細っていた彼女だが、不自然にお腹だけが大きくなっていた。
彼女は、オーガにレイプされ、妊娠していたのだ。
堕胎は間に合わなかった。
難産の末、彼女は娘を生んだ。
ハーフオーガの赤子を、村長は殺そうとしたが、ルミが反対した。
「この子に罪はないわ!」
信心深い彼女は、正しいことを行ないたい、と考えたのだった。
娘にアイノという名をつけ、可愛いがった。
すべてを愛していこう…
それは美しい…
…だから、きっと正しい。
彼女は、そう考えた。
しかし、それが本当に正しいことだったかは、わからない。
殺害されたアイノの友人の家族は、ルミのことを、恥知らずと呼んだ。
村の男たちは、ルミのことを、オーガの恋人と呼んだ。
針の山の上に立つような生活を3年間続けたルミは、性格がすっかり変わってしまった。
今では、アイノにツラく当たり散らして、それを『躾』といっていた。
アイノは耐え忍んだが、母をしばしば睨みつけた。
するとルミはアイノに、さらなる『躾』を行なうのだった。
まるでそれですべての罪から逃れられる、と考えているように…
精神を病んだルミは、3年たったある日、村から失踪した。
今度は村長も、探しはしなかった。
残されたアイノは、村長の家で下僕のように働かされた。
村長も、それを罪滅ぼしと考えているようだった。
村の子どもたちからはイジメられたが、彼女はそれを持ち前のハーフオーガとしての腕力でねじ伏せた。
そのたびに、村長は彼女に『躾』を与えるようになった。
「もっと人間らしくしろッ!」
そういわれるのだが、人間らしくしていたら、家の外では生きていけないのだ。
ハーフオーガの体は耐えることができるが、人間の心は蝕まれていった。
今では彼女のことをアイノと呼ぶものはなく、村人はあだ名のパホラ(悪魔)と呼んだ。
そして、ある夜のことだった。
村をオーガが襲い、すべてを焼き尽くし、女をレイプし、人々を虐殺した。
力の強いパホラは、生き残った。
他の生き残った村人は叫んだ。
「ルミが手引きしたのでは? いや! あのパホラこそが、一番あやしいではないか!」
パホラは、村から逃げ出した。
このままでは殺されてしまう、と思ったからだ。