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素直じゃないのがまわり道 6奴隷目

読んでくれてあざざます。

 ときは夕暮れ、すっかりプールもお開きだった。


 重たい頭をもたげながら、うだるような暑さの中。

 白いフリルのワンピースの良く似合う彼女、篠宮(しのみや) 翠果(すいか)を横に連れて帰りのバスへと続く道のりをゆく。


 スレンダーな体のラインを包む、白いベールは夏の涼しさにマッチして隣にいるだけで心地が良い。そんな印象を抱かせるくらいには、その出で立ちは様になっていた。


「……災難だったね」


「ああ……まったくだ」


 数時間前まで美少女から水着を剥ぎ取った疑いをかけられた小牧(こまき) あらた 容疑者(16歳)だったわけだが、彼女の証言により犯罪者御用達の事務室から開放されたおれは、身の潔白の代償に精神はもちろんその後にもプールで遊んだため肉体的にもクタクタになっていた。


「でもさぁ?結果楽しかったからよくな~い?」


「終わりよければすべて良しってのは、傍観者の特権だな。てか、公衆の面前で上半身全裸になって顔真っ赤になってたしおらしいお前はどこへ行ったんだ?」


「あ、あれは……ほらその。あらたのせいだし?」


「ここまで来ておれのせい? 勘弁してくれよ……」


 大勢の前で後手をとられ、連行されてゆくおれに向けられていた『変態』に対するゴミを見るような聴衆の視線が浮かばれない。おれちょう可愛そう。


「あ、あの…………その、ごめん。無理やり連れてきちゃって」


 あー、一応自覚はあったのね。


「まあ、別に怒ってないぞ。でもな、今度から行きたいなら行きたいって素直に言えよ」

「……無理、恥ずいし」

「今更なにが恥ずかしいんだか」


 何に対してだよ。てか別に恥ずかしくはないだろ?どうせおれもお前も学校のやつを誘えるほど寄る辺の少ない同じ孤独な人間なわけだし。


「いまさら恥ずかしがることもねーだろ?行きたいなら行きたいって素直に言えって」

「……ムリッ」


 また、水着を見せられたときと同じような頬を膨らませたムスっとした不機嫌顔を浮かべて見せた。


「なんかお前珍しく不機嫌だな、なんかあったのか」

「……別になんもないし」


 いや、絶対なんかあったんだろうな~。よくわからんけど。

 不本意にも不機嫌な顔も可愛いところが美人はズルい。

 綺麗な横顔を見ながらそんなことをつくづく思わされるおれなわけだけど。

 たまには、気の利いたこともってやるべきだったか。


 今となっては遅いかもしれないが、一応。


「あー、そのなんだ。……言いそびれたけど、楽しかったぞ。無理やり連れてこられたけど。お前とプール行くなら悪くない」


「……そぉ?」


「ああ。無理やり連れてこられたかいがあったと思えるくらいにはな」

「……もぉ~やめて。そういうの恥ずい」


 謎に、おれから顔を逸らして歩調を速めて前に出て顔をなかなかこちらに見せようとしないのは何なんだ?

 夕焼けのせいか、心なしか後ろから見た彼女の耳はちょっと赤い気もするが気のせいだろうか。


「あ、あのさ……今週の土曜日とか、あいてたり。する?」


 唐突にそう言いつつも、彼女の視線は未だ前を向いたまま。

 彼女がどんな表情をしているのかこちらからはうかがい知れない。

 だが、まあ。見てほしくないのだろう。……正直見たいな、絶対テレてるだろコイツ。


「ああ、空いてるぞ。土曜日」


 おれが、努めて冷静にそう告げると。分かりやすく彼女の小柄な肩がふっと安心したように一回揺れた。


「そっ。……空けといて?」


 半分だけ振り返って小首を傾げる彼女に、素直じゃないなーこいつ。とニヤケを必死に抑えながら返答する。


「分かった分かった」


 正直、「よく誘えたな。えらいえらい」っておちょくりたい気持ちでいっぱいなんだが。


「ねぇ……なに?なに笑ってんの、ねぇやめて」


 珍しく声を大きくして、こちらに向き直る彼女。



 なんだこのカワイイ生き物。



「いや、なんでもない。なんでもないってマジで」

「……もうしらなーい」


 ぷいっとそっぽを向いたものの先ほどまで見せていた不機嫌の影は吹っ飛んだように思えた。

 その様子にほっと溜息をつくと。ぐぅーっと腹の虫も元気に鳴きだしたようで。


「ちょっと遠回りして帰るか」


「……うん、私もおなかすいた」


「おごらないからな」

「やだ、おごってもらう」

「おちょくった腹いせかよ……」


 水を打ったように、おれの発したその一言が時を止めたような気がした。

 おれの前を歩いていた彼女が、はたと薄手の白いワンピースを黒い長髪とともに流麗に揺らして、 


「そうだよ?――――あらたの、バーカ」


 べぇっと無邪気に、かわいい舌を覗かせた。


 ぷいっとすぐに踵を返すと、後ろ手を組んで空を見上げる。

 そんな彼女の後姿、かすかに踊っている小さな肩。


 何やらいやに上機嫌で、今日だけ。今日くらいは。


「しゃーないなー。おごるよ」


「……やった♪」


 その言葉を待ちわびていたように、黄昏の夕日を連れて満開の笑顔をこちらに向けてくれた。

 今日くらい、彼女のわがままもまっすぐ受け止めていいのかもしれないと。


 そんな気まぐれに、身をやつした。

@tekitousyosetu←Twitterやってます。フォロバ100%なんでよかったらどぞ

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