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そうだ、プールに行こう 5奴隷目

読んでくれてありがとう、良い夏を。

 夏と言えばプール。

 プールと言えば夏。


 おれは、プールが嫌いだ。


 ということで、おれはどうやら演繹的に夏が嫌いということになるらしい。


 決してツンデレ的な文脈ではなく、ほんとに。マジで、プールは嫌いだ。


 泳げないわけではない。


 単純に、準備と移動。それに伴って掛かる経費が提供される娯楽と明らかに釣り合っていない。


 美女の水着が見られるからプールはいいって?


 ふざけんな。


 美女の隣には必ずと言ってよいほど、自分よりハイスペックで人生うまくいってそうなやつが付いているに決まっている。

 手に届くはずのないものを目の前に、自分の上位互換がそれを欲しいままにする姿を指をくわえて見ていられるほどおれはMじゃない。


 つまりは、まあ。


 プールには行かない。

 このひと夏のネガティブリストにこの一項だけは堅持する。


 そう心に決めた。


 一般男子高校生、小牧 新の決意を舐めてはならない。

 鋼をも断ち切る意志の固さ、これによっておれの夏休みは傷つかずに生きられる。


 おれの、おれだけの引きこもり生活のスタートだッ!


× × ×


 高い空、白い雲。


 夏の色の濃い、この空のもとふわりふわり舞う白いフリル。


 ちらりと見える健康的な肌色に、美しい曲線を描いてまとわりついてた。

 見るだけでわかるはりのあるその柔肌と、意外とある膨らみに意識というよりは本能的ななにかによっておれの視線は引き寄せられた。


 その下の線の細い体のラインに、薄っすらと浮かぶあばら骨は、なんだかエロい紐が垂れ下がっていて控えめにいって扇情的だった。


 細いウエストを下りると、これまた可愛らしいフリル。


 紐によって、布がくっついているようなデザインになっているそいつはもはや目にしていいのか迷うレベルに仕上がっていた。


 この夏にはこたえるだろうに、シミひとつないその白磁の肌はまさしくこの炎天の下、冷えた宝石のように輝いていた。


 こう見ると意外と女子女子した体のラインしてんだなぁ……。

 危ない危ない、あらぬ妄想に向かうところだったよ、ははは。


「どぉ?……似合う?」


「まあ、悪くはないんじゃないか」


「……それだけ?」


「で、それよりもだ。なんでなんだ」


「……なにが?」


「なんでおれはプールにいるんだ?」


「……」


「おかしいな、おれは博物館に向かっていたはずなんだが」


「まちがえたんじゃない?」


「……なぜかサイズぴったしの新品の水着がおれのカバンに入れられてたんだけどな。心当たりとかないか?」


「……ないない」


「いつの間にか財布の5000円がバス+プール利用のセットチケットと入れ替わっていたんだが心当たりとかないか?」


「……ないないないない」


「話変わるけど水着かわいいな、似合ってるぞ」


「ほ……ほんと? そ、そう。よかった、この日のために新しいの買ったんだよね〜」


「ほう、この日のために。まちがえてここに来ることを、予見して」


「まちがって、こころ挫けて。そうやって人は成長してゆくんだよ、あらた」


「話そらすな、心当たりしかないだろお前」


「………………………ふん、知らなーい」

「あ、おいまてって……はぁ、ったく」


 プイッとそっぽを向いて拗ねて浮き輪貸出コーナーへ一直線にあるいていってしまった。

 珍しく拗ねてるなあいつ。

 にしても向かうところ浮き輪貸出って、泳げないのに来たのかよ。

 何考えてんだか、もはやわかんかんねーなあいつ。


「ま、来ちまったもんはしゃーない。機嫌とりに飲み物でも買ってってやるか」


 おれは、彼女の白くて綺麗な背中を視界の端に捉えながらすぐ右の近場にあった売店に並んだ。


× × ×


 ナカジマズパーランド。


 遊園地と屋外プールを兼ね備えたこの施設は、ここらへんに住んでいる人なら大体知っている夏場にとりあえず行っときゃ大丈夫スポットの一つだ。


 絶叫マシンのオンパレードに観覧車、更には大規模な屋外プールに多種多様なウォータースライダー。


 更には波が押し寄せるアトラクション付きのプール。


 おれたちはいま、そこにいる。


 一番の人気を誇るその場所は文句なしの最高の場所といって良いだろう。


 ただひとつ、おれがプールがきらいなことを除けば。


「あらたー、私を波の中心まで押してってよ」

「押してくってお前な、あそこは深いぞ?」


 波のプール。

 どうやらこの場所は砂浜をモデルとしているらしく、プールの奥へと進んでゆくにつれ波は高く、そして水深は深くなってゆくのだ。


 扇状になっているそのプールの、一番手前の波の浅い場所で彼女は早速浮き輪に乗ってやる気満々だ。

 彼女の言われるがままに、身長160後半くらいのおれでも肩が水に浸かるくらいのところまではとりあえず来てみたが……


「もっと深いとこ連れてってよぉ〜。ほら、あっちとか楽しそうじゃ〜ん?」


 足こっちむけんな。

 そして浮き輪の上からおれの頭を足で撫でるな。

 色々と太もものつけ根とか際どすぎるぞお前。

 もはや色々見えてる。


 ええい、ままよ。こうなったら一番深いところまで行ってやらぁ。


「どうなっても知らんぞ〜」


 そう口にしつつおれは浮き輪についている取手に捕まりながら、人波をかき分けるようにしてバタ足で彼女の浮き輪を押した。


「やったぁ〜!はやーい」


 おれはパシャパシャと左右に動く彼女足の水しぶきを頭に受けながらさらに速度を上げる。

 人混みの波間、浮き輪に一人、美少女を乗せて押してゆく。


 すると、前方のほうから何やら得も言われぬざわめきが伝わってきた。

 ついに、来たのだろう。波が。


「……うわぉー、波すごーい♪」


 わーきゃーと悲鳴を上げる老若男女。

 その渦が徐々に徐々に、こちらに近づいてきて。

 おれはもう足がつかないくらいには深いところまで来てしまっている。


「あ、これ。まず――――――――――」


「ひにゃぁぁぁぁぁぁばばばばばば!?!?」


 捻り潰されたような悲鳴とともに、彼女の乗船していた船(レンタル浮き輪)はにべもなく沈没したのが水面に飲み込まれかけているおれの視界の端に写った。

 おれはあおられるようにして水中へと波に引き込まれた。

 なんとか水流の収まったのを見計らって、ザパッと水面から顔を出し、頭をふる。


「っぶねぇ。思ったより波でかいな、なぁ翠果……あれ」


 波の過ぎ去った、水面。

 おれが波にさらわれる直前まで浮いていた彼女はそこにはなく、浮き輪だけがプカプカとのんきに漂っていた。

 立ち泳ぎをしながら、なんの変哲もない彼女の乗っていないただの浮き輪を目にして。

 ここへ来る前の彼女の行動がフラッシュバックする。



 『にしても向かうところ浮き輪貸出って、泳げないのに来たのかよ。

 何考えてんだか、もはやわかんかんねーなあいつ」』


 足のつかない水深。浮き輪のないカナヅチ。

 ブワッと一気に冷や汗。

 はじき出されたようにして、おれは水中へと潜り込んだ。


(どこだ……くそっやっぱり浅瀬でゆったりしておくべきだった。なめてた、ここのプールを)


 波といえど、所詮はプール。そんなに遠くまでさらわれてはいないはずだ。


 そんなことを考えながら、目の前にいってはすぎるJKやらJDやらの尻や足には目もくれずにあたりを見渡して足と手を必死に動かして目を凝らした。


 すると、見覚えのある紐がほっそりとした整った足と共に、ビラビラとプールの壁のところに必死にしがみついているのが見えた。


(いたっ!はぁ……よかったよかった)


「ぶはぁ……びっくりさせんなよお前。まじで溺れたかと思っただろうが」


 水面に顔を出して、彼女に語りかけるも反応はない。

 

 とりあえず、無言の彼女を足のつくところくらいまでは手を引っ張っていってみても。

 なぜかおれの方を向こうとはしなかった。


「はぁ、災難だったな。泳げないのに、大丈夫だったか?」


 再度、語りかけた。

 それでも一向に反応はない。


 膝を折っているのか、首からしたをガックリと抱えるようにして項垂れている。


 そっぽを向いているから表情は伺いしれないがまさか。


「なんだ?お前まさか泣いてる?そんなに怖かったのか水が」


「……ち、ちがくて」


 顔真っ赤にしてて口元を水につけて隠した。

 濡れた髪は、どこか色っぽくてそれでも艶やかさを保ったその姿はどこか艶めかしい美しさをまとって、ゆっくりと振り向いた。



「じゃあなんでお前一向にこっち向かな…………あ」



 おれは気づいた。


 ない。おれが、最初に見た。



 あの紐の多いビキニがない。



「お、お前……一体どこに」



 無言で、シュビっと彼女は人差し指をおれの真後ろの方向へ向けた。

 それは、さっきおれが彼女を探すためにほっぽりだした浮き輪だった。


「……ん?」


 が、ただの浮き輪ではない。


 よく目をこらして見てみると、布のようなものが一つ垂れ下がっているではないか。

 谷型の凹みが2つ、デザインの洗練された紐のようなものがそれを支えるよに左右二本ずつついている。


 そう、水着である。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!どけぇぇぇぇぇぇ!」


 ひいては、彼女の名誉のため。

 おれは、全速力で泳いだ。


 人混みなど知る由もない。

 手と足と体幹と持ちうるすべてのパワーを使って推進力をただ前に。


 気がつけば、おれは浮き輪と、ヒラヒラと紐のついた水着を手に。


 振り返れば、モーセのような道が一本彼女の方に向かってできていた。


 周りを見れば、全力の「何だこいつ」の視線の乱射。


 左手に浮き輪、右手に女物の水着。


 そう、おれはこの日初めて――――――――



『監視員さん、この人です』どこからか、そんな声が聞こえた。



 遠くでは、水着の上が脱げて真っ赤になった顔を恥ずかしそうに覆う彼女。


 彼女の佇むプールの端っこ、その上にはニンマリとした笑みを浮かべた筋骨隆々ガチムチの監視員がサムズ・アップしていた。



「あ」



―――――――――おれは、初めて。『変態』その不名誉な称号を手にしたのであった。

 数々の作品の中からこの作品を読んでくれた方マジでありがとうございます。

 おれも美女とプール行きてぇ……。女子とプールとか小学生以来行ってねぇや。

 @tekitousyosetu←ツイッターもやっております。フォローしてくれたら嬉しいです。僕のような夏のぼっち学生とかマヂ人生終わってるんで仲良くしましょうや。

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