テストの終わりと、夏休みその始まり 4奴隷目
読んでくれてありがとうございます。超気が向いたらいいねとかそこらへんもらえると嬉しいっす。
「ふぅ……」
とある、名古屋。
いや、てか超名古屋。
おれは今、真っ昼間の名古屋のとあるファミレスで超一息ついている。
というのも、一学期期末テストがついに今日終わりを迎えたからだ。
テスト終わり半ドンで帰る際、ふらっと気づけば足取りは名古屋へ。
甲高い空に、じりじりと照り付ける陽ざしから逃げるようにして迷い込んだこのEenny'sとかいうファミレスも案外悪くない。
蒸し暑い7月某日のアスファルトにまみれた空気が嘘みたいだ。
がやがやと人の賑わうこのお昼時、忙しく動き回る店員さんにどこか遠巻きに聞こえてくるジャジーなBGM。その奥に擦れ合うかすかな食器たちの奏でる旋律。
氷の入ったコップの周りについた水滴、そいつを見ながらグイっと冷たい炭酸を一気に呷ってを喉に流し込んだ。
体中に染みわたるその全てが、一体となって、テストの終わりと夏の始まりを感じさせてくれる。
おれは、この感覚が嫌いじゃなかった。
加えて、このちょっぴりシャレオツな空間に漂う食欲を呼び起こす香り高いステーキの匂いやクリーミーなチーズの光淳な香薫がぎゅるるっと腹を――――――
「……は ら へ っ た」
腹をならしたのである。――――――――――そう。目の前の彼女、篠宮 翠果の腹にジャストミート。
「まて、耐えろ。粘れ……粘るんだ、ドリンクバーで」
学生の必殺、ドリンクバー絨毯爆撃(二発)によって滞在時間が30分を超えたあたりでついに彼女は限界を迎えたようだった。
うん、まあ気持ちは分かる。無駄に頭つかうテストが終わって、数週間の気だるい地獄から脱出できたのだ。
しかもこの暑い中、昼間にとぼとぼ歩き逃げ込んできたファミレスで腹が減らないわけがない。かくいうおれも腹が減っている。
が、しかし。
どうにもこうにも、金がない。(切実)
壱にも、弐にも、参にも。金、金、金。
今、おれには金がないのだ。
帰りの電車賃数百円を含め、おれの手元には1000円しかない。
……というのもまぁ、アニ〇イトで爆買いしたのが原因なのだが。
かさっと、足元に振れる青い袋たちが、手にできた喜びと共に浪費の後悔を同時に囁く奇妙な感覚がリフレイン。
もうちょっと抑えるべきだったな……いやでも無理でしょ?
限定とか特典とか言われたらおれの諭吉たちはいうコトを聞かない。我先にとレジへひとりでに歩いて行くのだ。おれはその介助をしただけ、つまりこれは自然の摂理、独立した個人(諭吉)への自由の尊重。致し方なしッ!
どうやらそれは彼女も同じようで、すっとテーブルの下に目をやると細くてきめ細かい翠果の肌色天国ナマ足、すべすべのふくらはぎと太ももが……じゃなくて、おれの足元の対面にも同じような大きさの真っ青な袋が二個置かれていた。
いや、もはやこいつの方が金ないだろ。おれの倍は買ってんだぞ?
「……あ、やばー。財布の野口が過疎ってる、2英世しかいない」
切れ長の瞳によく似合うどこか涼しい顔をして、右手で長い黒髪をくるくると弄びながら彼女は財布を確認してぽつりと漏らした。
いや、てか英世って単位なのかよ。
案の定、彼女も金欠らしかった。
この様子だとあと数十分粘ってから帰る感じかな~と、静かな予感をたぎらせ。空になったコップの水をつぎに行こうとすると。
すっとおれの顔の前へコップが差し出された。
「あらた。わたしの分も、よろ」
奴隷。つっても、自己主張もするし、それどころか反抗もするこの頃奴隷失格なおれにしては珍しく彼女の願いを快諾した。
「あいよ、ついでくる」
「あらたのオリジナルドリンクはなしで」
「……ちっ、バレたか」
これだから勘の鋭いJKは嫌いだよ。
「むっ……その顔。やろうとしてたな~?あらたの特性カルピス(意味深)とかわたしに飲ませる気だったでしょ~?」
「おいJK」
流石のおれでもそんな外道な行為はやらんだろうが。
「で、何飲むんだ?」
「カレー」
「肥満児か、お前は。カレーは飲むな食え」
「……わたしカレーよりもこのおいしそーな鴨肉のパワーサラダ?ってやつ食べたい。なんか強そうだし~、レベルアップできそう」
気が付けば、彼女はメニュー表に興味津々だった。
てか、なんだよパワーサラダって。パワーゲイザーでも撃てるようになるのかよ。
「そんなバカみたいな名前のメニューがあるわけ…………え、マジであるの?」
結局おれは、いつも彼女が飲んでいるアイスティー×オレンジの翠果特性ブレンドをドリンクバーで爆誕させて持っていったとさ。
× × ×
「ふぅ~……くったくった~」
鴨肉のパワーサラダをむしゃむしゃと頬張り完食して彼女は、店を出た後もどうやらご満悦な様子だった。
少し分けてもらったけど、めっちゃうまいのなパワーサラダ。
意外と肉ががっつり入ってて驚いた、一瞬で上腕二頭筋がパンプアップしそうなサラダだからネーミング的にも合点がいった。
「まあ、1500円もしたわけだが。電車賃が残っただけよかったな。ゼロになってたらどーしてたんだよ」
コイツのただいまの所持金【¥500】
いや、小学生かよ。
なんとか帰りの電車賃にはちょうど足りそうだが、流石に500円は心もとなさすぎる。まあ、千円しか持ってないおれが言うのもなんだけど。
「そのときは財布のあらたに奢ってもらう」
「千円しか持ってないぞ、おれ。……てか、おれは財布じゃないからな?」
「え――生地にファスナーついてるし……あらたってわたしの財布じゃなかったの?」
学ランの上下、特に下の股間のファスナーをじとっと見据えながら彼女はこてっと可愛く小首を傾げた。
「お前は生地にファスナーがついていればこの世のすべてを財布と見なすのか」
あいにくそこに金"は"入っていないんだよ、翠果。
「そうだよ~?つまり日本中のあらゆるものがわたしのお財布~」
「日本人一億総涙目だな」
財政破綻待ったなしだ。
そのうち「パンがなければ餓死すればいいじゃない」とか言って処刑されるだろうから放っておこう。
照り付ける陽ざしを避けるように、ビルの陰に入った。
信号を待つおれたちの距離は相も変わらずどこかちぐはぐで。
仲がいいんだか、悪いんだか。分からないような距離で黙ってただ並んでいた。
ぼんやりと待つ、信号のその先。
陽炎のたゆたうアスファルト、その先に行き交う日常。
おれたちも、この信号を渡ればきっと。
右手の信号が、黄色から赤へと順繰りにその色を変えた。
そろそろ進むころかな。とおれは彼女の様子を見やった。
綺麗な黒髪が、真っ白な夏服に映えていて。見ているだけで涼しくなるような美しさがそこにはあった。
「終わったな、テスト」
「……うん」
青に変わる信号、それを見て一緒に歩みを進めた。
横断歩道の中ほど。彼女は不意に空を見上げて、カラッとした空に……そしておれに、確かに呟いた。
「夏が鳴いてる~……始まるね、夏休み」
近くの公園だろうか、蝉の音がかすかに聞こえた。
ガスと瀝青、人工物にまみれた、こんなところにも夏の響きが強かに。
「ああ……『やがて死ぬ けしきは見えず 蝉の声』ってか?夏休みの合図だな」
「え、うま」
「……芭蕉の句だぞ?」
「パクリ乙 誠意が見えない あらた処す」
「……季語は何だ」
「処す?かな」
「死期は表さんでいい」
「はいは~い」
× × ×
駅構内、発車まで残り10分。
「喉乾いたー」
「お前なぁ、自分の所持金のことを考え――――」
ガコン。
「「あ」」
篠宮 翠果 所持金残り【¥440】
電車賃足りずッ!
「おい」
「は、はは……電車賃、ないなった♪」
きゃぴるんと珍しくてへぺろる翠果は懲りないというかなんというか。
「はぁ……貸すから、ほら」
「ありがとー。……お礼に一口あげる」
「……いらねーよ」
テストの終わり、夏休みの始まり。
いつの日か、懐かしいと思うその日まで。
この思い出を、大切に。
「名古屋はどえりゃあうみゃあ飯屋はあるけど、観光地ないでいかんわ~。東京のほうがいい?東京はまぁあかん。とろくせゃあこと言わんといて」←ここまで名古屋弁の人は実際現地にはおらん。
こう見ると名古屋弁っておもろいっすね。それに、気づかないうちに名古屋弁は周辺地域にも浸透してる部分あると思うんですよね。(地元感)国際共通語《Lingua franca》名古屋弁になんねぇかな……そうなれば、名古屋弁の授業で偏差値70くらいにはなれるはずなんだけどな……。
@tekitousyosetu←フォローしてくれたら名古屋のスガ〇ヤラーメンのスープ水筒に入れて持ち運びます。