Prologue
人生において青春というものが、もう二度と来なくなったのでスーパーマーケットの地下一階で学校帰りの制服姿の青春まみれの空間の中、いかに自分の高校がクソだったのか思い出しながら書きました。……過去に戻りたい(´;ω;`)
小牧 新、17歳。
【普通】の高校生だ。
「あらた~……焼きそばポアン買ってこい」
ドカッと、おれの机の端にシューズが二足並んだ。しなやかに伸びるのその肢体は、スカートの先の絶対領域、そしてその先へ。
ふとそのおみ足の持ち主の方へ顔を上げる。
少し毛だるそうに伏せられた切れ長の瞳。近づくのを躊躇うほどに恐ろしく整った目鼻立ち。透明感のある白磁の肌に、長い濡羽色の髪が良く映えた。
そんな奴がえらそーにその小さな頬に頬杖をつきながら、こちらを見下ろしている否、見下している。
そのくせ、おれより頭一つ半は確実に低いかなりの小柄だ。だからか、余計に腹が立つ。
なんていうか、もう。一言でまとめれば、そう。
とんでもねぇ美少女だった。
「はぁ。またか……。なんだよポアンって」
「パンだアホ」
「へいへいお嬢様。しばしまたれい」
「たっしゃで」
さて、ここらで修正しよう……"美少女に奴隷として飼いならされている"【普通】の高校生ですけど、なにか?
× × ×
まさか、昼放課にまで「奴隷活動」略して「奴活」に駆り出されるとは思わなんだ。
やれ彼氏がだのやれ先輩がだの青春の眩しい会話が飛び交う教室の中でパシられるおれの身にもなってほしいよ、あいつには。
っと、思ってるうちに購買に到着っと。
なるほど、今日はまだあるな右から二列目、焼きそばパン。
この調子なら並んでも買えぐふぉっ!?
「おいっ!押すなよ、気を付け――――」
「「「「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?っどけぇぇぇぇぇぇ!?っ殺すぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」」
な、なんだこいつらぁぁぁぁ!?
ありえねぇだろ! あろうことか合戦のようにけたたましく響く胴間声の数々が、雪崩を打ったように数十メートルはあろう廊下を占拠し、手足の動向は購買のパンへとささげられていたのだ。
「くそっ! なんてタイミングだっ! 野球部&ラグビー部っ!」
運の悪いことに端から端までガタイの良い部活の奴らばかりじゃねーか!
立ち込める熱気、パンを求めて高ぶる感情。押しつ押されつを繰り返しついには殺気を帯びてきた。
『どぉらぁぁ!よこせぇぁぁ!』
『おいっ! それかえせやくそがぁぁぁぁ!』
占めたっ! やつら焼きそばパンにはまだ目が行っていない。
やつらの狙いは肉、すなわちホットドックの取り合いだ。こうなれば焼きそばパンはまだ余裕が
……なん、だと。あと、一つだと!?
しまった……野球部の中でも最弱ゥ!一年生の存在を忘れていた。
くそ、やつら。バカを見るような目でホットドックに群がるやつらを見下していやがる!
競争率が低いからって焼きそばパンに甘んじよって……焼きそばパン買おうとしてるやつの気がしれねぇ。
意志をもて!意志を!自分の意志で買いたいモノを買えよ!妥協して、我慢して買いたくないものを買わされるなんてそんな……そんなんじゃ奴隷と同じじゃないかっ!※小牧 新は奴隷です。
くそ、こうなればイチかバチか……ある、必ず勝機は。
――――――――見極めろ人ごみを。
すっと、驚くほど簡単にゾーンに入った。行き交う人々その速度・質量・体積を問わずスローモーションに見えた。
列の右から二番目。右端のホットドックからの距離は一メートルもない。
ホットドックの群がりが晴れる一瞬、人ごみの合間のその波間、その間隙。
一筋のライン。
「見えた」
右足が勝手に、勝利への一歩を踏み出した。気が付けば目の前には焼きそばパンがあって、左隣のラグビー部員の妥協まみれに伸びる手が見えた。
求めよ、さらば与えられん。
欲しいものとは、心から求めた者こそが掴めるものだ。
おれは然りと口の端を吊り上げながら確かにその右腕を伸ばした。
× × ×
「……えー、ダメでした」
当たり前だ。日頃から筋肉を蓄えているやつらにフィジカルで叶うはずなど毛頭ない。つかんだ瞬間にぶんどられた、拳で焼きそばパンを。
しかし、そんな貧弱なおれが塩パン一つだけでも掴んで帰ってきたことを褒め称えるべきである。
それなのに……。
「……はぁ? 塩パンとか聴いてないんですけど~。まあ無かったならしょーがないし一応もらうけど」
息絶え絶えの満身創痍男にかける言葉がそれかよ?お前がのうのうと待っている間にこっちは死闘を繰り広げてきたんだぞくそがっ。
あえなくラグビー部の腕力に屈したわけだが善戦はした!
絶対にいつかひぃひぃ言わせてやる。同人誌みたいになっ!(心でキメ顔)
「……許せよ。一応ポアンは買って返ってきたんだよ。アホほめろ」
「ん、ご苦労さーん……なにそのポアン?ってパンだよ?バカなの?死ぬの?」
「おめぇが最初にポアンって言ったんだろ、おめぇが。誰がバカだ」
「ん~……もぐもぐ、おいしーかもー!」
「聞いてねーし。アル中になっとるし」
わしわしとおいしそーにおれの努力の結晶を持ち合わせのジュースと共に頬張ったゴシュジンサマーマザーファッカーはいつになく満足そうだった。
くっ、奴隷として働かされていることはもちろんだが。その無防備なのにちらちらと見えそうで見えないスカートに無性に腹が立つ。
見せろ、今すぐ。そして、嗅がせろバカタレ主人が。顔だけはいいせいかおれのパッシブスキル「可愛い女子にはキレないほうがいい童貞滅びの爆裂疾風弾」が発動してんのが最高にムカつくわ。おかげで彼女の蛮行をおれはだいたい許してきてしまっている。
「……むっ」
ひとしきり塩パンを自前のジュースと共に食し終えたアホは何やらそわそわとしながら左右を見渡し、そして最終的にはおれの方を見つめてきた。
「今度はなんだよ?」
「……えっと、その」
なんだこの期に及んで、言いよどむとは珍しい。もじもじと人差し指を胸の前でつき合わせはじめた。柄に無くあざといなこいつ。
「はっきり言えよ、ないならおれは寝る」
ま、どうせ呼んだだけとかそんなだろ。こういう時は決まっていつもそんなだし?
そうと決まれば早い。購買に買いに走った足の疲れと日頃のゲーム疲れも相まってどっとだるさが来た。
速攻で彼女の隣、自分の席に着き瞬時に突っ伏して寝る体制にセット。
いざ、まどろみのその先へっ!
「…………トイレ」
「は?」
「……トイレ行くのめんどくさい。あらたわたしの代わりに行ってきて」
「――――――――――えっと、翠果さん?いや、篠宮 翠果。いいか、よく聴け」
「……?うん」
「"排泄"は自分でしろ」
「……ぇ~……めんどぉ~」
露骨に嫌そうな顔をしながら、まるで世界一の無能を目の前にしたような顔でこちらを見ながら彼女は渋々とトイレへと続く教室後方の扉へと消えていった。
うん……これもまあ、いつも通り。
まったく、おれの主人(笑)篠宮 翠果はとんだめんどくさがりやなのである。
さて、改めて諸君に問おう。美少女に奴隷として飼いならされている普通の高校生ですけど、なにか?
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