渾身の1文
謝罪をした勢いで連絡先まで聞いた、俺史上2番目の事件から数日たった。
ちなみに1番目の事件は、まだ今のところ母親の失踪だ…。
本当毎日最高の気分だ。
西条さんにはあれから毎日連絡している。
返事は返ってこないけど、既読にはなる。
送ってくるなとも言われないし、きっといいってことだろうと思い、俺は日々の出来事や食べたものなどを連絡した。
願わくば、それにかこつけて聞いている、西条さんの好みなんかもしれたら嬉しいのだけれども…。
そんなことを思いながら、ここ数日気分良く仕事をしている。
すると、荷物の保管チェックに回っている横山さんが、
「なんだぁ律。最近やけに楽しそうじゃねーか」
「そうなんすよ! もう最高です!」
「なんだ? 例の女の子とくっついたのか?」
「いえ、連絡先を交換しました!」
と俺は親指を立てて言った。
「そ、そうか…。連絡先交換してそこまで喜ばれるなら、その女の子もよかっただろうな…」
と、少し引き気味に横山さんは言った。
「そうだといいんすけどねー」
「しかし、どんな子なんだ?」
「えっとですね、髪の毛が黒色で結構長くて、あ! この前初めて近くで見たんですけど、その髪の毛めっちゃ綺麗なんすよ!! なんかこう艶っとしてて」
と俺がまくしたてるように言うと、
「あぁ、うん、わかった。わからんけどわかった! 早く仕事しろ!」
「ういーっす」
そして俺はその日の仕事を終え、事務所に向かう。
今日は早朝勤務だったので、時間はまだ昼過ぎだ。
事務所に入ってきた俺を見て御園さんが、
「横山さんに聞いたよー? 連絡先交換したんだってー?」
「はい! 嫌われてなくてよかったです!」
と俺が勢いよく言うと、
「そ、そう、よかったわねー」
「でもこの後どうしたらいいのかさっぱりなんすよね」
「あら? そんなのご飯に行こうでも、お茶に行こうでもなんでもいいじゃない」
「なるほど…そうやって誘うのは迷惑にはならないっすかね?」
「誘うぐらいいでしょうよ。嫌だったら、なんらか理由をつけて断られるだろうし」
「なるほどっすね」
「あ、でもしつこいのはダメよ? 女はしつこいの嫌いだから!」
「りょ、了解っす! 気を付けます!」
「あ、でも、女の子のわがままは許してあげるのよ?」
「な、なるほど? 了解です!」
結構難しいんだな、女の人って。
確かに中学時代の部活に女子はいたし、もちろんよく話してもいた。
ただ、好きとか嫌いとかそういうんじゃなく、ただの友達としてだ。
いざ自分に好きな人ができたとなると、どうしていいのか全然わからない。
しかも最近の普通の若者は一体何に興味があるのだろう。
15歳からほとんど働いて、一番そう言うことに多感な時期をもう過ぎてしまった気がする。
ご飯に誘うって言ったって、なんだ? ファミレスか? 焼肉か? 流石に牛丼ではないとは思うんだが。
というか一緒にご飯に行くなら、俺はとっておきのあのお店にしたい。
まぁ雰囲気はあれだけど。
しかし、こうなるとネットで調べるぐらいしかないが、色々書かれているが、正直正解が全くわからない。
ネットの情報なんてどれも正解なようで、どれも不正解なような気もする。
もうこれは、数少ない友達に助けてもらうしかない…。
そう思い俺は、中学の時同じ卓球部だった、相澤圭太にLimeで連絡した。
圭太は俺も進学予定だった高校にそのまま進学し、今はなんかの専門学校に行っている。
急遽高校に行けなくなったことを伝えた時、本当に親身になってくれて、「生活が苦しくなったらすぐに連絡しろ。うちに住ませてやる」とまで言ってくれた。
仕事がみつかり、お世話になることはなかったが、それ以降も定期的に連絡を取っていて、お互いの状況をある程度知っている。
『圭太相談したいことがある』
『なにー?』
『俺好きな人ができたんだけど、連絡先は知れたんだがこの先どうしたらいいかわからない』
とメッセージを送り既読になった。
すると着信がきた。
「律、まじで?」
「え? なにが?」
「好きな人できたって」
「あぁ。まじ! 1年前ぐらいから好きだったんだけどさ! ついこの前連絡先を知れたんだ!」
「まじか! ついにお前にも春が来たか! ってかお前の容姿ならいつでも春来たはずなんだがな!」
「まぁ働き出してからは、同年代と話すことなんて圭太ぐらいしかほとんどなかったし」
「んでんで、どんな子なん?」
「えっと、黒髪で髪が長くて、本を読んでる姿が、なんかこう神々しいんだ」
「お、おう…なんかあんまり聞かない表現だな…まぁいいや…それは実際進んだら紹介してもらうとして…お前はその子とどうなりたいん?」
「そりゃ付き合いたい。ってかむしろ、もう好きだとも愛してるとも付き合いたいとも言った!」
「……そ、それで、相手はなんて?」
「んー、特にそれに対する回答はなかったかな? 初めて会いましたよね的な!」
「お、おう、だとすると、まぁ完全になしってわけじゃねーのか? もう順番がめちゃくちゃで状況が全くわからないけど」
「まぁ、好きなんだからそれを伝えることは悪いことじゃないだろ?」
「あぁ、まぁ、お前卓球やってるときもそうだったが、恋愛もそのままなんだな…まさか思ってることを全面で表現していくとは思わなかったわ…」
「そう? それでさー、職場の人に相談したら、ご飯に行くとかお茶に行くとかって言われたんだけど、今の若い人ってどういうところに行くといいのかと思って!」
「な、なるほどな…。まぁそれなら相談にのれるが、そもそも一緒に行ってくれるのか?」
「それは聞いてみないとわからない」
「んじゃまずはそこからだろ、ってかどこら辺に住んでる人なの?」
「えっと、うちの向こうの高台を下った住宅街辺りかな?」
「へぇ、まぁ近いなら、場所の検討もつけやすいな」
「確かに」
「しかし、その辺りで黒髪で髪が長い子ねぇ…ってお前…その子歳は?」
「18って言ってた!」
「髪の長さって腰上ぐらいまである?」
「うーん、確かあった気がするな」
「前髪も顎ぐらいまで長い?」
「うん、確かにそれぐらいな気がする。わけてるからわからないけど」
と俺が言うと圭太は沈黙した。
そして暫くすると、
「律、それ幽霊女じゃね?」
「幽霊女?」
「そう、俺のいとこがさそこら辺に住んでるんだけど、なんか俺らと同じ年で学校で幽霊女って呼ばれてるやつがいて、そいつが本当に見た目が幽霊みたいだって話してたぞ」
「へぇ。まずは誘うことから始めないとかー」
「り、律! 幽霊女だぞ? 友達誰もいないって言ってたぞ? 正気か?!」
「正気も何も幽霊じゃないし、俺はめっちゃ綺麗だなぁって思ってるし、俺が誘いたいって思ってんだからいいんじゃないの?」
「ま、まぁそれは確かにそうだが…」
「圭太ちなみにさ、ご飯とお茶ならどっちがいいのかな?」
「と、とりあえずお茶にしといたほうがいいんじゃねーか」
「了解! さんきゅー! とりあえず誘ってみるわ!」
「あ、うん、お、おう。しかし、あのイケメンの律が実はB専だったとは……」
「B専? 俺の倉庫での担当はCエリアだよ?」
「あ、うん、そ、そっか、まぁとりあえず! 誘ってOKだったら、店とか教えてやるからまた連絡して」
「りょうかーい! じゃなー」
そうして俺は通話を切ると、スマホで西条さんとのLime画面を出して、なんて送ろうか「うーんうーん」と考え出した。
そして1時間ほどかけて考え出した渾身の1文を送った。
『今度の土曜休みなのですが、もしご都合よければどこかカフェにでも行きませんか?』