【西条美緒視点】さっしました風
しかし、彼のことは今まで近所で見かけたことがないし、中学や高校でも会ったことがないと思う。
話を聞けば家は高台の更に奥っぽいし、そんな人がなんで休みの日にあのコンビニにいるんだろう。
私はそう思い、
「なんで…」
と途中まで話すと、
「なんででしょうか? 気づいたら好きになってました!」
と言った。
いや、そこが聞きたいわけじゃない…。
さっしました風に会話を進めないで頂戴……全然さっせてないから…。
「そうじゃなくて…」
と私が言うと再び、
「あ、すいません! 今日は久しぶりに夕方に仕事が終わりだったので!」
だーかーらーーー! 途中なんだっての! しかもずれてるから!!
「そうでもなくて……なんであのコンビニに…?」
「あ…そ、それはですね、丁度日曜日が休みの日があって、晴れてたのでもしかしたら本を読んでるかもしれないから、あそこから見えるかもしれないと思って…」
「思って…」
「ちょっとうちからは離れてるんですが、あの道を通るコンビニとスーパーに行こうとして、ここを見てみたんですがいなかったので、そのまま目的だったあのコンビニに向かった感じです…。すいません……」
「そうですか…」
「急に告白なんかしてしまってすいませんでした」
「い、いえ…」
と私が言うと、彼はなんだか閃いたように、
「あ、あの! 俺、樫木律って言います! 19歳です!」
いや、それさっき聞きましたよ…。
「…先ほど伺いました」
「そ、そうでしたね! あはは、あのお名前伺ってもよろしいですか??」
「西条…美緒です。18歳です」
「高校生ですか?」
「大学生です」
「じゃあ同じ年ですね!」
「そうですね」
「あの、俺1年前から好きなんです!」
「…そうですか」
「付き合ってください!」
「……私は今日初めてです。2回目ですけど……」
「そ、そうですよね!」
一体どういうことなんだ、この猪突猛進は。
嘘じゃなさそうというか、罰ゲームかなんかで言わされてる感じではなさそうなことは伝わってくるのだが、長年の知り合いのように話しかけてくる。
でも、チラッと見てみると、やっぱりこの前も思った通り、顔立ちがすごい整っていて身長も割と高めで、結構かっこいい人なんだと思う。
しかも明るくて、表裏がなさそうな感じで、普通にモテるだろこの人は。
そう思い私は言った。
「しかも、あなたかっこいいと思いますよ」
「あぁ、そんなことも言われますねぇ」
「私のこと知らないのですか?」
「知ってますよ! 1年前から!!」
いや、なんか聞きたいことと回答がずれている。
あってるんだけどずれてる。
ここら辺では有名な幽霊女よ私は?
「そうじゃなくて…」
「西条美緒さん18歳!!!」
だからーーー……もう埒が明かない…。
「……もういいです…。今日は帰ります……」
「あ、あの!」
「もうこのベンチは使いません……」
流石に1年も見られていたとなると少し怖い。
あぁ、さようなら、私の異世界ライフ……。
そう思いつつ落とした本を拾うと、彼が連絡先を聞きたいと言ってきたので、隠れてチラチラ見られるぐらいなら、まだそっちの方がいいかと思い連絡先を交換した。
家族以外で初めてLimeを交換した。
最初メールアドレスを出していた時代錯誤感を思い出すと少し恥ずかしい…。
そうして私は、再び逃げるように家に帰った。
家に帰り、なんだか落ち着かない感じで、大学の課題もできず小説も読めずに布団にごろごろしていると、スマホが鳴った。
樫木律くんからだ。
『今、家につきました! 大丈夫でしたか!? 送ればよかったです…。気が利かずすいません…』
と書いてある。
いやいや、送らなくて大丈夫です。
何なら幽霊な私は、下手な男子より安全です。
そうして私は既読はするものの返信することなくLimeを閉じた。
それからは、樫木君からはほぼ毎日連絡がきた。
『今日は職場でおかずをもらいました! 西城さんが好きな食べ物はなんですか?』
『見てください! 今日休みだったんでこれ作ってみたんです!』
『そう言えばどこの大学に行ってるんですか?』
私は返信をしていないので、もはやこれは彼のSNSだ。
本当いったい何を考えてるんだろう。
そもそも、正面から私を見ているわけで、普通に考えれば人違いだったとか思い違いだったとかわかりそうなものだが…。
唯一、
『今日は晴れてますが、公園いかないのですか?』
というメッセージにだけは返事をした。
『見られるのは嬉しいものじゃないのでもうしばらく行きません』
『そうですか、残念です! でも、ふとどきな輩は俺が撃退しますから、気が向いたら是非また!』
と返ってきた。
いやいや……あなたに見られていたことがきっかけなんですが……。
しかし、どうも彼のSNSと化したLimeに投稿される内容を見ると、1人暮らしのような雰囲気を感じる。
仕事は倉庫での仕事らしく、ここじゃなきゃできないってわけでもなさそうなのに、何で1人暮らしなんだろう。
普通に実家の近くでもありそうなもんだが…。
なんか山奥とかそう言う話なのかな……。
というか、私も大学生だし、バイトの1つぐらいやらないとな……。
でもこの見た目で雇ってくれるところが果たしてあるのだろうか。
そんなことを思いながら、今日も投稿されたLimeと言う名の、彼のSNSを見ると、
『今度の土曜休みなのですが、もしご都合よければどこかカフェにでも行きませんか?』
土曜日は大学も休みだし、予定は何もない。
でも…。
私は返事をするか悩み、答えが出ないので本を読みだした。