【西条美緒視点】私の異世界
謎の罰ゲームの襲撃を受けてから2週間程たった。
それ以降はこの前の人を見かけることもなく、とりあえず罰ゲームは終わったのかと安心していた。
そして、今日は晴れている。
家に帰ったらあの公園で本を読もう。
最近読みだしたものは冒険物だし、あの場所にぴったりだ。
そんなことを思いながら電車に乗ると、私の周りからさっと人がいなくなる。
いつもこうだ。
まぁもう慣れたもんだし、別にいい。
そう思って私は鞄から本を出して読みだした。
そして家の最寄り駅に着き、家に帰り、すぐに公園に向かった。
そしていつも通りベンチに座り、いつも通り私は異世界へ旅立った。
「あ、あの!!!!!!!!!!」
遠くから大声がしたので、そっちをチラッと見ると…罰ゲームの人だ………。
「あの!!!!!」
まだ終わってなかったのか……。
私はそう思って落胆すると本を落としてしまい、はぁと思っていると、
「こ、この前はすいませんでした!!!!!」
と遠くから大声で頭を下げた…。
なにか大声じゃないと話せない病気か何かなのだろうか…。
思わず私は小さな声で、
「いったいなんですか…」
とつぶやいた。
すると彼は、
「す、すいません! 離れていて聞こえないので!!!! もう少し近くにいってもいいですか!!!」
と言ってきた。
少し怖いけど、このままあんな大声で話されてたら人が集まってきてしまうかもしれない。
そうなるとまたヒソヒソされて、私の憩いの異世界が使えなくなってしまうかもしれない。
そう思い私はうなずいた。
彼は意を決したようにゆっくりと私の方に近づいてきて、2メートルぐらい離れたところで止まった。
すると再度、
「すいませんでした!!」
と頭を下げた。
さっきよりは少し大きな声で、
「……いったいなんですか………」
と聞くというより、文句を言ったつもりだった。
すると彼は、
「ずっと好きだったんです!!」
と、力強く言った。
私はそれを聞いて硬直した。
いやいやだって、周りに誰かいるような感じもしないし、もういいでしょそこまでやらなくても…。
もしかして付き合うという罰ゲーム? それだったら最悪だ…。永遠に続く……。
と私が硬直したまま考えていると、
「あ、いや、そうじゃなくて! あ、いや、好きなのは本当ですよ? お、俺は樫木律! 19歳です! お、俺、1年前ぐらいから、こ、このベンチで本を読んでるあなたに恋をしました!!」
私はそれを聞き、折角落ち着いてきたと思ったのに再び硬直してしまった。
い、1年前?!
た、確かに、1年前あたりは既にここで本を読んでいたけれども…
1年も見られていたというの?!
もしかしてストーカー??
と私が考えを巡らしていると、彼は、「えっと、あの…」としどろもどろになっている。
それを見ていたら、私をストーカーなんてそんな趣味の悪い人いないわよねと思って、
「な…なんの罰ゲームですか……悪質です」
と小さな声で言った。
すると彼は、頭の上に「?」を浮かべたような感じで、
「罰ゲーム? なにがですか??」
と聞いてきた。
はい? 罰ゲームじゃないの??
いや、でも、しらばっくれてるだけかもしれない。
そう思い、
「私はあなたを知りません…」
と言うと、彼は、
「す、すいません! もう少し近づいても大丈夫ですか? 聞こえなくて…」
と言うので、何度も同じ話するのも嫌なので頷いた。
そして彼は1メートルぐらいのところまで来たので、私は再び言った。
「…き、急にそんなことを言われても、私はあなたのことを知りもしません」
「そ、そうですね!」
「なんの罰ゲームでこんなことやってるんですか」
「いえいえ、罰ゲームなんかじゃありません! 本当に俺はあなたを愛してます!!」
はぁぁ?! と思ってチラッと彼を見ると必死な形相で、嘘ではないのか? と思ってしまったら、急に恥ずかしくなって私は固まってしまった。
だって、愛してますって…。
うちの両親でも言っているのを聞いたことないんだけど……。
そんなことを思いながら前髪の分かれ目から再度チラッと彼を見ると、頭を抱えて天を仰いでる。
それ見たら、
「本当、なんなんですか…」
と言っていた。
すると彼は、
「は、晴れた夕方にこのベンチで本を読んでますよね? それが俺の仕事の帰り道からチラッと見えて、いつの間にか好きになってたんです」
そう言いながら彼の指さす方を見ると、少し離れた高台へ上る坂道があった。
あんな遠くから見ていたというの? ストーカーと言うには随分控えめだ…。
「あ、あそこからここが丁度見えるんです! そ、それで、1年ほど、このベンチで本を読むあなたを見ていました!」
「…1年……」
私がボソッと言うと、
「あ、いや! ストーカーとかそういうんじゃなく! 声をかけられても迷惑だろうと思って、ほんとうチラッとあそこから見て、俺は満足してたんですが…こ、この前コンビニで思いがけず近くで会ってしまったので、勢い余って声をかけてしまいました…」
と一気にこっちを見て言うので、私は下を向いた。
なんでそんな人が私に声をかけたいの?
そもそも今目の前を見てわからないの?
私は幽霊女よ? 貞子よ? お化け女子よ?
下を向いてその人をチラッとみつつ、私はそんな自虐にも似た自己評価をしていた。