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末路と進路

そして次の日、美緒のお母さんにお礼を言い、俺はレストランの寮へ向かった。



それからはもう、寝る暇もないぐらい激動だった。


ゴミ捨てや皿洗いから始まり、包丁を持てたのは3か月後。


皆厳しいけど、別に理不尽なわけでもなく、しっかりと教えてくれる。


俺は基礎がないから、寝る間も惜しんで自主練した。




そして9カ月後ぐらいに、ようやくスープの出汁をとるようになった。




その間も美緒は合間を見つけては寮に来てくれて、俺の貯めてた洗濯物や掃除をしてくれて、本当に忙しくて会えない時は、置手紙と手料理まで置いて行ってくれた。



もうこの手料理がどんなものよりも美味しくて、俺は一緒にいるときに作って欲しいとお願いしたが、面と向かって料理人に料理を出すのは嫌だと断れて涙をのんだ。




休みが皆無と言うわけではないので、俺が休みの日は美緒ができる限り予定を調整してくれて少しでも来てくれる。


俺がずっと部屋で自主練をしている横で大学の課題をやっていたりもした。




美緒に聞いた話では、あの俺と美緒を題材にしたお父さんのシナリオは、なんと少しアレンジを加える形で採用されてしまったらしい。


お父さんはなんだか納得いかない感じみたいだけど、お母さんは「ホラ!」みたいな感じで、余計お母さんが強くなったらしい。


今ではお父さんが書くシナリオをお母さんがチェックしてから出してるらしい。


美緒がお母さんの真似をしながら、




「なにあなた、父親としては一理あるみたいな雰囲気出そうとしてんのこの親? あなたはもっとクズよ? 書き直し」




なんて言っているらしい。


それがなんか想像できて俺は笑ってしまった。






そして、驚くことに、庄司家が引っ越したらしい。


どうも庄司父親の書く小説を、原作として採用していたのも美緒のお父さんが持ってきていたからまぁこれでいいかと言う感じだったようで、別にダメってわけじゃないけど、すごいいってわけでもないからと、担当が変わったタイミングでどんどん採用数が減ってしまったらしい。


小説の方も、テレビや特番のネームバリューがあったからというのがあったようで、書籍化にたどり着くものも少なくなって、どうも収入が激減したらしいことを美緒のお父さんが言っていたと美緒から聞いた。



幼馴染くんはあれ以来一度だけ家に来たらしい、父親と一緒に。


そして、




「美緒ちゃんにちょっかいかけてすいませんでした。小さい頃のことも申し訳ありません」




と土下座させ、父親の方も、




「今まですまなかった。なんとか担当に戻ってくれないでしょうか」




と土下座したらしい。




結局お母さんが、




「どなたですか? お帰りください、警察呼びますよ! あなたは早くシナリオ書いて! ドラマの撮影もうすぐよ!」




とあからさまに挑発するように言って帰らせたと。



お母さんも庄司家には、相当溜まっているものがあったらしい。



お母さん吹っ切れてから、本当人が変わったのかと思うぐらい色々ハッキリ言うようなったからな。


本当美緒のことに責任を感じてたんだろうな。






その様子を、本当に明るくなった美緒が、ちょっとした劇のように部屋でやってくれて、2人で笑った。






俺は出汁を取り出してから、スーパーテイスター様様で、味の機微を見極めながら料理長にチェックを出して、異例の速さで前菜を作れるポジションになった。



それからも、様々な料理の技法や料理を学びつつ、自主練を深夜まで続け、早朝に下働きを済ませて、厨房に入るを繰り返した。



サポートでメインを作るようなってからは、少しずつ自分の料理を考え始めた。



色々考えた結果、俺の作りたい料理は美緒が屈託のない笑顔で美味しいと言ってもらう日常的なものであり、こういうお店の料理ではないという結論に行きついた。



しかし、まだまだ学べることも多いので、俺は貪欲にいろんなものにチャレンジさせてもらった。


もちろん早朝の下働きも続けている。


1年経ったぐらいで、年上の後輩なんかも入ってきたのだが、下働きで処理する料理の端材や仕込み、ゴミ捨てで残っているものなんかも勉強になるので、下働きは辞めなかった。




寮の他の人にも、変わってるなぁと言われつつも、俺は俺が作りたい料理を作れるようになるべく毎日を過ごした。





美緒はそのまま大学に通って、4年で卒業した。


在学中はずっとwiwiのモデルをやっていて、4年の時にはミスコンにも選ばれたらしい。


卒業後は一緒に色々相談して計画を立てて、美緒はそのまま1年間モデルとして活動した。


モデルをやりながら美緒は地元のファミレスでもアルバイトをした。





俺はと言うと、俺の作りたい料理は、やっぱり皆が食べて美味しいと言えるものだ。


高級美食ではない。






そう思い、マスターに修行をつけて欲しいと相談した結果、マスターは当時のマスターのキッチン三枝を畳んでその調理器具を移植する形で、一緒に新しく出店するかと言われた。


俺はまだここで学べることがあったため少し悩んだが、マスターに修行してほしいと思って、お金はこっちで出すからとお願いした。




そして、美緒は俺とずっと一緒にいたいと言っていて、俺も同じ気持ちだった。


だったらもう、仕事も一緒にしてしまおうということで、それまでに俺が料理の技術とお金を。


美緒は接客を。


と言う計画で進めてきたのだ。






そして俺はまだまだ学べることはあったけれども、3年でその店を辞めて、クリスマスも誕生日も全て美緒にも我慢してもらって貯めたお金を使って、マスターと一緒に店を出した。

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