ただの不審者
やっちまったーーーー。
絶対嫌われた…。
いざ声をかけるとなると、上手く言葉が出ず、思ってたことをそのまま言ってしまった…。
「はぁ…」
と休憩場所の椅子に座って俺がため息をつくと、同じく休憩場所にいた横山さんが、
「なんだぁ? 溜息なんてついて辛気くせぇ」
「いやぁ、実はっすね…」
俺はそう言って、1年ほど前から好きな人がいたこと、この前偶然コンビニで会ってしまって、思い切って声をかけたというか告白してしまったことを話した。
「がははははは、おめぇそりゃただの不審者だろぉ」
「そっすよねぇ」
「ってか、律にそんなストーカー気質があったとはなぁ」
「いやいや、本当は何度も声かけたかったっす」
「声かけりゃーよかったじゃねーか」
「俺、中卒っすよ? そんなやつに声かけられたって困るだけじゃないっすか」
「そんなん関係ねーだろー。律は顔立ちめっちゃイケメンなんだから、その子も喜ぶんじゃねーか?」
「逃げるように去っていきましたよ…?」
「あぁ、そりゃ、なんだ。頑張れ!」
というと、横山さんは、ガハハっと笑いながら休憩場所を出ていった。
「はぁ……」
せめて自己紹介とかにしとけばよかった…。
自己紹介どころか挨拶だけでもよかった。
いきなり告白って…。
俺が逆の立場でもどうかと思うよ………。
普通に考えて怖いじゃん…。
あぁぁ…俺の多分初恋………。
いやいや待て。
もうこうなった以上告白してしまった事実は変わらない。
であれば、もう押すしかない。
せめて嫌われた現状が変えられればそれだけでもいい!
あわよくば…と思ってしまうが、高望みはしない!
よし! そうと決まれば、次の晴れた夕方、公園に行こう。
俺はそう決めて仕事に戻った。
そうして2週間後、ついに訪れた晴れた夕方帰宅のタイミング!
本当はすぐにでも行きたかったのに…、こんな時に限って夕方上りがほとんどなかった上に、1回だけあった夕方上りは雨だった……。
「律ー、今日少し残業できっかー?」
そう荷物を持ってきた俺に、検品しながら横山さんが話しかけてきた。
「今日は無理っす。絶対無理っす!」
「んだよ、珍しいな」
「今日は例の人に謝って嫌われてる現状を改善する予定なんす!」
「あぁ、まだあれ引きずってたのか」
「引きずってないっすよ! 完全に前を向いてます!」
「そ、そうか…。まぁそういうことならしょうがねーから、今日は俺がやるか…」
「申し訳ないです」
「いいってことよ。今まで普通の若者がやるようなこと、なんもやってねーもんな律」
「いや、部活はやったっすよ」
「あー、まぁ…いいから今日はあがれ!」
「ういっす! んじゃおつしたー」
そう言って俺は持ってきた荷物を、横山さんの机に置いて事務所に向かった。
事務所に入ると、御園さんが、
「あら、律君今日はもうあがり?」
「うっす」
「最近遅かったもんねぇ」
「そっすね」
「…何急いでるのー?(ニヤニヤ)」
「いや別に…」
そう言うと、御園さんは近くに寄ってきてコソッと、
「横山さんに聞いたわよ~」
「な、なんすか」
「好きな子がいるんだってー?」
「そ、そうです…」
「今日なんかあるのー?」
「前進です!」
というと、御園さんはポカンとして、
「そ、そう。なんかよくわからないけど、頑張ってね!」
「ういっす! んじゃおつしたー」
そういうと俺はタブレット端末で退勤処理をして、急ぎ足で事務所を出た。
いつもの帰り道だが、なんだか違う感じだ。
そう思いながら俺は自転車をこいだ。
今日は帰り道というより、目的に向かう道だ。
そうして、いつもと国道からいつもとは違うコースに進み、目的の公園に向かった。
今日は晴れてるし、きっといるはずだ。
そして、公園らしき空間が見えて来て、その入口に自転車を止めた。
そしてチラッと中を覗いてみると………いた。
いつものベンチで本を読む長い黒髪の女性。
今日はチラッと見るだけじゃない!
ちゃんと謝って、話して、嫌われている現状を打破する!!
俺はよしっと意気込んで、公園の中に入った。
そんなに大きくない公園なのですぐ目的の場所に着く。
ただ、また逃げられたりしたら困ってしまうので、20メートルほど離れたところから、声をかけた。
「あ、あの!!!!!!!!!!」
すると女性は、少しだけ顔をあげてチラッと俺の方を見た。
「あの!!!!!」
と、俺が言うと、その人は持っていた本を落とした。
「こ、この前はすいませんでした!!!!!」
と言いながら俺は頭を下げた。
そして、彼女はしばらくの沈黙の後、何か言った。
ただ結構離れてるから何を言っているのか聞こえない。
「す、すいません! 離れていて聞こえないので!!!! もう少し近くにいってもいいですか!!!」
と俺が言うと、少し沈黙した後、コクっと小さくうなずいた。
俺は意を決して、彼女との距離を縮める。
10メートル…5メートル…3メートル……
ここら辺だろうと、2メートルぐらい離れたところで止まり、
「すいませんでした!!」
と俺は再度頭を下げた。
まずは謝罪謝罪謝罪…俺の頭はそれでいっぱいだった。